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雨の中に潜むそれは

第十五話

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「何で稗田がここに!」

焦る彼の向こうに黒い塊が見えた。

濡れた地面にまで付く長い髪は顔にへばりつき、残った髪は風になびいている訳でもないのに四方に伸びていた。

青白い肌にこけた頬、真っ白な服に目立つ血の跡、窪んだ目には眼球が無い。

あれが…雨女…

思わず怖くなって後ずさりする。

「帰れ!ここはお前が来ていい場所じゃない!」

学校での彼とは打って変わって大声を出す。

人格が変わったかのような彼の様子には焦りが見えていた。

帰りたい…思わずそう思ってしまうがダメだと思って顔を上げる。

「迷惑なのは分かってる。邪魔なのも分かってる!でも──」

その先は言えなかった。

雨女が雄叫びを上げたのだ。

ここで雨女が遮らなくても私は言えなかっただろう。

手伝いたいなんて…

訳が分からない…どうしてこんな事に自分から首を突っ込んだのか

何故こんな事に拘っているのか

『やち!あぶない!』

え、と顔を上げた時、雨女の髪が私の方へと物すごい速さで伸びてきたのだ。

思わず頭を抱え、しゃがんだ。

目を開けた時、視界の端に小柄な人影が見えた。

子供…?

男の子…?

そう思ってそちらを見るとその子供は恐怖によるものなのか分からないが、泣いていた。

“雨の日に泣いている子供が居ると大きな袋を担いで攫って行ってしまう…”

気付いた時には身体が動いていた。

男の子の居る方へ走り出していたのだ。

「待て、稗田!」

賀茂君が私を引き止める。

でもその声が放たれる頃には私は男の子の前まで来てしまっていたのだ。

「もう、大丈夫だよ。お姉ちゃんと一緒に行こう、だから、泣かないで」

私がそういうと男の子はうんと頷き、言った。

「分かっ…た…僕、も…泣かない…」

男の子は涙を拭いて私の方を見上げた。

「うん、偉いね」

よしよしと頭を撫でている時、疑問が湧いた。

ここは、妖の結界の中のはず、じゃあ…この男の子はどうやってここに…

おかしいと思った時はもう遅かった。

「ありがとう…お姉ちゃん」

男の子の口が笑みの形に歪んだ…
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