聖女は蝶と舞う

魔女と呼ばれた少女

１．忌子

「君は優秀な子供だね。大人の言うことをしっかり聞いて、行動に移してくれる。その上可愛いと来た。いやあ、私の息子に嫁に来て欲しいくらいだよ」

言われた真っ黒で艶やかな髪を持つ可愛らしい女の子は花が咲くように笑う。

「ありがとうございます」

そんな女の子の様子を見て大人は嬉しそうに笑う。

ああ、これは幼い頃の記憶だ。

この後この大人の言うことはもう分かっている。いや、知っている。

何度も何度も言われてきた言葉だ。

私が居る方へわざわざ視線を向けて汚い笑みを浮かべ、大人は言う。

「お姉さんとは正反対で本当に良い子だね」

私は目を伏せて俯く。

慣れている。慣れているのだ。

言われてしまうのは仕方がない。

私が普通じゃないから。常識から外れているから。

私は同い年くらいの子供にも、それより年上の大人にも疎まれてきた。

全ては私のこの容姿の所為。それだけでは無いかもしれないけれど、私を邪険にする殆どの人が私の異常な姿を理由にしているだろう。

真っ白な髪、モスグリーンの瞳。日本人なのに外国人の様な見た目。

外国人でもこんなに髪も肌も白く、色彩の無い目はして居ない。

そんな私を見た人は大抵こう言う。

“異質だ”と。

親にも忌まれる私は、軟禁状態で生活させられていた。

学校に行く以外の外出は殆ど許されていない。

自室には鍵をかけられ、食事は一緒に食べることは無い。

名を付けてもらう事も、学校への通学許可も、食事も部屋へ運んでもらえているだけ幸せな方なのかもしれない。

どれも親が世間体を気にしているおかげではあるのだが。

私は、誰とも知らない人が定めた幸せなんて要らない。私は、普通の幸せが欲しい。

親と、妹と一緒にご飯を食べて、学校の部活に参加して、友達と寄り道して、誰かと恋愛して、笑って過ごせるような、普通の日常が欲しい。

でも、それは無理なことで。幾ら望んでも、幾度願っても、私の望みが叶えられるわけがなかった。

冬が終わり、春へと移ろいゆく中、もうすぐ行われるのは私達三年生の卒業式。

高校を卒業したら、私はどうなるのだろう。

もう希うことさえ疲れてしまった。