93 / 101
93.サイダー
しおりを挟む
「行ってきます」
いつものように百円玉を握りしめて自宅の裏通りにポツンと置かれた自動販売機へと向かう。この自動販売機は私が幼い頃から設置されているのだが何年経ってもワンコインでジュースが買える愛護的な自販機だ。
炭酸好きな私はここへ足繁く通っている。最寄りのコンビニは遠いので意外に利用者は多い。
風呂上がりの火照った体を冷ますにもばっちりだ。ここへ向かうのが風呂上がりの楽しみになっている。
「フフフーン、フフフン」
鼻歌交じりで自動販売機まで向かう。スウェット姿に父さんのサンダルという色気も何もない服装だが、ここは私の庭、テリトリーなので問題ない。
ガチャン
お金を投入しいつものようにサイダーのボタンを押す。
缶が落ちる音がするとニヤニヤが止まらない。すぐに屈んでサイダーの缶を取り出す。
プシュッ
炭酸が抜ける音と細かい泡が弾ける音がする。缶を握る手が悴むほど冷え切ったサイダーは最高に美味い。
缶を口に近づけると上から缶を奪われた。さなざらサイダーが天に召されるように見えた。
「あぁ! サイダー!」
愛しのサイダーを奪ったのは一歳年上で幼馴染の瞬太だ。部活帰りらしく野球のユニフォームのままだ。喉が渇いていたのだろう……喉が何度も上下に動くのを私は見つめていた。
一番、一番美味しいところが…… !
「瞬ちゃんひどい! 私のサイダー!」
「愛菜は炭酸好きだけどそんなに飲めないだろ?」
「…………」
確かに私は炭酸は少し飲むだけで満足するタイプではある。だが、開けたてのサイダーは最高に好きだ! 譲りたくない!
「ほら……」
「…………やった」
怒った愛菜の顔を見てまずいと思ったのか瞬太はサイダー缶を手渡す。愛菜に笑顔が戻りいざ飲もうと缶を口に付ける。
「危ないっ!」
狭い路地を凄いスピードでスポーツカーが通り抜ける。瞬太は愛菜の腕を掴むと引き寄せた。
車が消えると瞬太は車が去った方角を睨む。
「危ないな……まったく……おい、愛菜──あ……」
愛菜の前髪や顔、そして胸元にサイダーがかかり濡れていた……そして缶の本体は無残にも床に転がっていた。
「あ、あの……愛菜──」
「……帰る」
愛菜はそのまま家へと歩き出した。瞬太は慌ててカバンから財布を出しサイダーのボタンを連打する。出てきたサイダーを握り愛菜の後を追う。
「……ちょっと待て! 愛菜! 悪かった!」
愛菜の前を遮ると手にサイダーの缶を握らせる。
「…………」
「ごめん、ふざけすぎた」
愛菜は泣いていた。幸せな時間を奪われて愛菜は悲しかった。風呂も入り直さなければならない。幸せな時間が最悪なものになった。
年甲斐もなく泣いてるのを瞬太にバレたくなかった。炭酸ジュース如きでと思われそうだ。
恥ずかしくて愛菜が瞬太の顔を見てより一層泣き出してしまう。瞬太は部活カバンを放り投げると愛菜の肩を抱くと泣き止むように背中を撫でる。
「泣き虫だな──泣き止めって!」
愛菜は泣き止まない。通り過ぎた犬の散歩中の中年の女性が非難の目で瞬太を見た。
「くそ……しょうがない」
瞬太は愛菜の額にキスをした。
幼い頃から泣き止まない愛菜に瞬太はキスをしていた。こうすると愛菜はどんなに泣いていても不思議と泣き止んだ。
案の定愛菜は泣き止み瞬太を見上げる。ただ、私たちは幼くはない……愛菜が真っ赤になっていると瞬太も反応して頬を赤らめた。もう何年もこのおまじないはしていなかった。
愛菜を泣かせるシュチュエーションがなくなっていた。
「あー……なんか、甘いな」
「サイダーが掛かってたから……」
「そうか、それでなんだな、そう……だよな」
瞬太はカバンを持ちそのまま立ち去った。
愛菜はもらったサイダーを開けて一口飲んだ。爽やかなサイダーが喉を通っていく。
「何か……いつもより、甘い?」
一人首を傾げた愛菜だった。
いつものように百円玉を握りしめて自宅の裏通りにポツンと置かれた自動販売機へと向かう。この自動販売機は私が幼い頃から設置されているのだが何年経ってもワンコインでジュースが買える愛護的な自販機だ。
炭酸好きな私はここへ足繁く通っている。最寄りのコンビニは遠いので意外に利用者は多い。
風呂上がりの火照った体を冷ますにもばっちりだ。ここへ向かうのが風呂上がりの楽しみになっている。
「フフフーン、フフフン」
鼻歌交じりで自動販売機まで向かう。スウェット姿に父さんのサンダルという色気も何もない服装だが、ここは私の庭、テリトリーなので問題ない。
ガチャン
お金を投入しいつものようにサイダーのボタンを押す。
缶が落ちる音がするとニヤニヤが止まらない。すぐに屈んでサイダーの缶を取り出す。
プシュッ
炭酸が抜ける音と細かい泡が弾ける音がする。缶を握る手が悴むほど冷え切ったサイダーは最高に美味い。
缶を口に近づけると上から缶を奪われた。さなざらサイダーが天に召されるように見えた。
「あぁ! サイダー!」
愛しのサイダーを奪ったのは一歳年上で幼馴染の瞬太だ。部活帰りらしく野球のユニフォームのままだ。喉が渇いていたのだろう……喉が何度も上下に動くのを私は見つめていた。
一番、一番美味しいところが…… !
「瞬ちゃんひどい! 私のサイダー!」
「愛菜は炭酸好きだけどそんなに飲めないだろ?」
「…………」
確かに私は炭酸は少し飲むだけで満足するタイプではある。だが、開けたてのサイダーは最高に好きだ! 譲りたくない!
「ほら……」
「…………やった」
怒った愛菜の顔を見てまずいと思ったのか瞬太はサイダー缶を手渡す。愛菜に笑顔が戻りいざ飲もうと缶を口に付ける。
「危ないっ!」
狭い路地を凄いスピードでスポーツカーが通り抜ける。瞬太は愛菜の腕を掴むと引き寄せた。
車が消えると瞬太は車が去った方角を睨む。
「危ないな……まったく……おい、愛菜──あ……」
愛菜の前髪や顔、そして胸元にサイダーがかかり濡れていた……そして缶の本体は無残にも床に転がっていた。
「あ、あの……愛菜──」
「……帰る」
愛菜はそのまま家へと歩き出した。瞬太は慌ててカバンから財布を出しサイダーのボタンを連打する。出てきたサイダーを握り愛菜の後を追う。
「……ちょっと待て! 愛菜! 悪かった!」
愛菜の前を遮ると手にサイダーの缶を握らせる。
「…………」
「ごめん、ふざけすぎた」
愛菜は泣いていた。幸せな時間を奪われて愛菜は悲しかった。風呂も入り直さなければならない。幸せな時間が最悪なものになった。
年甲斐もなく泣いてるのを瞬太にバレたくなかった。炭酸ジュース如きでと思われそうだ。
恥ずかしくて愛菜が瞬太の顔を見てより一層泣き出してしまう。瞬太は部活カバンを放り投げると愛菜の肩を抱くと泣き止むように背中を撫でる。
「泣き虫だな──泣き止めって!」
愛菜は泣き止まない。通り過ぎた犬の散歩中の中年の女性が非難の目で瞬太を見た。
「くそ……しょうがない」
瞬太は愛菜の額にキスをした。
幼い頃から泣き止まない愛菜に瞬太はキスをしていた。こうすると愛菜はどんなに泣いていても不思議と泣き止んだ。
案の定愛菜は泣き止み瞬太を見上げる。ただ、私たちは幼くはない……愛菜が真っ赤になっていると瞬太も反応して頬を赤らめた。もう何年もこのおまじないはしていなかった。
愛菜を泣かせるシュチュエーションがなくなっていた。
「あー……なんか、甘いな」
「サイダーが掛かってたから……」
「そうか、それでなんだな、そう……だよな」
瞬太はカバンを持ちそのまま立ち去った。
愛菜はもらったサイダーを開けて一口飲んだ。爽やかなサイダーが喉を通っていく。
「何か……いつもより、甘い?」
一人首を傾げた愛菜だった。
1
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる