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92.ヤンキー
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授業が終わり皆和やかな空気でカバンに教科書を詰めだした。慌てて荷物を持ち後ろの教室のドアから走って出て行く生徒もいる。
そんな中……前のドアから逆に教室に入ってきた人物がいた。黒髪しかいない教室に赤髪の長身の男が入ってきた。一瞬皆手を止めてその人物を凝視する。
見るからにヤンキーの彼は教室を見渡した。
静まり返った教室に彼の声が響いた。
「……安原さんは、いるか?」
その言葉に皆一斉に紗南の方を振り返る。その瞳には驚愕と哀れみの色が含まれている。
「へ?」
掃除当番で箒を持っていた私と目が合うと皆慌ててドアから雪崩れるように出て行く。
「お疲れ!」
「バイトが……」
「部活が……」
さっきまで雑巾を持って掃除をしようとしていた同じ掃除当番の子ですら私を見捨てて消えた。
教壇の近くに立っていた赤髪の人物は紗南を見つけると嬉しそうに微笑んだ。
「安原さん、ちょっと裏に来てもらっていい?」
やばい、裏ってあのケンカが良く行われる場所のことだ。人気もいないのでもしかしたらそこで無理矢理体を……あぁ、マズイ! めちゃピンチ!
何か怒らせることをしたのかもしれない……財布の中にある札の枚数を思い出す。どうにかそれで許してもらえないだろうか。
「そ、掃除──してからでいいですか?」
少しでも落ち着いてもらおうと時間を稼ごうとする。彼は拍子抜けしたような顔をしたがそのまま机に座り頷いた。
赤髪の彼は有名人だ。鬼嶋という苗字なので他校に赤鬼と呼ばれる有名ヤンキーだ。一学年上だが、ここ最近学校で見かける事が多い。とうとう真面目になったのかと皆噂していた。
「俺、動かすね」
「あ、すみません」
広い教室を一人箒で掃いているとなぜか鬼嶋が手伝いだした……鬼嶋は黙々と机を動かす。どうして手伝ってくれているのだろうか分からないが有難い。
掃除が終わると鬼嶋は紗南を見つめた。紗南はカバンから財布を取り出すと恐る恐る二千円を手渡す。
「あの、コレ──あの、手持ちがこれしか……」
紗南と札の金を交互に見て鬼嶋は首を傾げる。
「えーっと、俺金を巻き上げに来たんじゃないんだけど」
「へ? じゃあ、何ですか?」
紗南の真ん丸とした大きな瞳が鬼嶋を捉える。至近距離の純粋な瞳に鬼嶋は照れ出した。
「あー、えっと……好きなんだ、安原さんのこと。その、付き合って欲しい──」
「…………ほお」
紗南は思わぬ告白に反応できない。校長先生のような返事しかできない。
「オッケーってこと?」
「いや、いやいや、罰ゲームですか? やめてください。それなら、お金払いますから……それでなんとか……」
紗南は真っ赤な顔を隠そうと頰を両手で包む。
「罰ゲームじゃない、俺、安原さんが好きだ」
「……初対面ですよね? いや、さすがにちょっと……掃除手伝ってもらっちゃってすみません──」
紗南がカバンを持ちいつでも逃げられるように体をドアの方に向ける。鬼嶋が不機嫌そうに紗南のカバンを掴み立ち去れないようにする。
その表情はまさに笑う鬼だ。
「学食で会ってる。最近何日も連続でクリームパンゲット出来ているだろう? なぜだか分かるか?」
我が高校には人気のパンがある。幻のクリームパンと呼ばれるパンで二限目の休憩時間のみに販売されるレア商品だ。
なぜか、ここ数日嘘のようにゲットできていた。魔法のように人の波をかき分け買えていた。どうやら、必死で気づいてなかったが真後ろに鬼嶋が立っていたらしい。全く気がつかなかった。目の前のクリームパンしか見えていなかった。
「まさか、気付かないとはな……」
「す、すみません……」
「とりあえず……付き合ってくれ。それで良い」
鬼嶋の言葉に紗南はどうしていいか分からず戸惑う。真っ青な顔をして顔の筋肉を引き攣らせる。鬼嶋は面白くない顔をしたが、何かを閃いたようだ。
「じゃ、五日分のクリームパン分の御礼として頬にキスしろ。そうしたら引き下がる」
「えぇ! いいんですか!? やったぁ!」
紗南は嬉しくて飛び上がりそうだ。
鬼嶋は紗南の前に少し屈むと左の頬を指で指した。
「ここに、やれ」
「はいはい! 今すぐします!」
紗南はご機嫌だ。そのままゆっくりと唇を近づけていく……もう触れる……その時鬼嶋が笑った。
「……甘いな」
そのまま顔を回旋させると紗南の唇が鬼嶋のものと重なった。一気に柔らかい感触が紗南を包み込み、それだけじゃ足らず舌まで入ってきた。
ファーストキスは、こうして終わった。
逃げられないように頭が後ろに添えられて自由がない。呼吸もできない。
ようやく解放された時、紗南は抵抗する声すら上げられないほど呆然と魂が抜けていた。
「じゃ、今日のところは引き下がる。じゃあね、安原さん」
鬼嶋は手を振ると教室をあとにした。残された紗南は一分後大きな叫び声を上げた。
そんな中……前のドアから逆に教室に入ってきた人物がいた。黒髪しかいない教室に赤髪の長身の男が入ってきた。一瞬皆手を止めてその人物を凝視する。
見るからにヤンキーの彼は教室を見渡した。
静まり返った教室に彼の声が響いた。
「……安原さんは、いるか?」
その言葉に皆一斉に紗南の方を振り返る。その瞳には驚愕と哀れみの色が含まれている。
「へ?」
掃除当番で箒を持っていた私と目が合うと皆慌ててドアから雪崩れるように出て行く。
「お疲れ!」
「バイトが……」
「部活が……」
さっきまで雑巾を持って掃除をしようとしていた同じ掃除当番の子ですら私を見捨てて消えた。
教壇の近くに立っていた赤髪の人物は紗南を見つけると嬉しそうに微笑んだ。
「安原さん、ちょっと裏に来てもらっていい?」
やばい、裏ってあのケンカが良く行われる場所のことだ。人気もいないのでもしかしたらそこで無理矢理体を……あぁ、マズイ! めちゃピンチ!
何か怒らせることをしたのかもしれない……財布の中にある札の枚数を思い出す。どうにかそれで許してもらえないだろうか。
「そ、掃除──してからでいいですか?」
少しでも落ち着いてもらおうと時間を稼ごうとする。彼は拍子抜けしたような顔をしたがそのまま机に座り頷いた。
赤髪の彼は有名人だ。鬼嶋という苗字なので他校に赤鬼と呼ばれる有名ヤンキーだ。一学年上だが、ここ最近学校で見かける事が多い。とうとう真面目になったのかと皆噂していた。
「俺、動かすね」
「あ、すみません」
広い教室を一人箒で掃いているとなぜか鬼嶋が手伝いだした……鬼嶋は黙々と机を動かす。どうして手伝ってくれているのだろうか分からないが有難い。
掃除が終わると鬼嶋は紗南を見つめた。紗南はカバンから財布を取り出すと恐る恐る二千円を手渡す。
「あの、コレ──あの、手持ちがこれしか……」
紗南と札の金を交互に見て鬼嶋は首を傾げる。
「えーっと、俺金を巻き上げに来たんじゃないんだけど」
「へ? じゃあ、何ですか?」
紗南の真ん丸とした大きな瞳が鬼嶋を捉える。至近距離の純粋な瞳に鬼嶋は照れ出した。
「あー、えっと……好きなんだ、安原さんのこと。その、付き合って欲しい──」
「…………ほお」
紗南は思わぬ告白に反応できない。校長先生のような返事しかできない。
「オッケーってこと?」
「いや、いやいや、罰ゲームですか? やめてください。それなら、お金払いますから……それでなんとか……」
紗南は真っ赤な顔を隠そうと頰を両手で包む。
「罰ゲームじゃない、俺、安原さんが好きだ」
「……初対面ですよね? いや、さすがにちょっと……掃除手伝ってもらっちゃってすみません──」
紗南がカバンを持ちいつでも逃げられるように体をドアの方に向ける。鬼嶋が不機嫌そうに紗南のカバンを掴み立ち去れないようにする。
その表情はまさに笑う鬼だ。
「学食で会ってる。最近何日も連続でクリームパンゲット出来ているだろう? なぜだか分かるか?」
我が高校には人気のパンがある。幻のクリームパンと呼ばれるパンで二限目の休憩時間のみに販売されるレア商品だ。
なぜか、ここ数日嘘のようにゲットできていた。魔法のように人の波をかき分け買えていた。どうやら、必死で気づいてなかったが真後ろに鬼嶋が立っていたらしい。全く気がつかなかった。目の前のクリームパンしか見えていなかった。
「まさか、気付かないとはな……」
「す、すみません……」
「とりあえず……付き合ってくれ。それで良い」
鬼嶋の言葉に紗南はどうしていいか分からず戸惑う。真っ青な顔をして顔の筋肉を引き攣らせる。鬼嶋は面白くない顔をしたが、何かを閃いたようだ。
「じゃ、五日分のクリームパン分の御礼として頬にキスしろ。そうしたら引き下がる」
「えぇ! いいんですか!? やったぁ!」
紗南は嬉しくて飛び上がりそうだ。
鬼嶋は紗南の前に少し屈むと左の頬を指で指した。
「ここに、やれ」
「はいはい! 今すぐします!」
紗南はご機嫌だ。そのままゆっくりと唇を近づけていく……もう触れる……その時鬼嶋が笑った。
「……甘いな」
そのまま顔を回旋させると紗南の唇が鬼嶋のものと重なった。一気に柔らかい感触が紗南を包み込み、それだけじゃ足らず舌まで入ってきた。
ファーストキスは、こうして終わった。
逃げられないように頭が後ろに添えられて自由がない。呼吸もできない。
ようやく解放された時、紗南は抵抗する声すら上げられないほど呆然と魂が抜けていた。
「じゃ、今日のところは引き下がる。じゃあね、安原さん」
鬼嶋は手を振ると教室をあとにした。残された紗南は一分後大きな叫び声を上げた。
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