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81.失恋
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「……ごめん、別れよう──好きな子が出来た」
「……もう、ダメなの? 私、俊哉のこと──」
俊哉は私から顔をそらして小さく「ごめん」と呟いた。私が何も言えないでいると俊哉は私を一人残し立ち去った……。
しばらくぼうっとその場に立っていた。
駅の広場で別れ話をするなんてひどい。これから何度もこの駅を使うのに、その度に悲しい思い出に浸らないといけないなんて最低だ。
圭は泣きたいのに泣けなかった。こんなに多くの人が行き交うところで泣いてしまえば注目される。堪えろ……堪えなきゃ──。
「益田?」
顔を上げるとバイト仲間の久城がいた。横には大学の友達だろうか、男女混じりの団体が目の前にいる。
「なに? クッシーの友達? 彼女? 可愛いじゃん」
「ちょっと……お前やめろって……ごめん
益田」
「いや、大丈夫……」
私の顔を見た久城は友達に別れを告げると私の横に立った。
「……何してんの?」
「彼氏待ちでしょ? それまで付き合う」
「修羅場になるから帰って……」
さっき別れたとは言えない。フラれたばっかりだと言えない。言ってしまえば現実に引き戻されそうだ。
久城の手荷物には沢山の遊び道具が入っている。その中に野球ボールがあった。圭がそれを見ていると久城がはにかむように笑った。
「そこの公園で、やる?」
「……やる」
そのまま駅から離れていくと小さな公園がある。晩のこの時間はさすがに誰もいない。
久城は街灯のそばにカバンを置くとボールとグローブを圭に手渡す。
「はい、じゃ、益田からね」
静かにキャッチボールが始まった。最初は力加減がわからなかったが徐々にコツを掴んできた。「上手いじゃん」と久城が笑う。しばらく無言で飛ぶボールだけを見つめていた。
「久城……彼氏にフラれた」
「うん、だろうな」
久城は驚くこともせずボールを投げ返す。
「最低だよ、好きな子が出来たんだって」
「なるほどな」
圭は思いっきり久城に向かってボールを投げる。それをキャッチすると久城はなぜか笑っていた。
「 なんで笑うの?」
「うん、嬉しいから」
圭は眉間のしわを寄せてボールをキャッチする。
「趣味悪いよ、人の不幸を……」
「俺にはチャンスだ──ようやく益田がフリーになった」
投げ返そうとしたボールは投げ返せなかった……。
「益田、俺お前が好きだから」
今、何て言った?
久城は恋愛に興味ないって言っていた。お客さんにアピールされてもなびかなかったあの久城が? まさか、冗談でしょう?
「励まそうとしてそんな冗談……久城が恋愛に興味ないの知ってるんだよ?」
「そう言えば益田は安心して俺がそばにいても嫌がらなかっただろう?」
「…………」
久城が街灯の近くへと戻ってくる。だんだんと近付いてくる久城の顔を見て胸が痛くなる。
表情にあまり出ない。クールな男だと思っていた。それなのに……。
「嘘、じゃない──フラれた時に言うものじゃないけど……早く言わなきゃ益田はすぐに他の奴に取られるから……」
久城?
目の前の久城は耳まで赤いのが分かるぐらい肌が赤く染まっている。その顔を見て本気なのだと伝わった。久城は本当に私のことを──。
何故だかわからないけど涙が出た。
泣き出した私を見て久城は驚いたようだ。
「ごめん──泣かせる気は……」
「いや、違うの……よく分かんないだけど……どうしちゃったんだろ……」
圭が泣くと久城はそっと頭を包み込み自分の胸へと近づけた。突然久城の匂いに包まれた。
「……泣けば? 我慢してたんだから」
久城の胸で泣いた。久城は私の頭や額にそっと口付けた。その温もりが優しくて久城の服を掴んだ。久城はずっと圭の頭を撫でた。
「……もう、ダメなの? 私、俊哉のこと──」
俊哉は私から顔をそらして小さく「ごめん」と呟いた。私が何も言えないでいると俊哉は私を一人残し立ち去った……。
しばらくぼうっとその場に立っていた。
駅の広場で別れ話をするなんてひどい。これから何度もこの駅を使うのに、その度に悲しい思い出に浸らないといけないなんて最低だ。
圭は泣きたいのに泣けなかった。こんなに多くの人が行き交うところで泣いてしまえば注目される。堪えろ……堪えなきゃ──。
「益田?」
顔を上げるとバイト仲間の久城がいた。横には大学の友達だろうか、男女混じりの団体が目の前にいる。
「なに? クッシーの友達? 彼女? 可愛いじゃん」
「ちょっと……お前やめろって……ごめん
益田」
「いや、大丈夫……」
私の顔を見た久城は友達に別れを告げると私の横に立った。
「……何してんの?」
「彼氏待ちでしょ? それまで付き合う」
「修羅場になるから帰って……」
さっき別れたとは言えない。フラれたばっかりだと言えない。言ってしまえば現実に引き戻されそうだ。
久城の手荷物には沢山の遊び道具が入っている。その中に野球ボールがあった。圭がそれを見ていると久城がはにかむように笑った。
「そこの公園で、やる?」
「……やる」
そのまま駅から離れていくと小さな公園がある。晩のこの時間はさすがに誰もいない。
久城は街灯のそばにカバンを置くとボールとグローブを圭に手渡す。
「はい、じゃ、益田からね」
静かにキャッチボールが始まった。最初は力加減がわからなかったが徐々にコツを掴んできた。「上手いじゃん」と久城が笑う。しばらく無言で飛ぶボールだけを見つめていた。
「久城……彼氏にフラれた」
「うん、だろうな」
久城は驚くこともせずボールを投げ返す。
「最低だよ、好きな子が出来たんだって」
「なるほどな」
圭は思いっきり久城に向かってボールを投げる。それをキャッチすると久城はなぜか笑っていた。
「 なんで笑うの?」
「うん、嬉しいから」
圭は眉間のしわを寄せてボールをキャッチする。
「趣味悪いよ、人の不幸を……」
「俺にはチャンスだ──ようやく益田がフリーになった」
投げ返そうとしたボールは投げ返せなかった……。
「益田、俺お前が好きだから」
今、何て言った?
久城は恋愛に興味ないって言っていた。お客さんにアピールされてもなびかなかったあの久城が? まさか、冗談でしょう?
「励まそうとしてそんな冗談……久城が恋愛に興味ないの知ってるんだよ?」
「そう言えば益田は安心して俺がそばにいても嫌がらなかっただろう?」
「…………」
久城が街灯の近くへと戻ってくる。だんだんと近付いてくる久城の顔を見て胸が痛くなる。
表情にあまり出ない。クールな男だと思っていた。それなのに……。
「嘘、じゃない──フラれた時に言うものじゃないけど……早く言わなきゃ益田はすぐに他の奴に取られるから……」
久城?
目の前の久城は耳まで赤いのが分かるぐらい肌が赤く染まっている。その顔を見て本気なのだと伝わった。久城は本当に私のことを──。
何故だかわからないけど涙が出た。
泣き出した私を見て久城は驚いたようだ。
「ごめん──泣かせる気は……」
「いや、違うの……よく分かんないだけど……どうしちゃったんだろ……」
圭が泣くと久城はそっと頭を包み込み自分の胸へと近づけた。突然久城の匂いに包まれた。
「……泣けば? 我慢してたんだから」
久城の胸で泣いた。久城は私の頭や額にそっと口付けた。その温もりが優しくて久城の服を掴んだ。久城はずっと圭の頭を撫でた。
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