79 / 101
79.カラオケ
しおりを挟む
「おもーいではーいつの日も──……」
パチパチパチパチ
歌い終わると悲しい拍手が巻き起こった。拍手を受けた私は演歌歌手のようにゆっくりとお辞儀をした。
「えーっと、次の泣ける曲は……」
「いや、一曲目からずっとこんなテンションでいくの?」
横に座る中学からの友人の畠山が溜息をつく。居酒屋で飲んだ後にカラオケに付き合わされて怠そうだ。今日は私の失恋パーティだ。三日前に一年付き合った彼氏にフラれた。突然だった……上手くいっているとばかり思い込んでいた。突然すぎてショックは日が経つにつれ倍増していく。
「好きだったのにな……」
「桂子……それ俺に言ってる? それとも歌の題名?」
「ハタケ……恋なんてつらいね、もうそんなのすっ飛ばして結婚したい」
「好きでも無いやつと結婚なんて考えただけで嫌だ」
畠山の言葉に桂子は顔を上げた。
意外だった。恋愛に淡白な男だと思っていた。結婚願望も聞いたことなかったし、顕微鏡か試験管と結婚するのかと思っていたぐらい研究の仕事に没頭している男だ。
意外だ……ちゃんと考えているんだ。
「好きな人がいるの? ハタケ……ミドリムシ以外に」
「喧嘩売ってんの? バカにすんなよミクロの世界を──ってか歌えよ」
ハタケは私にリモコンを押し付けた。私はしょうがないので頭に浮かんだ曲を入れる。
私は曲のイントロ部分の音楽が流れ始めるとすぐに選曲ミスに気づく。元彼がよく聞いていた曲だ。一緒に過ごした日々を思い出す。二人の笑顔の思い出が頭を駆け巡る──。
あ、だめだ。
歌い始めたが声が震え出した。桂子の様子がおかしい事に気付き、携帯電話を見ていた畠山がゆっくりと顔を上げた。
横に座る桂子は真顔で歌いながら涙を流して歌っている。暗い部屋でテレビに映る映像の光が桂子の頰を流れる涙に映える。
バカなやつ。
一途なのにいつもフラれるいい人すぎるバカなやつ。
俺の気持ちも知らないバカなやつ──俺の好きな、バカなやつ。
畠山は桂子のマイクを奪うとそのまま抱きしめた。
え?
抱きしめられている間、時間が止まったようだった。部屋に流れる音楽が時を知れる唯一のものだった。
「ハタケ……」
「泣くな。泣かれると困る……」
「じゃあ……一緒に歌ってくれる?」
畠山は頭を掻くとぶっきらぼうに頷いた。
それから桂子の鬼のデュエット曲メドレーが始まった。
最後は立ち上がり肩を組んで歌った。愛がテーマのデュエット曲までやり切ると桂子は楽しそうに笑った。畠山は疲れ切ったようにソファに座った。
「……もういいか? 喉が痛い」
「うん、いいよ……ハタケ」
「ん?」
畠山が呼ばれて顔を上げるとその頰に桂子はキスをした。一瞬の事なのに血が沸きそうになるぐらい顔が熱くなる。
「ありがと、ハタケ」
「……おう」
畠山はそう答えるだけで精一杯だった。心臓が痛い。気持ちを伝えたいが、奥手な自分には無理だ。
畠山はそのままリモコンを操作し始めた。その姿を見た桂子は隠れて微笑んだ。
パチパチパチパチ
歌い終わると悲しい拍手が巻き起こった。拍手を受けた私は演歌歌手のようにゆっくりとお辞儀をした。
「えーっと、次の泣ける曲は……」
「いや、一曲目からずっとこんなテンションでいくの?」
横に座る中学からの友人の畠山が溜息をつく。居酒屋で飲んだ後にカラオケに付き合わされて怠そうだ。今日は私の失恋パーティだ。三日前に一年付き合った彼氏にフラれた。突然だった……上手くいっているとばかり思い込んでいた。突然すぎてショックは日が経つにつれ倍増していく。
「好きだったのにな……」
「桂子……それ俺に言ってる? それとも歌の題名?」
「ハタケ……恋なんてつらいね、もうそんなのすっ飛ばして結婚したい」
「好きでも無いやつと結婚なんて考えただけで嫌だ」
畠山の言葉に桂子は顔を上げた。
意外だった。恋愛に淡白な男だと思っていた。結婚願望も聞いたことなかったし、顕微鏡か試験管と結婚するのかと思っていたぐらい研究の仕事に没頭している男だ。
意外だ……ちゃんと考えているんだ。
「好きな人がいるの? ハタケ……ミドリムシ以外に」
「喧嘩売ってんの? バカにすんなよミクロの世界を──ってか歌えよ」
ハタケは私にリモコンを押し付けた。私はしょうがないので頭に浮かんだ曲を入れる。
私は曲のイントロ部分の音楽が流れ始めるとすぐに選曲ミスに気づく。元彼がよく聞いていた曲だ。一緒に過ごした日々を思い出す。二人の笑顔の思い出が頭を駆け巡る──。
あ、だめだ。
歌い始めたが声が震え出した。桂子の様子がおかしい事に気付き、携帯電話を見ていた畠山がゆっくりと顔を上げた。
横に座る桂子は真顔で歌いながら涙を流して歌っている。暗い部屋でテレビに映る映像の光が桂子の頰を流れる涙に映える。
バカなやつ。
一途なのにいつもフラれるいい人すぎるバカなやつ。
俺の気持ちも知らないバカなやつ──俺の好きな、バカなやつ。
畠山は桂子のマイクを奪うとそのまま抱きしめた。
え?
抱きしめられている間、時間が止まったようだった。部屋に流れる音楽が時を知れる唯一のものだった。
「ハタケ……」
「泣くな。泣かれると困る……」
「じゃあ……一緒に歌ってくれる?」
畠山は頭を掻くとぶっきらぼうに頷いた。
それから桂子の鬼のデュエット曲メドレーが始まった。
最後は立ち上がり肩を組んで歌った。愛がテーマのデュエット曲までやり切ると桂子は楽しそうに笑った。畠山は疲れ切ったようにソファに座った。
「……もういいか? 喉が痛い」
「うん、いいよ……ハタケ」
「ん?」
畠山が呼ばれて顔を上げるとその頰に桂子はキスをした。一瞬の事なのに血が沸きそうになるぐらい顔が熱くなる。
「ありがと、ハタケ」
「……おう」
畠山はそう答えるだけで精一杯だった。心臓が痛い。気持ちを伝えたいが、奥手な自分には無理だ。
畠山はそのままリモコンを操作し始めた。その姿を見た桂子は隠れて微笑んだ。
1
お気に入りに追加
69
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
大人な軍人の許嫁に、抱き上げられています
真風月花
恋愛
大正浪漫の恋物語。婚約者に子ども扱いされてしまうわたしは、大人びた格好で彼との逢引きに出かけました。今日こそは、手を繋ぐのだと固い決意を胸に。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
シチュボ(女性向け)
身喰らう白蛇
恋愛
自発さえしなければ好きに使用してください。
アドリブ、改変、なんでもOKです。
他人を害することだけはお止め下さい。
使用報告は無しで商用でも練習でもなんでもOKです。
Twitterやコメント欄等にリアクションあるとむせながら喜びます✌︎︎(´ °∀︎°`)✌︎︎ゲホゴホ
俺から離れるな〜ボディガードの情愛
ラヴ KAZU
恋愛
まりえは十年前襲われそうになったところを亮に救われる。しかしまりえは事件の記憶がない。亮はまりえに一目惚れをして二度とこんな目に合わせないとまりえのボディーガードになる。まりえは恋愛経験がない。亮との距離感にドキドキが止まらない。はじめてを亮に依頼する。影ながら見守り続けると決心したはずなのに独占欲が目覚めまりえの依頼を受ける。「俺の側にずっといろ、生涯お前を守る」二人の恋の行方はどうなるのか
料理音痴
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
朝目覚めたら。
知らない、部屋だった。
……あー、これってやっちまったって奴ですか?
部屋の主はすでにベッドにいない。
着替えて寝室を出ると、同期の坂下が食事を作っていた。
……ここって、坂下の部屋?
てか、しゃべれ!!
坂下から朝食を勧められ……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる