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77.同窓会 ※
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お洒落なガラス張りの今時のレストランの看板の前に立ち佐奈子は大きく深呼吸をした。購入したワンピースの胸元部分を確認し最終確認をする。
大丈夫、駅のトイレの鏡でも確認した。おかしい所はどこもない。
佐奈子は手すりを持ち階段を上っていく。その段差に足を乗せるたびに胸がときめいていく。柄にもなく緊張していた。
店の看板には【本日貸切】と書かれた紙が貼ってあった。今日は我が三年一組の同窓会だ。
ドアを開けるとすぐに知った顔が飛び込んでくる。
「おー! 竹谷じゃないか!」
「やだ、佐奈子! 元気してた?」
「変わってないね、皆!」
皆変わったようで変わってない。一気にあの頃へ戻ってしまったように感じる。何年経っていてもこうしてあの頃のように戻れるのはやはり同窓会の醍醐味だ。
「竹谷ここ座りなよ、隣空いてるよ」
声をかけてくれたのは原田くんだ。学級委員長をしていていつも優しかった。学生の頃は真面目さの方が目立っていたが、今の原田くんは誠実さが加わり、すっかり大人の男になっていた。私が密かに憧れていた人だ。
「ありがとう」
隣に座ると周りの席のみんなの顔を見る。年齢を重ねているけれど面影はある。ただ、左奥のテーブルに座る体格の良い男性は誰だか分からない。
あれ? 誰だっけ……。
「ねぇ、原田くん。あそこの体格の良い男の子って誰だっけ?」
「ん? どれ?」
原田が佐奈子に顔を寄せる。それだけでときめいてしまう。原田は何でもないように笑った。
「あれは、生物部の高橋だよ」
「高橋、くん……え? ガリガリだった高橋くん?」
年月というのはすごい……人を変えるようだ。佐奈子が笑うと原田もつられて笑った。
隣に座る原田の左の薬指に銀色に光るものを発見する。
「原田くん結婚したの?いつ?」
「四年前だよ、竹谷は?」
「私は五年前にね」
自分自身の指に光る指輪を見るとそのまま視線を逸らした。夫婦仲は良好とはいえない……だけど、今はそんな事は関係ない。
「旧姓で呼んじゃってるんだけど、ゴメンね」
「いいのいいの、旧姓があだ名みたいなものだし──」
また竹谷に戻るかもしれないし──。
原田が佐奈子の表情が一瞬曇ったのに気付くが、何も言わずにワインを飲んだ。
不思議だ。
もう良い大人なのになぜか言葉遣いがあの頃に戻る。なぜか年甲斐もなく女友達と腕を組みたくなる。
「私たち女子はさぁ──」
「ちょっとそこの男子うるさいよ」
本当に不思議だ。
タイムスリップしたみたいな気分になる。それが同窓会──みんなと別れたらまた現実に戻される。
佐奈子は原田への淡い気持ちまで思い出してしまった。
「竹谷、飲みすぎじゃないか?」
「あ、大丈夫、もう飲まないよ、ありがとう」
原田がさりげなく心配してくれる。それが嬉しかった。
とうとうお開きの時間となった。皆もう少し話していたかったが仕方がない。皆いい妻、夫、母、父であり──いい大人だ。
「また会おうね」
「またね」
「絶対だぞ」
愛おしい思い出と共に帰路につく。
佐奈子は皆と別れるとゆっくり大通りに向かって歩き出した。心地よい……旦那に連絡しようかと携帯電話をを取り出すが、思い直してポケットに戻す。どうせ心配もしていないんだろう。
「あぁあ──幸せの後ってどうしてこんなに寂しいんだろう」
「寂しいの?」
「わぁ!」
振り返ると原田が後ろを歩いていた。恥ずかしすぎる……言い訳できない。
「竹谷、俺言い忘れてたことがあったんだ」
「なに?」
原田が佐奈子に近づくと満面の笑みで笑った。
「竹谷、俺、竹谷のことが好きだ」
「…………え」
「卒業式の日、この言葉が言えなくってさ──ずっと後悔してて。だから言いたかったんだ」
「なんだ、両思いだったんだ……」
佐奈子は驚いて思わず心の声が漏れてしまう。
「「…………」」
原田と佐奈子は視線を合わせたまま動けなくなる。一瞬お互いの学生服の姿が見えた気がした。
あの頃も不器用だったけれど、今も違う意味で不器用だ。大人になればもっと人に愛され愛していくと信じていたのに──どうしてこんなにも上手くいかないのだろう。
佐奈子は今の自分が嫌になった。もっともっと思いやる心を持っていたはずなのに……。
佐奈子は原田に近付くとじっと原田を見つめる。お互い見つめ合うと佐奈子が原田の口元を手のひらで押さえた。
「ん? んん?」
「黙って──」
佐奈子はそのまま自分の手の甲にキスをした。二人の唇が佐奈子の手を介して重なった。目の前の原田との距離に心が熱くなる。そのままゆっくりと佐奈子の手が離れると原田が微笑んだ。
「──竹谷、幸せにな。竹谷の笑顔が好きだったんだ、すごく」
「私も原田くんが好きだった。ありがとう、純粋に恋してた気持ちを思い出させてくれて」
大通りでタクシーに乗り込むと手を振り原田と別れた。行き先を伝えると佐奈子は携帯電話を取り出した。
「もしもし──私、今から帰る。……別に何も無いよ。ねぇ猛、いつも……ありがとうね」
電話の向こうの旦那が息を飲んだのが分かった。私はそのまま電話を切ると街路樹のネオンを見つめて微笑んだ。
大丈夫、駅のトイレの鏡でも確認した。おかしい所はどこもない。
佐奈子は手すりを持ち階段を上っていく。その段差に足を乗せるたびに胸がときめいていく。柄にもなく緊張していた。
店の看板には【本日貸切】と書かれた紙が貼ってあった。今日は我が三年一組の同窓会だ。
ドアを開けるとすぐに知った顔が飛び込んでくる。
「おー! 竹谷じゃないか!」
「やだ、佐奈子! 元気してた?」
「変わってないね、皆!」
皆変わったようで変わってない。一気にあの頃へ戻ってしまったように感じる。何年経っていてもこうしてあの頃のように戻れるのはやはり同窓会の醍醐味だ。
「竹谷ここ座りなよ、隣空いてるよ」
声をかけてくれたのは原田くんだ。学級委員長をしていていつも優しかった。学生の頃は真面目さの方が目立っていたが、今の原田くんは誠実さが加わり、すっかり大人の男になっていた。私が密かに憧れていた人だ。
「ありがとう」
隣に座ると周りの席のみんなの顔を見る。年齢を重ねているけれど面影はある。ただ、左奥のテーブルに座る体格の良い男性は誰だか分からない。
あれ? 誰だっけ……。
「ねぇ、原田くん。あそこの体格の良い男の子って誰だっけ?」
「ん? どれ?」
原田が佐奈子に顔を寄せる。それだけでときめいてしまう。原田は何でもないように笑った。
「あれは、生物部の高橋だよ」
「高橋、くん……え? ガリガリだった高橋くん?」
年月というのはすごい……人を変えるようだ。佐奈子が笑うと原田もつられて笑った。
隣に座る原田の左の薬指に銀色に光るものを発見する。
「原田くん結婚したの?いつ?」
「四年前だよ、竹谷は?」
「私は五年前にね」
自分自身の指に光る指輪を見るとそのまま視線を逸らした。夫婦仲は良好とはいえない……だけど、今はそんな事は関係ない。
「旧姓で呼んじゃってるんだけど、ゴメンね」
「いいのいいの、旧姓があだ名みたいなものだし──」
また竹谷に戻るかもしれないし──。
原田が佐奈子の表情が一瞬曇ったのに気付くが、何も言わずにワインを飲んだ。
不思議だ。
もう良い大人なのになぜか言葉遣いがあの頃に戻る。なぜか年甲斐もなく女友達と腕を組みたくなる。
「私たち女子はさぁ──」
「ちょっとそこの男子うるさいよ」
本当に不思議だ。
タイムスリップしたみたいな気分になる。それが同窓会──みんなと別れたらまた現実に戻される。
佐奈子は原田への淡い気持ちまで思い出してしまった。
「竹谷、飲みすぎじゃないか?」
「あ、大丈夫、もう飲まないよ、ありがとう」
原田がさりげなく心配してくれる。それが嬉しかった。
とうとうお開きの時間となった。皆もう少し話していたかったが仕方がない。皆いい妻、夫、母、父であり──いい大人だ。
「また会おうね」
「またね」
「絶対だぞ」
愛おしい思い出と共に帰路につく。
佐奈子は皆と別れるとゆっくり大通りに向かって歩き出した。心地よい……旦那に連絡しようかと携帯電話をを取り出すが、思い直してポケットに戻す。どうせ心配もしていないんだろう。
「あぁあ──幸せの後ってどうしてこんなに寂しいんだろう」
「寂しいの?」
「わぁ!」
振り返ると原田が後ろを歩いていた。恥ずかしすぎる……言い訳できない。
「竹谷、俺言い忘れてたことがあったんだ」
「なに?」
原田が佐奈子に近づくと満面の笑みで笑った。
「竹谷、俺、竹谷のことが好きだ」
「…………え」
「卒業式の日、この言葉が言えなくってさ──ずっと後悔してて。だから言いたかったんだ」
「なんだ、両思いだったんだ……」
佐奈子は驚いて思わず心の声が漏れてしまう。
「「…………」」
原田と佐奈子は視線を合わせたまま動けなくなる。一瞬お互いの学生服の姿が見えた気がした。
あの頃も不器用だったけれど、今も違う意味で不器用だ。大人になればもっと人に愛され愛していくと信じていたのに──どうしてこんなにも上手くいかないのだろう。
佐奈子は今の自分が嫌になった。もっともっと思いやる心を持っていたはずなのに……。
佐奈子は原田に近付くとじっと原田を見つめる。お互い見つめ合うと佐奈子が原田の口元を手のひらで押さえた。
「ん? んん?」
「黙って──」
佐奈子はそのまま自分の手の甲にキスをした。二人の唇が佐奈子の手を介して重なった。目の前の原田との距離に心が熱くなる。そのままゆっくりと佐奈子の手が離れると原田が微笑んだ。
「──竹谷、幸せにな。竹谷の笑顔が好きだったんだ、すごく」
「私も原田くんが好きだった。ありがとう、純粋に恋してた気持ちを思い出させてくれて」
大通りでタクシーに乗り込むと手を振り原田と別れた。行き先を伝えると佐奈子は携帯電話を取り出した。
「もしもし──私、今から帰る。……別に何も無いよ。ねぇ猛、いつも……ありがとうね」
電話の向こうの旦那が息を飲んだのが分かった。私はそのまま電話を切ると街路樹のネオンを見つめて微笑んだ。
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