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76.リップクリーム
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夏の紫外線は肌を傷める。それは肌だけではない──。
「あっ──っ……イタイ……」
長年の友人である魁斗が唇を押さえている。日焼けした肌は赤みが治まりつつあるのか小麦色へと変化した。
魁斗は一週間前に会社の同僚達と川遊びに出掛けた。その日は全国ニュースで熱中症に関する特集が組まれるほどの猛暑日だった。
そんな中日焼け止めも塗らずに遊びまくった魁斗は肌のみならず唇も日焼けし縦に割れた。
話すたび、ご飯を食べるたびに傷口が開くため肌よりも治りが圧倒的に遅い。
「なんで日焼け止めとかリップクリームとか塗らないのよ。他の人はどうしてたの?」
「塗ってたの知ってたらこんな事になってないって……みんな教えてくれたらいいのに」
みんな予め日焼け止めを塗るなどの対策をしていたらしい。何もせず、尚且つ帽子も被らなかったのは魁斗だけだ。沙月は目の前のシーザーサラダを皿に取り分ける。魁斗には食べられないだろう。こんな時に個室居酒屋に誘うのが魁斗らしい……要は考えなしのバカだ。
「ちょっと見して」
「ん……」
魁斗が沙月に顔を近づける。内心ドキッとしたが動じていることを気付かれてはいけない。魁斗の顎を掴み、少し開かれた唇を見つめる。
少し出血しており痛々しい。今からリップクリームを塗っても痛いだけだろう。
「痛い?これじゃ塗れないし我慢するしかないね」
「……うーん、まぁリップクリーム持ってないんだけどな」
「マジで? あ、残り少ないやつあげようか? どうせそんな使わないでしょ」
魁斗にリップクリームを差し出すとよそよそしくそれを受け取った。
「……あ、痛くて塗れないな……サッちゃん塗って?」
「え? あー、いいけど……自分で塗った方がいいいんじゃない?」
魁斗はそのまま何も言わずリップクリームを私に押し付ける。リップクリームの蓋を取ると再び魁斗の顎に手を掛ける……。
「少し、口を開けて」
魁斗は大人しく言う事を聞いている。唇にリップクリームを塗るのを魁斗は見ていた。かなり緊張する……。
傷を避けて塗り終わると私は魁斗の顎から手を離した。
え──なん、で。
魁斗はなぜか私の顎に手を置いた。そのまま私の下唇を指の腹で撫でる……
「な……」
「サッちゃんのも、荒れてる……リップクリーム塗ってる?」
魁斗の言葉にカッと顔に熱が集まったのが分かった。視線を逸らすとそのまま離れようとする。
「そうね、塗らなきゃだめ、ん──」
気付くと魁斗の顔が目の前にあった。
キス、キスを、されている。
日に焼けた赤い顔と、熱を持ったままの唇の感触を感じた。触れているだけなのに、どうしてこんなにも熱くて蕩けてしまいそうなんだろう……。
「……今、リップクリームを塗ったから、シェア」
「…………」
魁斗が呟くが沙月は上手く反応できない。
酔っているのか? そんなに飲んでないだろう……。
「ちなみに、酔ってないからね」
「やめなさいよ……そういうのは彼女にしなさいよ」
「サッちゃんが、なってくれれば、いいんだけどな」
魁斗は照れ笑いを浮かべているが、笑うと唇の傷が開いたらしい……口元を押さえて静かになる。
「ほら、もう飲みすぎだよ。お開きにし──ッ」
魁斗の悪い冗談をスルーすると魁斗がムッとしたのか音を立てるようにチュッと沙月の唇にキスをする。
「ね、サッちゃんも俺とのキスいいと思ってくれてるでしょ? リップクリームをわざわざ塗らなくていいし、いいでしょ? 俺が塗って、分けてあげる」
「何よそれ……リップクリームのために彼女になれって言うの?」
魁斗はもう一度キスをする。もう傷口ことは気にしていないようだ。顔を傾けてしっかりと口を開けて深いキスを仕掛けてきた。
「一番は──サッちゃんが好きだから。ずっと好きだから」
「それを早く言いなさいよ、バカね──」
私から魁斗にキスをした。本当に魁斗はバカだ。そして、愛おしい。
「あっ──っ……イタイ……」
長年の友人である魁斗が唇を押さえている。日焼けした肌は赤みが治まりつつあるのか小麦色へと変化した。
魁斗は一週間前に会社の同僚達と川遊びに出掛けた。その日は全国ニュースで熱中症に関する特集が組まれるほどの猛暑日だった。
そんな中日焼け止めも塗らずに遊びまくった魁斗は肌のみならず唇も日焼けし縦に割れた。
話すたび、ご飯を食べるたびに傷口が開くため肌よりも治りが圧倒的に遅い。
「なんで日焼け止めとかリップクリームとか塗らないのよ。他の人はどうしてたの?」
「塗ってたの知ってたらこんな事になってないって……みんな教えてくれたらいいのに」
みんな予め日焼け止めを塗るなどの対策をしていたらしい。何もせず、尚且つ帽子も被らなかったのは魁斗だけだ。沙月は目の前のシーザーサラダを皿に取り分ける。魁斗には食べられないだろう。こんな時に個室居酒屋に誘うのが魁斗らしい……要は考えなしのバカだ。
「ちょっと見して」
「ん……」
魁斗が沙月に顔を近づける。内心ドキッとしたが動じていることを気付かれてはいけない。魁斗の顎を掴み、少し開かれた唇を見つめる。
少し出血しており痛々しい。今からリップクリームを塗っても痛いだけだろう。
「痛い?これじゃ塗れないし我慢するしかないね」
「……うーん、まぁリップクリーム持ってないんだけどな」
「マジで? あ、残り少ないやつあげようか? どうせそんな使わないでしょ」
魁斗にリップクリームを差し出すとよそよそしくそれを受け取った。
「……あ、痛くて塗れないな……サッちゃん塗って?」
「え? あー、いいけど……自分で塗った方がいいいんじゃない?」
魁斗はそのまま何も言わずリップクリームを私に押し付ける。リップクリームの蓋を取ると再び魁斗の顎に手を掛ける……。
「少し、口を開けて」
魁斗は大人しく言う事を聞いている。唇にリップクリームを塗るのを魁斗は見ていた。かなり緊張する……。
傷を避けて塗り終わると私は魁斗の顎から手を離した。
え──なん、で。
魁斗はなぜか私の顎に手を置いた。そのまま私の下唇を指の腹で撫でる……
「な……」
「サッちゃんのも、荒れてる……リップクリーム塗ってる?」
魁斗の言葉にカッと顔に熱が集まったのが分かった。視線を逸らすとそのまま離れようとする。
「そうね、塗らなきゃだめ、ん──」
気付くと魁斗の顔が目の前にあった。
キス、キスを、されている。
日に焼けた赤い顔と、熱を持ったままの唇の感触を感じた。触れているだけなのに、どうしてこんなにも熱くて蕩けてしまいそうなんだろう……。
「……今、リップクリームを塗ったから、シェア」
「…………」
魁斗が呟くが沙月は上手く反応できない。
酔っているのか? そんなに飲んでないだろう……。
「ちなみに、酔ってないからね」
「やめなさいよ……そういうのは彼女にしなさいよ」
「サッちゃんが、なってくれれば、いいんだけどな」
魁斗は照れ笑いを浮かべているが、笑うと唇の傷が開いたらしい……口元を押さえて静かになる。
「ほら、もう飲みすぎだよ。お開きにし──ッ」
魁斗の悪い冗談をスルーすると魁斗がムッとしたのか音を立てるようにチュッと沙月の唇にキスをする。
「ね、サッちゃんも俺とのキスいいと思ってくれてるでしょ? リップクリームをわざわざ塗らなくていいし、いいでしょ? 俺が塗って、分けてあげる」
「何よそれ……リップクリームのために彼女になれって言うの?」
魁斗はもう一度キスをする。もう傷口ことは気にしていないようだ。顔を傾けてしっかりと口を開けて深いキスを仕掛けてきた。
「一番は──サッちゃんが好きだから。ずっと好きだから」
「それを早く言いなさいよ、バカね──」
私から魁斗にキスをした。本当に魁斗はバカだ。そして、愛おしい。
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