55 / 101
55.部活
しおりを挟む
私は高校で面白い部を見つけた、部活というか趣味の延長のようだ。
読書部
本を読むことが好きな私にぴったりだと思った。
旧校舎の古ぼけた第一図書室の横にある小さな引き戸には茶色く黄ばんだ紙が貼られている。
読書部 部室
部員募集中
沙織はじっと見つめるとその紙を剥がしてドアを開けた。
「お、来たな、副部長」
「部長……部員は二人だけですから……」
いざ、入部届を持ってこのドアを開けると部員はまさかの一学年上の渡辺先輩だけだった。卒業した先輩三人と入れ替わるように沙織が入部した形だ。同好会の規模だが、名前をわざわざ変える程でもないとそのままらしい。
たった二人の部活動──。
密室でひたすら本を読み、時に朗読する。ただ、たった二人なのでひたすら自分の好きな本を読んでいるだけの日もある。
沙織はそれでよかった。隣に座って本を読む渡辺の存在を感じられるだけでよかった。
あの日から……沙織は渡辺に恋をしている……。
ある日、入部してしばらくして図書委員の仕事があり遅れてこの部屋にやってきた。
「遅くなりました……」
ドアを開けるといつもとは違う窓際の席で渡辺が眠っていた。読んでいた本の間に指を挟み、机に突っ伏している。
窓を開け放ち……風で白のカーテンがふわりと浮く。風で渡辺の前髪が揺れる。
人の寝顔がきれいだと思ったのは初めてだった。沙織は渡辺に近づくとその前髪にそっと触れた。思っていたよりもずっと柔らかかった。
この髪に、触れたい……キスしたい……。
なぜかそう思った。
そこからは止められなかった。前かがみになり前髪の上から額にキスをする。
数秒だけの秘密の時間──。
何をしているのか……一体自分はどうしてしまったのだろう。沙織は戸惑い、そのまま部室を後にした。
あの時の衝動は今でも忘れられない……。
あれからこうして隣にいるだけでときめいてしまって……本を読んでいるのに、全く内容が頭に入ってこない。ストーリーに自分の気持ちが入っていかないことが多くなった。
あの日の記憶に思いを馳せていると、突然渡辺が本を閉じる。
「副部長……」
「はい部長、なんでしょう?」
「キス、して、いい?」
「……はい?」
渡辺はそのまま立ち上がると座ったままの沙織の頰を掴み、額にキスをした。
触れられた部分が熱くなる。みるみる全身に鳥肌が立つ……興奮して呼吸することも忘れてしまう……。
「……な──」
「起きてた、あの時、俺。起きてた」
渡辺の言葉が意味することは一つだ。沙織は一気に背筋が凍る。後悔と罪の意識が襲う。
「ご、ごめんなさい……あの時はどうかして──」
「あれから、本を読めないんだ……副部長の存在が気になって……だから、その……キスしたくて……」
「あ、部長……」
沙織と渡辺の視線が絡み合う。渡辺が沙織の肩に手を置くとゆっくりと渡辺の顔が近づいた……。
二人の時間がゆっくりと動き始めた──。
読書部
本を読むことが好きな私にぴったりだと思った。
旧校舎の古ぼけた第一図書室の横にある小さな引き戸には茶色く黄ばんだ紙が貼られている。
読書部 部室
部員募集中
沙織はじっと見つめるとその紙を剥がしてドアを開けた。
「お、来たな、副部長」
「部長……部員は二人だけですから……」
いざ、入部届を持ってこのドアを開けると部員はまさかの一学年上の渡辺先輩だけだった。卒業した先輩三人と入れ替わるように沙織が入部した形だ。同好会の規模だが、名前をわざわざ変える程でもないとそのままらしい。
たった二人の部活動──。
密室でひたすら本を読み、時に朗読する。ただ、たった二人なのでひたすら自分の好きな本を読んでいるだけの日もある。
沙織はそれでよかった。隣に座って本を読む渡辺の存在を感じられるだけでよかった。
あの日から……沙織は渡辺に恋をしている……。
ある日、入部してしばらくして図書委員の仕事があり遅れてこの部屋にやってきた。
「遅くなりました……」
ドアを開けるといつもとは違う窓際の席で渡辺が眠っていた。読んでいた本の間に指を挟み、机に突っ伏している。
窓を開け放ち……風で白のカーテンがふわりと浮く。風で渡辺の前髪が揺れる。
人の寝顔がきれいだと思ったのは初めてだった。沙織は渡辺に近づくとその前髪にそっと触れた。思っていたよりもずっと柔らかかった。
この髪に、触れたい……キスしたい……。
なぜかそう思った。
そこからは止められなかった。前かがみになり前髪の上から額にキスをする。
数秒だけの秘密の時間──。
何をしているのか……一体自分はどうしてしまったのだろう。沙織は戸惑い、そのまま部室を後にした。
あの時の衝動は今でも忘れられない……。
あれからこうして隣にいるだけでときめいてしまって……本を読んでいるのに、全く内容が頭に入ってこない。ストーリーに自分の気持ちが入っていかないことが多くなった。
あの日の記憶に思いを馳せていると、突然渡辺が本を閉じる。
「副部長……」
「はい部長、なんでしょう?」
「キス、して、いい?」
「……はい?」
渡辺はそのまま立ち上がると座ったままの沙織の頰を掴み、額にキスをした。
触れられた部分が熱くなる。みるみる全身に鳥肌が立つ……興奮して呼吸することも忘れてしまう……。
「……な──」
「起きてた、あの時、俺。起きてた」
渡辺の言葉が意味することは一つだ。沙織は一気に背筋が凍る。後悔と罪の意識が襲う。
「ご、ごめんなさい……あの時はどうかして──」
「あれから、本を読めないんだ……副部長の存在が気になって……だから、その……キスしたくて……」
「あ、部長……」
沙織と渡辺の視線が絡み合う。渡辺が沙織の肩に手を置くとゆっくりと渡辺の顔が近づいた……。
二人の時間がゆっくりと動き始めた──。
1
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説


【完結】あわよくば好きになって欲しい(短編集)
野村にれ
恋愛
番(つがい)の物語。
※短編集となります。時代背景や国が違うこともあります。
※定期的に番(つがい)の話を書きたくなるのですが、
どうしても溺愛ハッピーエンドにはならないことが多いです。


甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる