100のキスをあなたに

菅井群青

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55.部活

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 私は高校で面白い部を見つけた、部活というか趣味の延長のようだ。

 読書部

 本を読むことが好きな私にぴったりだと思った。

 旧校舎の古ぼけた第一図書室の横にある小さな引き戸には茶色く黄ばんだ紙が貼られている。

 読書部 部室
 部員募集中

 沙織はじっと見つめるとその紙を剥がしてドアを開けた。

「お、来たな、副部長」

「部長……部員は二人だけですから……」

 いざ、入部届を持ってこのドアを開けると部員はまさかの一学年上の渡辺先輩だけだった。卒業した先輩三人と入れ替わるように沙織が入部した形だ。同好会の規模だが、名前をわざわざ変える程でもないとそのままらしい。

 たった二人の部活動──。

 密室でひたすら本を読み、時に朗読する。ただ、たった二人なのでひたすら自分の好きな本を読んでいるだけの日もある。

 沙織はそれでよかった。隣に座って本を読む渡辺の存在を感じられるだけでよかった。

 あの日から……沙織は渡辺に恋をしている……。

 ある日、入部してしばらくして図書委員の仕事があり遅れてこの部屋にやってきた。

「遅くなりました……」

 ドアを開けるといつもとは違う窓際の席で渡辺が眠っていた。読んでいた本の間に指を挟み、机に突っ伏している。

 窓を開け放ち……風で白のカーテンがふわりと浮く。風で渡辺の前髪が揺れる。

 人の寝顔がきれいだと思ったのは初めてだった。沙織は渡辺に近づくとその前髪にそっと触れた。思っていたよりもずっと柔らかかった。

 この髪に、触れたい……キスしたい……。

 なぜかそう思った。
 そこからは止められなかった。前かがみになり前髪の上から額にキスをする。

 数秒だけの秘密の時間──。

 何をしているのか……一体自分はどうしてしまったのだろう。沙織は戸惑い、そのまま部室を後にした。


 あの時の衝動は今でも忘れられない……。

 あれからこうして隣にいるだけでときめいてしまって……本を読んでいるのに、全く内容が頭に入ってこない。ストーリーに自分の気持ちが入っていかないことが多くなった。


 あの日の記憶に思いを馳せていると、突然渡辺が本を閉じる。

「副部長……」

「はい部長、なんでしょう?」

「キス、して、いい?」

「……はい?」

 渡辺はそのまま立ち上がると座ったままの沙織の頰を掴み、額にキスをした。

 触れられた部分が熱くなる。みるみる全身に鳥肌が立つ……興奮して呼吸することも忘れてしまう……。

「……な──」

「起きてた、あの時、俺。起きてた」

 渡辺の言葉が意味することは一つだ。沙織は一気に背筋が凍る。後悔と罪の意識が襲う。

「ご、ごめんなさい……あの時はどうかして──」

「あれから、本を読めないんだ……副部長の存在が気になって……だから、その……キスしたくて……」

「あ、部長……」

 沙織と渡辺の視線が絡み合う。渡辺が沙織の肩に手を置くとゆっくりと渡辺の顔が近づいた……。

 二人の時間がゆっくりと動き始めた──。
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