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52.イヤホン
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ビー
バスが停車すると私はすぐさま乗り込んだ。そのまま一番奥の席へと腰掛ける。
二年間乗り続けているといつのまにか自分の中で定位置が決まってくる。田舎のバスでは乗る人間は決まっているせいもあるだろう。バスが動き始めると次のバス停で学ラン姿の男が乗ってきた。そのまま私の横に座る。
田舎の学校では珍しく、学ランのボタンを留めないこのだらしない男は友人の良太だ。
「おはよう」
「……おう」
対して話もしないのにわざわざ横に座る意味がわからない。私たち以外にまだ乗っていないので別の場所に座ればいいと思うが……。
しばらく山道が続く……。
この坂道を抜ければ例のバス停に到着する。
数日前……私の幼馴染二人が付き合いだした。昔から両想いだったが、あと一歩が踏み出せなかった二人が何かをきっかけにとうとうカップルとなった。隣の家同士の幼馴染だ。自然な流れだろう。
斜面を走っていると学生服姿の二人の姿が見えた。他にも数人同じ学校の制服が見える。だけれど、私はあの二人の姿から目が離せない。
ビー
開閉音とともに二人がバスに乗り込んでくると、私と良太に手を上げてそのまま前列の席へと座る。座ると二人で顔を見合わせて微笑み合うのが見えた。
「ちゃんと起きろよ、ギリギリだったろ?」
「朝は弱いんだもん、もっと早く迎えにきてよ」
二人のやりとりが否が応でも聞こえてくる。正直……辛い。
私は恋をしていた。前に座る幼馴染に──。
分かってはいた。二人の間に入る隙などないことなど……でも、諦めることはできなかった。
窓の外を見てみても、楽しそうな声が聞こえてきて涙が出そうになる。恋心が心を締め上げていく。涙が出そうになる。
あ、だめだ……もう──。
「──え?」
隣にいた良太が付けていたイヤホンを外して私の耳につけた。大音量で流れるロックの音楽で周りの音が聞こえなくなる。良太の方を見ると一瞬目が合ったが逸らされてしまった。
良太には分かっていたのだろう……私の気持ちが……。そして今、耳を塞ぎたかったことが。
「ありがと」
「……おう」
そのままバスに揺られた。窓の外の景色と流行の音楽のおかげで涙が出ることはなかった。
バスの終着は学校だ。到着すると皆ぞろぞろと降りていく。前の二人も手を繋ぎそのままバスを後にした。その姿を窓越しに見つめていると良太が私の頭を掴みこちらに向かせるとイヤホンを外した。
目の前にいる良太の顔を見つめていると良太の顔が歪む。
「バカだな……叶わない恋って分かってたろ?」
「……るさい。いいじゃない」
「よくない。周りをもっと見ろ」
良太は私の頰にキスをした。あまりに突然すぎてうまく反応できない。
なぜ、いま、このタイミングでキスをされたのかわからない。
固まる私の腕を取りバスを降りると良太はそのまま校門の側の木の下へと連れて行く。
「……お前の隣の席になんで俺が座るか考えたことあるか?」
「──え?」
良太は嫌そうな顔をする。
「……これだから、鈍感は困る……言わなきゃわかんないのか? あり得ない……」
「良太? なんでそんな顔……」
良太は肌が白い。その肌が真っ赤に染まる。それを見てこちらまで真っ赤になる。心臓が激しく打ち出した。
イヤホンの事、キスの事、真っ赤な顔……あ、そうか、そうなんだ。
「良太……」
「なんだよ、バカ」
「ありがとう……隣にいてくれて」
良太は私の手を握るとそのまま歩きだした。
「大丈夫だ、慣れてる」
その横顔は少し微笑んでいた。私はそれが嬉しくて握る手に力を込めた。
バスが停車すると私はすぐさま乗り込んだ。そのまま一番奥の席へと腰掛ける。
二年間乗り続けているといつのまにか自分の中で定位置が決まってくる。田舎のバスでは乗る人間は決まっているせいもあるだろう。バスが動き始めると次のバス停で学ラン姿の男が乗ってきた。そのまま私の横に座る。
田舎の学校では珍しく、学ランのボタンを留めないこのだらしない男は友人の良太だ。
「おはよう」
「……おう」
対して話もしないのにわざわざ横に座る意味がわからない。私たち以外にまだ乗っていないので別の場所に座ればいいと思うが……。
しばらく山道が続く……。
この坂道を抜ければ例のバス停に到着する。
数日前……私の幼馴染二人が付き合いだした。昔から両想いだったが、あと一歩が踏み出せなかった二人が何かをきっかけにとうとうカップルとなった。隣の家同士の幼馴染だ。自然な流れだろう。
斜面を走っていると学生服姿の二人の姿が見えた。他にも数人同じ学校の制服が見える。だけれど、私はあの二人の姿から目が離せない。
ビー
開閉音とともに二人がバスに乗り込んでくると、私と良太に手を上げてそのまま前列の席へと座る。座ると二人で顔を見合わせて微笑み合うのが見えた。
「ちゃんと起きろよ、ギリギリだったろ?」
「朝は弱いんだもん、もっと早く迎えにきてよ」
二人のやりとりが否が応でも聞こえてくる。正直……辛い。
私は恋をしていた。前に座る幼馴染に──。
分かってはいた。二人の間に入る隙などないことなど……でも、諦めることはできなかった。
窓の外を見てみても、楽しそうな声が聞こえてきて涙が出そうになる。恋心が心を締め上げていく。涙が出そうになる。
あ、だめだ……もう──。
「──え?」
隣にいた良太が付けていたイヤホンを外して私の耳につけた。大音量で流れるロックの音楽で周りの音が聞こえなくなる。良太の方を見ると一瞬目が合ったが逸らされてしまった。
良太には分かっていたのだろう……私の気持ちが……。そして今、耳を塞ぎたかったことが。
「ありがと」
「……おう」
そのままバスに揺られた。窓の外の景色と流行の音楽のおかげで涙が出ることはなかった。
バスの終着は学校だ。到着すると皆ぞろぞろと降りていく。前の二人も手を繋ぎそのままバスを後にした。その姿を窓越しに見つめていると良太が私の頭を掴みこちらに向かせるとイヤホンを外した。
目の前にいる良太の顔を見つめていると良太の顔が歪む。
「バカだな……叶わない恋って分かってたろ?」
「……るさい。いいじゃない」
「よくない。周りをもっと見ろ」
良太は私の頰にキスをした。あまりに突然すぎてうまく反応できない。
なぜ、いま、このタイミングでキスをされたのかわからない。
固まる私の腕を取りバスを降りると良太はそのまま校門の側の木の下へと連れて行く。
「……お前の隣の席になんで俺が座るか考えたことあるか?」
「──え?」
良太は嫌そうな顔をする。
「……これだから、鈍感は困る……言わなきゃわかんないのか? あり得ない……」
「良太? なんでそんな顔……」
良太は肌が白い。その肌が真っ赤に染まる。それを見てこちらまで真っ赤になる。心臓が激しく打ち出した。
イヤホンの事、キスの事、真っ赤な顔……あ、そうか、そうなんだ。
「良太……」
「なんだよ、バカ」
「ありがとう……隣にいてくれて」
良太は私の手を握るとそのまま歩きだした。
「大丈夫だ、慣れてる」
その横顔は少し微笑んでいた。私はそれが嬉しくて握る手に力を込めた。
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