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44.残業
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タッタタタタタッタッタッタタタタ──
デスクに前かがみになりひたすらキーボードを打ち続ける。壁時計を見ると時刻はもう二十一時だ……。周りを見てももちろん誰もいない。
くそう……なぜこんな目に……。今頃美味しいお酒を飲めたはずなのに……。
今日は会社の近くにいいバーが出来たらしく会社の人達とそこへ行く予定だった。どこかで晩御飯を食べて空腹を満たした後に行くことになったのだが……。
定時直前に後輩の直美がファイルを持ちわざとらしく大きな声を出す。その瞬間嫌な予感がした、ちらっと一瞬目があった気がした。直美は悪そうな笑みを浮かべた。
「やだ、佐藤さんにお願いする仕事、ここで止めちゃってましたぁ! あぁん、どうしよう……せっかく特別な日なのに……」
ファイルを見てみると明日の昼に必要な資料だった。
──やられた
その後当然のように私は残業を強いられパソコンに向かい孤独な戦いをしている。
まったく、直美にも困ったもんだ……。
直美は同期の山下のことが好きなのだ。
山下の好きな人が私と勘違いして嫌がらせをるようになった。それまでは可愛い後輩だったのに縁の切れ目は金だけではない、恋情だ。
怒りともどかしさをキーボードに打ち付ける。
「……壊れるんじゃない? その調子だと」
「んぎゃ!」
耳元で声が聞こえて思わず飛び上がる。振り返るとそこには同僚の山下がいた。手には私の好きな駅前のおにぎり屋さんの袋がある。
「な、何してんの? 山下……バーは?」
「あー、ちょっと頭痛いから帰ってきた。どうせ俺一人抜けても問題ないよ、大盛り上がりだし」
「はー、ん、んじゃなんでここにいんの? 早く帰んなよ」
「飢えた奴がいるんじゃないかと思ってな、ほれ、おにぎりだ、おかか味」
山下に抱きつき感謝の気持ちを伝える。
「センキュ……山下……最高!」
「……おう」
私は離れると満面の笑みで山下を見上げた。山下は真顔で私のことを見ていた。
ん? 頭痛か? 大丈夫か?
「大──」
大丈夫かと尋ねようとしたが続きは言えなかった。山下の唇が自分のそれと重なっていたから──。
山下は私の腰に手を回しねっとりと深く口付ける。
キスだ、キスだ、キスだ!!
分かってはいるが瞼も閉じられない。
山下は一旦口を離すと目を開けたままの私に気づき、人差し指と薬指でそっと瞼に触れて目を閉じさせた。
「目、ぐらい閉じとけよ、恥ずかしい」
「だって──ん……」
抗議の声はまたもや飲み込まれたしまった。舌が掬われると一気に囚われてしまった。そのまま椅子に座らせられると顎を掴まれそのまま激しく口付けられる。
もう、どうでもいいかもしれない……。
どれぐらいの時間そうしていたのだろう。酸欠になるほどのキスに声が掠れる。
「や、ました……あんたもしかして私のこと好きなの?」
「それを知らないのは、本人だけだ……あとは全員知ってる、社長ですら知ってるんだぞ、鈍感な奴」
どうやら周りのみんなが山下に気を使って帰してくれたらしい……。恥ずかしい……。
「ねぇ、もうすぐ終わるから、その……待っててよ」
「……おう」
山下は隣の席に座ると大きく背伸びをした。今夜は長くなりそうだ。
デスクに前かがみになりひたすらキーボードを打ち続ける。壁時計を見ると時刻はもう二十一時だ……。周りを見てももちろん誰もいない。
くそう……なぜこんな目に……。今頃美味しいお酒を飲めたはずなのに……。
今日は会社の近くにいいバーが出来たらしく会社の人達とそこへ行く予定だった。どこかで晩御飯を食べて空腹を満たした後に行くことになったのだが……。
定時直前に後輩の直美がファイルを持ちわざとらしく大きな声を出す。その瞬間嫌な予感がした、ちらっと一瞬目があった気がした。直美は悪そうな笑みを浮かべた。
「やだ、佐藤さんにお願いする仕事、ここで止めちゃってましたぁ! あぁん、どうしよう……せっかく特別な日なのに……」
ファイルを見てみると明日の昼に必要な資料だった。
──やられた
その後当然のように私は残業を強いられパソコンに向かい孤独な戦いをしている。
まったく、直美にも困ったもんだ……。
直美は同期の山下のことが好きなのだ。
山下の好きな人が私と勘違いして嫌がらせをるようになった。それまでは可愛い後輩だったのに縁の切れ目は金だけではない、恋情だ。
怒りともどかしさをキーボードに打ち付ける。
「……壊れるんじゃない? その調子だと」
「んぎゃ!」
耳元で声が聞こえて思わず飛び上がる。振り返るとそこには同僚の山下がいた。手には私の好きな駅前のおにぎり屋さんの袋がある。
「な、何してんの? 山下……バーは?」
「あー、ちょっと頭痛いから帰ってきた。どうせ俺一人抜けても問題ないよ、大盛り上がりだし」
「はー、ん、んじゃなんでここにいんの? 早く帰んなよ」
「飢えた奴がいるんじゃないかと思ってな、ほれ、おにぎりだ、おかか味」
山下に抱きつき感謝の気持ちを伝える。
「センキュ……山下……最高!」
「……おう」
私は離れると満面の笑みで山下を見上げた。山下は真顔で私のことを見ていた。
ん? 頭痛か? 大丈夫か?
「大──」
大丈夫かと尋ねようとしたが続きは言えなかった。山下の唇が自分のそれと重なっていたから──。
山下は私の腰に手を回しねっとりと深く口付ける。
キスだ、キスだ、キスだ!!
分かってはいるが瞼も閉じられない。
山下は一旦口を離すと目を開けたままの私に気づき、人差し指と薬指でそっと瞼に触れて目を閉じさせた。
「目、ぐらい閉じとけよ、恥ずかしい」
「だって──ん……」
抗議の声はまたもや飲み込まれたしまった。舌が掬われると一気に囚われてしまった。そのまま椅子に座らせられると顎を掴まれそのまま激しく口付けられる。
もう、どうでもいいかもしれない……。
どれぐらいの時間そうしていたのだろう。酸欠になるほどのキスに声が掠れる。
「や、ました……あんたもしかして私のこと好きなの?」
「それを知らないのは、本人だけだ……あとは全員知ってる、社長ですら知ってるんだぞ、鈍感な奴」
どうやら周りのみんなが山下に気を使って帰してくれたらしい……。恥ずかしい……。
「ねぇ、もうすぐ終わるから、その……待っててよ」
「……おう」
山下は隣の席に座ると大きく背伸びをした。今夜は長くなりそうだ。
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