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42.扇風機
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あぁ、暑い夏は嫌いだ。こんな猛暑の昼間に外出する人の気が知れない。
真子は縁側で扇風機の涼風に当たりながら畳の上で寝転がる。田舎の家らしく窓を開け放ち家の中を心地いい風が抜けていく。クーラーなんてそんなものはない。もしあったとしても隙間だらけのこの家じゃ電気代のムダだ。扇風機だけでもこの家は涼しい。
現に扇風機の風でさっき畑から帰ってきた時にかいた汗はすっかり消え失せた。
「おーい!! 真子、いるか?」
「おるよ、裏に回って!」
玄関から近所に住む崇の声が聞こえる。そのまま崇は家の周りをぐるりと周り縁側へとやってくる。そして縁側でTシャツ短パンで寝転がったままの真子を見てため息をつく。
「お前な、俺は男や、ちょっとは考えんか?」
「ん? 何よ? 暑かったんやから、薄着でいいやん」
真子は起き上がるとそばにいた猫の背中に触れる。そのまま猫はどこかへと行ってしまった。
崇は縁側に腰掛けると扇風機の首振りを止めて自分の方へ向ける。頭から水を浴びたように汗をかいている。こんな天気で帽子も被らないなんて正気じゃない。
「そこの蛇口で頭から水を浴びたんやが、効かんな」
やはり、帰宅途中にあるどこかの水道を拝借していたらしい。扇風機の風が来なくなると真子の背中にもじんわりと汗が出てきた。
すかさずそのまま崇の横に座り風を横取りする。
「ちょっと詰めてぇや」
「……くっつくなや……」
しばらく扇風機の前で風の奪い合いをする。真子が口を開け扇風機の前で声を出す。回転する羽によって真子の声は変な声になる。一度は皆した事があるだろう。
「ワレワレハ宇宙人ダ」
「懐かしいな、それ。大人になったらせんもんな」
「崇はいつ大人になったん? なんも変わらんやん、ガキンチョのくせに」
真子は扇風機の風を浴びながらTシャツが肌にへばりつくのを剥がすように襟元を伸ばす。崇は真子の姿を一瞥すると露骨に残念そうな顔をした。
「色気もないな……お前もガキンチョや」
「何ですって……女子高校生に向かって何言うとるん」
真子は口を尖らせる。
分かっている、可愛げがないのは……だが、そんな風に言われると傷つく。
「ほんまに大人になったか?」
「なったし! 大人やし!」
「しゃあないな、んじゃ……」
崇は真子の唇にキスをした。
二人の顔を扇風機の風が通り抜けていく。目を閉じることもできずに固まる真子の瞳が乾燥する。瞳を潤そうと瞬きを無意識に繰り返し、ようやく真子は覚醒した。崇の唇が離れていくと真子は崇の視線に真っ赤に頬を染める。
「なん、何なんよ……今の」
「キスや。大人やからな」
「ふざけんなや、大人やからってするか普通! 今ので私のファーストキ──」
そこまで言ってしまいまずいと思ったのか真子は黙る。だが、時すでに遅し……崇が嬉しそうに笑っている。
「そうかそうか、初めてやったか……光栄やな」
「アホ、んなわけあるか! しらん! 帰れ! もうこやんといて!」
真子が怒り心頭で台所へと消えていった。その背中を見送ると崇は自分の胸をそっと押さえた。動悸で胸が苦しくなる。
「やばかったな……はぁ、あの鈍感……」
崇はそのまま深呼吸しながら帰っていった。
真子は縁側で扇風機の涼風に当たりながら畳の上で寝転がる。田舎の家らしく窓を開け放ち家の中を心地いい風が抜けていく。クーラーなんてそんなものはない。もしあったとしても隙間だらけのこの家じゃ電気代のムダだ。扇風機だけでもこの家は涼しい。
現に扇風機の風でさっき畑から帰ってきた時にかいた汗はすっかり消え失せた。
「おーい!! 真子、いるか?」
「おるよ、裏に回って!」
玄関から近所に住む崇の声が聞こえる。そのまま崇は家の周りをぐるりと周り縁側へとやってくる。そして縁側でTシャツ短パンで寝転がったままの真子を見てため息をつく。
「お前な、俺は男や、ちょっとは考えんか?」
「ん? 何よ? 暑かったんやから、薄着でいいやん」
真子は起き上がるとそばにいた猫の背中に触れる。そのまま猫はどこかへと行ってしまった。
崇は縁側に腰掛けると扇風機の首振りを止めて自分の方へ向ける。頭から水を浴びたように汗をかいている。こんな天気で帽子も被らないなんて正気じゃない。
「そこの蛇口で頭から水を浴びたんやが、効かんな」
やはり、帰宅途中にあるどこかの水道を拝借していたらしい。扇風機の風が来なくなると真子の背中にもじんわりと汗が出てきた。
すかさずそのまま崇の横に座り風を横取りする。
「ちょっと詰めてぇや」
「……くっつくなや……」
しばらく扇風機の前で風の奪い合いをする。真子が口を開け扇風機の前で声を出す。回転する羽によって真子の声は変な声になる。一度は皆した事があるだろう。
「ワレワレハ宇宙人ダ」
「懐かしいな、それ。大人になったらせんもんな」
「崇はいつ大人になったん? なんも変わらんやん、ガキンチョのくせに」
真子は扇風機の風を浴びながらTシャツが肌にへばりつくのを剥がすように襟元を伸ばす。崇は真子の姿を一瞥すると露骨に残念そうな顔をした。
「色気もないな……お前もガキンチョや」
「何ですって……女子高校生に向かって何言うとるん」
真子は口を尖らせる。
分かっている、可愛げがないのは……だが、そんな風に言われると傷つく。
「ほんまに大人になったか?」
「なったし! 大人やし!」
「しゃあないな、んじゃ……」
崇は真子の唇にキスをした。
二人の顔を扇風機の風が通り抜けていく。目を閉じることもできずに固まる真子の瞳が乾燥する。瞳を潤そうと瞬きを無意識に繰り返し、ようやく真子は覚醒した。崇の唇が離れていくと真子は崇の視線に真っ赤に頬を染める。
「なん、何なんよ……今の」
「キスや。大人やからな」
「ふざけんなや、大人やからってするか普通! 今ので私のファーストキ──」
そこまで言ってしまいまずいと思ったのか真子は黙る。だが、時すでに遅し……崇が嬉しそうに笑っている。
「そうかそうか、初めてやったか……光栄やな」
「アホ、んなわけあるか! しらん! 帰れ! もうこやんといて!」
真子が怒り心頭で台所へと消えていった。その背中を見送ると崇は自分の胸をそっと押さえた。動悸で胸が苦しくなる。
「やばかったな……はぁ、あの鈍感……」
崇はそのまま深呼吸しながら帰っていった。
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