100のキスをあなたに

菅井群青

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41.合コン

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 さてと……。今日の合コンはどうだ?

 俺はいつもの居酒屋の座敷に座り目の前の四人をチラチラと見る。一人は、まぁ可愛い……隣は……胸がデカイ……隣は性格が良さそうだが平凡……最後は……最後は?

 メガネの黒髪?

 明らかに毛色の違うのが混ざっている。一人オタクのようなその女は不機嫌そうに前を見ている。向かいに座ったおれの友人の笑顔が引きつっているのが見えた。ご愁傷様……。

 俺の前に座った一番美人のひばりちゃんが俺と目が合うとにっこりと微笑んだ。フリルのシャツが似合う可憐な女の子だ。 
 悪いな、友よ。

 八人の男女の合コンは思いのほか盛り上がった。黒髪のオタク以外が話し上手で俺を含めて男どもが乗せられて上機嫌で会話が弾む。酒が進み、俺はトイレへと向かった。
 
 トイレから出ると黒髪のオタクが壁に寄りかかって水を飲んでいた。確か結構チューハイを飲んでいた。酔っているのかもしれない。なんとなく気になり声を掛ける。

「……大丈夫?」

「あ、大丈夫です。慣れてるんで」

 予想外の塩対応に俺は怯む。こう見えても俺はモテる。優しい声をかけてこんな対応をされたことはない。

「……そう。じゃ、先俺戻るね」

「あの──どうして合コンしてるんですか?」

「どうしてって……出会いを求めるためだけど……君もでしょ?」

 そんなことを聞かれるとは思ってなくてつい思ったことを答える。
 そうだ、出会いを求めてるんだ、俺は。

「誰かを……探してるんじゃなくて、ですか?」

「……は? そんなわけ……」

 俺は黒髪オタクの眼鏡の奥を見た。しっかりと目を合わせたのはこれが初めてだ。瞳のそばにある小さな泣きぼくろを見つけて何も言えなくなってしまう。

 数ヶ月前にこの居酒屋で合コンをした。
 かなり酔った俺を黒い服を着た年上の女性が介抱してくれた。片思いを振り切るために合コンに参加していることをその女性に告白してしまった。

 俺の頭を撫でて、「合コンじゃだめよ。まじめに恋をしなさい」そう言って俺にキスをした。

 それからその女性に会いたいがために、この店で来る日も来る日も合コンをした。もちろんただ飲みに来ることもあった……。ただ、この店に来ればいつかあの人に会えると思った。

 あの日、酔った俺はあの人に恋をした。

 記憶もおぼろげで、真っ赤な口元に黒髪をきっちり後ろで結んだカッコいい大人の女性だった。きつめのアイラインをした瞳のそばに双子の控えめな泣きぼくろがあったのだけ覚えている。キスの後……そのホクロだけを見つめていた。

 そのホクロを持った人間が目の前にいた。
 髪の色は同じだがあの時とは髪型が変わっている……。前髪があるとまるで別人だ。

 まさか、あの人がじつは年下で、しかも合コンに参加してくるとは思っていなかった。

 黒髪オタクは眼鏡を外し髪を片手で縛り上げて微笑んだ。俺が疑っていると思ったらしい。

「まったく……合コンはやめなさいって言ったのにしつこいわね」

「なんで……ここに」

「私この居酒屋の裏方でバイトしているのよ。調理担当……あの時介抱したのはバイトの上がりでたまたま転がっていたあなたを見つけたから。そしたら前にも増して合コンをするわ、しょっちゅうこの店に来るわで……仕方なく現れたってわけ。大学の友人に頼んでメンバーに入れてもらったわ、全く……面倒な男」

 俺は彼女の頰を掴み口付ける。
 我慢できなかった。ずっと探していた。ここに通えばいつか会えると信じていた。合コンもする必要はなかったが、言われた事と逆の事をにしていればまた声をかけてくれるかと思った。
 ずっと、会いたかった──。

 長いキスの後彼女は笑った。

「私の変装……すごいでしょ? みんなにびっくりされるの」

 完璧に妖艶なオーラをオタク色で消していた。本当の彼女は話し方も視線も色気がある。キスの後の唇の色も真っ赤で……もっと食べたくなる。

「気づかなくて……ごめん」

「いいの……楽しませてもらったから」

 そういうと彼女は俺の頰を指でなぞった。その動作と視線の動きに俺は生唾を飲み込む。

「抜け……ようか?」

「ひばりちゃんに悪いわよ」

 彼女はまだ意地悪をする。

 俺は彼女を黙らせるためキスをした──。
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