100のキスをあなたに

菅井群青

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23.公園

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『おい、いるんだろ? 出てこいよ』

「またか、いいよ。すぐ行く」

 私はパーカーを羽織り携帯電話だけ持ち部屋を出る。台所にいる母親に声を掛けると玄関を飛び出した。こんな風に夜遅く出るのは珍しいことではない。

 少し肌寒くなった夜風に肩をすくめる。歩いてしばらくすると幼い頃からよく遊んだ公園が見えてきた。この時間は所々ある電灯だけで少しさみしい雰囲気だ。日中がよく陽が当たるだけに余計にそう感じるのかもしれない。

 電灯の下に置かれたベンチには電話の相手が既に到着していたようだ。

「おう、きたか」

「来たかじゃないわよ、今日はどうしたの?」

 ベンチに座るヤスは高校の友達だ。日直当番になったのが縁で仲良くなった。ヤスの黒板消しの技術の高さに感銘を受けたのがきっかけで仲良くなった。ヤスは見た目は軽そうだが、実は真面目な一面がある。

 それは恋愛だ。ヤスは恥ずかしがり屋でシャイなのだ。多くの人が寡黙で硬派だと勘違いしている。それが違うと知っている人間は少ない。ヤスには好きな人がいる。誰か教えて欲しいと言っても私に言うと上手くいかない気がするといって逃げられた。

 少しでも力になればと思ったのだが……仕方がない。

「んで? 今日はなんの相談? デートコース?」

 ふざけて付き合ってもいないのにそんなことを言う私を見て、ヤスは大きなため息をつく。

「理想の、告白ってなんだ?」

「はい?」

 思わず吹き出しそうになる。何真面目な顔してウブな質問してくれているのかと慌ててしまう。可愛すぎる……! 
 ヤスの可愛さに悶絶しているとつられるようにヤスも真っ赤になっている。

「あー、ごめん。えっと……理想の告白? いやー、考えたことないな……」

「あぁ、理想のキスでもいい」

 ふむ、理想のキス……理想のキス……あ、テレビでやってたやつ。

「こう、突然予期せぬ感じで、こう、急にされるキスとか」

「突然?」

「うん、なんかキューンってときめくんじゃない? そんなシュチュ絶対ないけどね! テレビの中──」

 話しているとヤスの手が私の肩に伸びてきた。

 え?

 気がつくと私はヤスにキスされていた。髪の中に指を入れて引き寄せられ角度を変えて押し付けらる。本当に突然すぎて目も閉じられない。ヤスの顔が目の前にある。唇が触れている……抱きとめられているこの現状がどこか他人事のように感じられる。
 ゆっくりとヤスが離れると私よりヤスの方が真っ赤になっている。

「なんとか言えよ」

「え、えっとあの結構なお手前で──」

「違うだろ」

「……よかった、と思う」

 今の私はどんな顔をしているんだろう。ヤスは吹き出した。

「お前、ようやく俺のこと意識したな。どんだけ鈍感なんだよ」

「な、何よ鈍感って!」

「俺、ずっとお前が好きなんだけど」

 ヤスが真剣な瞳でこちらを見る。

 ヤスが私を好き? 恋愛相談していたヤスが?

 ヤスが私との距離を詰める。私の腕を取り顎に手を当て再び口付けた。

「……わかった?」
「ワカリマシタ」

 その日赤面したまま帰宅した私を見て「走って帰ってこなくてもいいのに」と言った。
私は「走りたかったの」と答えた。

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