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10.飲み会
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駅のそばにあるチェーン店の居酒屋に次々と営業先から戻ってきた同僚たちが集まってくる。
「お疲れ様です」
「おう、お疲れさん」
今日は夏の慰労会という名の飲み会だ。営業帰りで疲れた体にビールを流し込むというこの行事は参加率もよく、この会社の夏のビッグイベントだ。テーブルに置かれた皿と箸の数を数えている私は今回幹事を任された。粗相があってはいけないと気合が入る。真面目な性格がここでも表れる。
「咲ちゃん、ここ座布団足んないわ」
「はい、もらってきます」
同じく幹事を任された一年先輩の池田さんも続々と集まるメンバーの出席を取り大忙しだ。
ようやく時間となり恒例の聞きたくもない社長の夏バテ事情を皆ビール片手に今か今かと待った。先走り泡を吸い上げる者まで現れた頃ようやく乾杯の声がかかった。
「「かんぱーい!」」
焦らされた皆の大声に隣の団体客が振り返って苦笑いを浮かべる。素知らぬふりをして皆一気に飲み干し追加のビールを注文する。とてもじゃないが一杯ずつなんて間に合わない。咲は店員にピッチャーで持ってきてもらうように頼むとどんどん届く料理をテーブルに置いていく。バランスよく置いているか確認すると自分の席へと戻る。ふと見ると隣で飲んでいた池田さんは上司に捕まり無理やり飲まされている。あまり強くないのだろう……池田さんはもうすでに顔が真っ赤になっている。咲はそのジョッキを奪い取るとぐいっと一気に飲み干した。
「さ、池田さん交代です。私も飲まなきゃ」
咲はこう見えてザルだ。家族みんなとてつもなく酒に強い。上司も咲の飲みっぷりに拍手を送ると咲を巻き込み楽しく飲み始めた。
それもすぐに終わりを迎えた……咲のペースにつられ上司もすぐに潰れてしまった。それを見届けると咲は床に溜まったビールジョッキを店の奥へと置きに行った。途中トイレの目隠し用の暖簾のそばにしゃがんでいる人影が見える。
あれは……あー、可哀想に……。
「池田さん? 大丈夫です?」
「あぁ、咲ちゃんかな? ごめんねちょっと休ませて」
池田は真っ赤を通り越して顔色が真っ青だ。手には水のペットボトルが握られている。
「俺うまく吐けないんだよね、こうしてれば良くなるから……」
池田の横に座るとゆっくりと背中を撫でた。いつも仕事が失敗した時に池田は背中を叩いてくれたことを思い出す。池田は驚いたように咲を見ると嬉しそうに微笑んだ。
「お、仲良しだなぁ!」
だいぶ出来上がった同僚たちが私達を見てからかう。ここはトイレの前だ、ピッチの早い男たちはトイレと座敷の往復が多くなっているようだ。
からかわれた先輩が勢いよく立ち上がるとバランスを崩し壁にもたれ込む。
「きゃ……」
「うわ……」
気がつくと壁と池田の体に挟まれている。それだけじゃない……唇が、すっかりぶつかり合っていた。互いに大きく開かれた瞳がかち合うと互いの口元の感覚に気付き更に大きく見開いた。すぐに体を離すが唇の感触は残ったままだ。
「な、ななな……」
「咲ちゃ……ごめ」
そのままなぜか池田が再び咲に口付ける。深いキスに脳天に雷が落ちてきたみたいだ。人が来る気配を感じて離れると同僚が満面の笑みでこちらを見る。
「お、池田! 仲良しだな!おまえもそろそろ咲ちゃんに告白しとけよー、こじらすなよー」
へ? 今なんて?
「崎山さん!」
池田が真っ赤な顔をして酔っ払いを追い払う。
「池田さん、今の──」
「カッコ悪い……ちゃんと俺に言わせてくれよ……」
拗ねたように再びその場にしゃがみこんだ池田に咲はそっと耳打ちした。
今日一緒にかえりましょうね
真っ赤になった池田を一人置いて咲は再び座敷へと戻った。池田の分も二人分しっかりと働いた。そのあとは……本人たちのみぞ知る。
「お疲れ様です」
「おう、お疲れさん」
今日は夏の慰労会という名の飲み会だ。営業帰りで疲れた体にビールを流し込むというこの行事は参加率もよく、この会社の夏のビッグイベントだ。テーブルに置かれた皿と箸の数を数えている私は今回幹事を任された。粗相があってはいけないと気合が入る。真面目な性格がここでも表れる。
「咲ちゃん、ここ座布団足んないわ」
「はい、もらってきます」
同じく幹事を任された一年先輩の池田さんも続々と集まるメンバーの出席を取り大忙しだ。
ようやく時間となり恒例の聞きたくもない社長の夏バテ事情を皆ビール片手に今か今かと待った。先走り泡を吸い上げる者まで現れた頃ようやく乾杯の声がかかった。
「「かんぱーい!」」
焦らされた皆の大声に隣の団体客が振り返って苦笑いを浮かべる。素知らぬふりをして皆一気に飲み干し追加のビールを注文する。とてもじゃないが一杯ずつなんて間に合わない。咲は店員にピッチャーで持ってきてもらうように頼むとどんどん届く料理をテーブルに置いていく。バランスよく置いているか確認すると自分の席へと戻る。ふと見ると隣で飲んでいた池田さんは上司に捕まり無理やり飲まされている。あまり強くないのだろう……池田さんはもうすでに顔が真っ赤になっている。咲はそのジョッキを奪い取るとぐいっと一気に飲み干した。
「さ、池田さん交代です。私も飲まなきゃ」
咲はこう見えてザルだ。家族みんなとてつもなく酒に強い。上司も咲の飲みっぷりに拍手を送ると咲を巻き込み楽しく飲み始めた。
それもすぐに終わりを迎えた……咲のペースにつられ上司もすぐに潰れてしまった。それを見届けると咲は床に溜まったビールジョッキを店の奥へと置きに行った。途中トイレの目隠し用の暖簾のそばにしゃがんでいる人影が見える。
あれは……あー、可哀想に……。
「池田さん? 大丈夫です?」
「あぁ、咲ちゃんかな? ごめんねちょっと休ませて」
池田は真っ赤を通り越して顔色が真っ青だ。手には水のペットボトルが握られている。
「俺うまく吐けないんだよね、こうしてれば良くなるから……」
池田の横に座るとゆっくりと背中を撫でた。いつも仕事が失敗した時に池田は背中を叩いてくれたことを思い出す。池田は驚いたように咲を見ると嬉しそうに微笑んだ。
「お、仲良しだなぁ!」
だいぶ出来上がった同僚たちが私達を見てからかう。ここはトイレの前だ、ピッチの早い男たちはトイレと座敷の往復が多くなっているようだ。
からかわれた先輩が勢いよく立ち上がるとバランスを崩し壁にもたれ込む。
「きゃ……」
「うわ……」
気がつくと壁と池田の体に挟まれている。それだけじゃない……唇が、すっかりぶつかり合っていた。互いに大きく開かれた瞳がかち合うと互いの口元の感覚に気付き更に大きく見開いた。すぐに体を離すが唇の感触は残ったままだ。
「な、ななな……」
「咲ちゃ……ごめ」
そのままなぜか池田が再び咲に口付ける。深いキスに脳天に雷が落ちてきたみたいだ。人が来る気配を感じて離れると同僚が満面の笑みでこちらを見る。
「お、池田! 仲良しだな!おまえもそろそろ咲ちゃんに告白しとけよー、こじらすなよー」
へ? 今なんて?
「崎山さん!」
池田が真っ赤な顔をして酔っ払いを追い払う。
「池田さん、今の──」
「カッコ悪い……ちゃんと俺に言わせてくれよ……」
拗ねたように再びその場にしゃがみこんだ池田に咲はそっと耳打ちした。
今日一緒にかえりましょうね
真っ赤になった池田を一人置いて咲は再び座敷へと戻った。池田の分も二人分しっかりと働いた。そのあとは……本人たちのみぞ知る。
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