100のキスをあなたに

菅井群青

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6.放課後

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 その日も開け放たれた教室の窓から外を見ていた。野球部員が運動場を走っている姿が見える。

 教室の揺れるカーテンに、制服に、部活動……青春ワード盛り沢山だ。

 私は教室で残り、勉強することが多い。別に教室に用事があるわけでもない、ただ下の弟がうるさくて勉強できないだけだ。だからといって図書館も静かすぎて居心地が悪い。普段からいるこの場所で勉強するのが一番だ。

「あれ? 加藤……まだいたんだ」

 教室のドアが開くと学ラン姿の爽やかな少年が現れる。学級委員長の山崎君だ。たしか今日は委員長会議だったことを思い出す。
頭も良くて責任感のある彼は教師からも生徒からも人気だ。

「うん、勉強してんの」

 机に置かれた参考書に視線を戻すと横髪を耳に掻き上げる。山崎君は窓際の私の席にやってくると、「どれどれ」と言い私の計算式を見始める。
 山崎君は今からバスケの練習があるだろうに私の苦手な数学を教えてくれた。やはり彼はすごい、さっきまで到底無理だと思っていた答えを引き出してくれた。

「すごい、山崎君……ありがとう」

 嬉しい。頰を赤らめ興奮しつつもお礼を言うと山崎は眩しそうな顔をした。
 窓から風が吹きカーテンがふわりと浮いた。窓側の席はたまにこうして淡いピンクのカーテンに包まれる。

 山崎君とカーテンにくるまって見えるこの状況に私は思わず固まってしまった。まるで一気に二人っきりだという事を私たちに教えてくれた。動悸がひどく息苦しい。なのになぜか私たちは視線を合わせたまま動けない。

「……ごめん」

 そういうとふわりと羽のような口付けが落とされた。一瞬のことなのにいつまでも残る唇の感触に顔が赤くなる、まるでもっとしていたいと体が訴えているようだ。山崎は真剣な目でこちらの顔を覗き込む。

「好き、だ」

 みるみる山崎の顔が赤くなる。私は室内競技で焼けてもいない白い肌がみるみる赤くなるのを見ていた。信じられないが、こんな顔をさせているのは自分だと思うと嬉しくなる。叶うはずがないと思っていた淡い恋心が激しく動き出した。

「わたし、も、山崎君が好き」

 窓際のカーテンが再びふわりと浮く。

 風とカーテンのせいで私の髪の毛が乱れるとそれを戻すように山崎が髪に触れ耳にかけてやる。恥ずかしそうにはにかんだ笑いを浮かべると二人はまたゆっくりと近づき瞳を閉じた──。
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