忘れられたら苦労しない

菅井群青

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37.嫉妬

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 日曜日の朝、二人は涼香の部屋にいた。大輝は涼香の学生時代のアルバムを見ている。
今よりも髪が長く茶色に染めている。友達と楽しそうに笑っているいい写真だ。
 ページをめくっていくと大輝はあることに気づく。

 涼香ちゃんが、笑っていない……。

 急に髪の色が黒髪になり、短くなった。飲み会だろうか、同じメンバーの筈なのに……涼香ちゃんははにかんだ笑いを浮かべていた。心の底から楽しめていないのが分かる。

 写真の日付は去年か……あの元彼と別れた後だ……。

 大輝はモヤモヤした気持ちになった。こんなに満面の笑みを浮かべていた涼香が別人のように変わってしまった。

 あの男の事を……そんなにも愛していたんだな。

 今更ながら嫉妬する。今は自分のそばにいてくれているのに嫉妬してしまう……自分のこと棚に上げて、バカだな俺。

 大輝はアルバムを閉じてベランダにいる涼香を見つめる。溜まった洗濯物を気持ちよさそうに干していく。パンっといい音を立ててシワを伸ばす涼香の横顔はやさしく微笑んでいる。

 いい笑顔だな……。大輝もつられて微笑む。

 ピピピ──ピピピ

 机に置かれたままの涼香の携帯電話に着信だ。涼香がベランダから慌ててその携帯電話を手に取ると一瞬固まったのが分かった。チラッと大輝を見る。

「……いいよ、出たら?」

「あ……ゴメンね」

 涼香はそのまま電話に出た。大輝は見てしまった。着信の相手の名前はあの元彼だった。

 武人

 そう表示されていたのを見てしまった。
 何も見ていないフリをしたがかなり気になる。聴覚に全集中する。

「あーもしもし?──あ……あはは、そうなんだねぇ、ふふふ、うんうん、それで?」

 やけに優しい、しかも笑顔……。面白くない。ってかなんで連絡してきたんだ?俺の、涼香ちゃんなのに──。

 大輝は立ち上がると電話中の涼香へと近づく。

 俺がそばにいることに気付くと涼香ちゃんは大きく目を開く。焦っているようだ。俺は涼香ちゃんの背後から抱きしめた。ぎゅっと抱きしめて背中に顔を埋める。

「あ、今から遊びに行くの? いいね……」

 涼香ちゃんは電話を切ろうとしない……面白くない。早く切ってほしい。

 大輝は首筋にキスを繰り返す。涼香の体が震える。涼香が片手で大輝を制止しようとするのを、手首を掴み抵抗できないようにする。

「ん、あ、あーそうかぁ、そうなんだね? んじゃあおじちゃんに言ってくれる? おばちゃん忙しいからごめんねって、うん、うん……バイバイ」

 電話を切った涼香は真っ赤な顔をしている。

「大輝くん! もう! 何してんの!?」

「……元彼だろ、見えた」

 涼香の瞬きが多くなる。大輝は抱きしめる力を強める。

「間違い電話、だよ。たぶん武人の姪の桜ちゃんって子だよ」

「は? 姪? なんで……」

「武人の携帯電話で動画見てたらいつのまにか繋がったみたい。言っとくけど、連絡取り合ってないからね! 浮気じゃないよ!」

「ああ、そうか、そうなんだ……」

 涼香が不安そうに大輝を見上げる。

「……大輝くん……連絡先消そうか?」

 正直、嫌だ。怖い……。あんなにも涼香ちゃんを変えた男の番号なんて消してほしい。涼香ちゃんがあの男の事をどんなに思っていたか知っているだけに嫉妬する──でも……。

「いや、残してて。連絡先は消しちゃダメだ」

「大輝くん……でも」

「元彼と同じ事、しちゃダメだよ。涼香ちゃん──俺、アイツに嫉妬してる。けど……涼香ちゃんの気持ちが分かるから、愛おしい気持ちと記憶は、本物だったから。尚更消さないでいて欲しい、連絡先も、思い出も……」

「…………」

「ゴメン、言ってる事めちゃくちゃかも。嫉妬してるって言ってのに俺──」

「ありがと、ごめんね」

 涼香は大輝を抱きしめた。力一杯抱きしめた。

 ピロン

 涼香の携帯電話が鳴る。メールだ。涼香は大輝の前でメールを開く。


──悪い。姪っ子が勝手に電話掛けたみたいだ。今後気をつける。彼氏とラブラブなところ悪いな 笑  お幸せにな!

 それを見て二人は笑ってキスをした。
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