忘れられたら苦労しない

菅井群青

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34.日々を

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「――っっっ!!」

体をずらして、横にあったコンテナに捕まった。衝撃で肩が外れたかと思った。

何とか体を拗らせながら、よじ登る。今の桃が見てたらかっこいいって思ってくれるだろうか。思ってくれるよね。


ガタン!

上から音がした。即座に矢をつがえて、音の出た方向を見る。

「やはり想定以上の強さだな。一発目で殺せると思ったが……どうやら知らず知らずのうちにお前を過小評価していたらしい」

ホープが俺よりも上の位置にあるコンテナの上で蛇のような触手を揺らしていた。俺を見つめてくる目は赤く、白い肌とは不釣り合いのような色をしている。

「……ところでだ。お前を殺そうとはしていたが、お前は俺の予想を超えてくれた。これはこちら側からして、とてもありがたいことだ」
「なら期待を裏切らなかった方が良かったな」

軽口を叩く。何をしてくるのか分からない今、怒らせて単調な攻撃をさせるのがいいだろう。

「ふん……お前は俺と同じだ。弱者を踏みつけ、弱者を従え、弱者を魅力する……強者だ」
「そういうのはノートに書くものだ。今どきの中学生でもそんなことは言わないぞ」
「お前は強い。それも圧倒的にだ。……そこで、お前に提案がある」
「却下する……と言ったら?」
「まぁ聞け。……お前、俺と組む気はないか?俺と一緒にこの世界の真の強者になろう」

無理に決まってんだろ。アホか。こんなことをしておいてなんで俺がお前と組むと思ってんだよ。本当に義務教育受けたのかよ。

「却下だ。その空っぽの頭に冷水でも入れとけ」
「はは……答えが違うぞ!!」

ホープがジャンプした。大ジャンプだ。俺の真上に来た瞬間、俺の所に触手を飛ばしてきた。

俺に向かって銀色に光る刃が4本飛んでくる。細めの隕石のようだ。後ろにバックステップをして4本をなんとか避けきる。

ホープは奥のコンテナに着地したようで重い音を立てていた。触手もホープの元に戻っていく。




ここだと場所がかなり不利だ。せめてあいつより上、せめてほんの少し低いくらいの所でないと矢がまともに当たらない。

俺は隣にあったコンテナに飛び乗った。まだホープからの攻撃は来ていない。

「お前は思わないのか!これまでの世界がおかしいということを!」

ホープが叫んできた。俺に対して言ってるのだろう。これまでの世界がおかしいなんて今更なことだろう。

さらに奥のコンテナに飛び乗る。ここの隣にはさらに高く積まれたコンテナがある。ここに登れば多少はまともに戦えるだろう。

「自然界は弱肉強食だ!弱き者は強き者に食われる!それが自然の摂理だ!」

隣のコンテナに飛び移る。腕の力を最大限使ってよじ登っていった。わりと登れるもんだな。

「だが、これまでの世界はどうだ!?多数の弱き者によって少数の強き者が蹂躙される……こんなことがあっていいのか!?」


ようやくよじ登れた。かなり疲れるわ。俺は別にロッククライミングをしたいわけではないんだよ。

というか登るのに夢中で話をあまり聞いてなかったわ。なんか哲学みたいなことを言ってた気がする。

「なぜ弱者が大きい顔をする!?なぜ強者が弱き者に従って生きていかなくてはならない!?」

左から触手が2本飛び出してきた。体を前に倒して、触手の軌道から逃れる。完全には避けきれずに、触手の刃が背中を掠った。

「ちっ――」

水たまりを踏んだ時のように、真珠のような丸い血液が辺りに飛び散った。

すぐに体勢を立て直して、前のコンテナに飛び移る。我ながらなかなかに判断が速いと思った。

「弱者は同じ弱者を盾にしているんだ!だから強者にだってたてつくことが出来る!本来ならできるわけがないのだ!!」


カズン、カズン、カズン。

下から何かが聞こえてくる。何かが突き破ってくるような音だ。厚い紙を何枚も重ねて、それを一気に鉛筆で突き刺すような感じ――。

下から触手がコンテナを突き破ってきた。持ち前の反射神経で避けられはした。ただし、それは1の話だ。

1本目の触手から少し奥の所。そこからまた、触手が1本突き破って出てきたのだ。さすがに連続は避けきれない。

ならば避けるのではなく防ぐ。弓は金属だ。多少なら刃を防げるだろう。

弓を盾にして、刃の起動をずらす。刃は俺の心臓を狙っていたが、起動を外され斜め上へと進んでいった。その時に頬を少し斬られてしまったが、心臓に触手が刺さるよりかはマシだ。


触手はまだ俺の事を狙ってきている。ここにいては避けきれない。俺はすぐさま、隣のコンテナに飛びついた。

「なぜ弱者はのうのうと生きている!?なぜいつも強者が不幸な目に合うんだ!?弱者の存在理由は強者の栄養となることだ!だがどうだ!?強者の毒になってるではないか!」

呼吸が乱れる。肩を大きく揺らして、できるだけ酸素を肺に取り込む。ここまでなんとか避けきれていたが、もう一度同じようなことが起きたら避けきれる自信が無い。

だけどやるしかない。矢をもう一度つがえる。

「必要なのは多数の弱者ではない!!少数の強者だ!!だから私は世界にZWゾンビウェポンを送り込んだ!強者を選定するためにだ!」

ZW。それがこの世界を変えた元凶というわけか。いいことをしれたな。別に知ったから何かが起こるってわけでもないが。

「……」
「お前は特別な存在だ。1世紀に1度しか見られることは無いであろうほどの強者だ。だからもう一度だけチャンスをやろう」

ホープが俺の前に重ねられていたコンテナに飛び乗った。俺よりも上から目線なのは腹が立つな。

「私と……手を組まないか?」

……嫌だと言いたいところだが……こいつの言ってることはあながち間違いではない。

自然界は本来なら弱肉強食だ。それが普通なんだ。今の人間の方がかなりおかしい。弱者が偉そうな顔をして強者をこき使う。俺だって強者は強者の位置にいるべきだと思う。俺は……俺は……。

「……俺は――」












続く
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