34 / 40
34.日々を
しおりを挟む「――っっっ!!」
体をずらして、横にあったコンテナに捕まった。衝撃で肩が外れたかと思った。
何とか体を拗らせながら、よじ登る。今の桃が見てたらかっこいいって思ってくれるだろうか。思ってくれるよね。
ガタン!
上から音がした。即座に矢をつがえて、音の出た方向を見る。
「やはり想定以上の強さだな。一発目で殺せると思ったが……どうやら知らず知らずのうちにお前を過小評価していたらしい」
ホープが俺よりも上の位置にあるコンテナの上で蛇のような触手を揺らしていた。俺を見つめてくる目は赤く、白い肌とは不釣り合いのような色をしている。
「……ところでだ。お前を殺そうとはしていたが、お前は俺の予想を超えてくれた。これはこちら側からして、とてもありがたいことだ」
「なら期待を裏切らなかった方が良かったな」
軽口を叩く。何をしてくるのか分からない今、怒らせて単調な攻撃をさせるのがいいだろう。
「ふん……お前は俺と同じだ。弱者を踏みつけ、弱者を従え、弱者を魅力する……強者だ」
「そういうのはノートに書くものだ。今どきの中学生でもそんなことは言わないぞ」
「お前は強い。それも圧倒的にだ。……そこで、お前に提案がある」
「却下する……と言ったら?」
「まぁ聞け。……お前、俺と組む気はないか?俺と一緒にこの世界の真の強者になろう」
無理に決まってんだろ。アホか。こんなことをしておいてなんで俺がお前と組むと思ってんだよ。本当に義務教育受けたのかよ。
「却下だ。その空っぽの頭に冷水でも入れとけ」
「はは……答えが違うぞ!!」
ホープがジャンプした。大ジャンプだ。俺の真上に来た瞬間、俺の所に触手を飛ばしてきた。
俺に向かって銀色に光る刃が4本飛んでくる。細めの隕石のようだ。後ろにバックステップをして4本をなんとか避けきる。
ホープは奥のコンテナに着地したようで重い音を立てていた。触手もホープの元に戻っていく。
ここだと場所がかなり不利だ。せめてあいつより上、せめてほんの少し低いくらいの所でないと矢がまともに当たらない。
俺は隣にあったコンテナに飛び乗った。まだホープからの攻撃は来ていない。
「お前は思わないのか!これまでの世界がおかしいということを!」
ホープが叫んできた。俺に対して言ってるのだろう。これまでの世界がおかしいなんて今更なことだろう。
さらに奥のコンテナに飛び乗る。ここの隣にはさらに高く積まれたコンテナがある。ここに登れば多少はまともに戦えるだろう。
「自然界は弱肉強食だ!弱き者は強き者に食われる!それが自然の摂理だ!」
隣のコンテナに飛び移る。腕の力を最大限使ってよじ登っていった。わりと登れるもんだな。
「だが、これまでの世界はどうだ!?多数の弱き者によって少数の強き者が蹂躙される……こんなことがあっていいのか!?」
ようやくよじ登れた。かなり疲れるわ。俺は別にロッククライミングをしたいわけではないんだよ。
というか登るのに夢中で話をあまり聞いてなかったわ。なんか哲学みたいなことを言ってた気がする。
「なぜ弱者が大きい顔をする!?なぜ強者が弱き者に従って生きていかなくてはならない!?」
左から触手が2本飛び出してきた。体を前に倒して、触手の軌道から逃れる。完全には避けきれずに、触手の刃が背中を掠った。
「ちっ――」
水たまりを踏んだ時のように、真珠のような丸い血液が辺りに飛び散った。
すぐに体勢を立て直して、前のコンテナに飛び移る。我ながらなかなかに判断が速いと思った。
「弱者は同じ弱者を盾にしているんだ!だから強者にだってたてつくことが出来る!本来ならできるわけがないのだ!!」
カズン、カズン、カズン。
下から何かが聞こえてくる。何かが突き破ってくるような音だ。厚い紙を何枚も重ねて、それを一気に鉛筆で突き刺すような感じ――。
下から触手がコンテナを突き破ってきた。持ち前の反射神経で避けられはした。ただし、それは1本目のみの話だ。
1本目の触手から少し奥の所。そこからまた、触手が1本突き破って出てきたのだ。さすがに連続は避けきれない。
ならば避けるのではなく防ぐ。弓は金属だ。多少なら刃を防げるだろう。
弓を盾にして、刃の起動をずらす。刃は俺の心臓を狙っていたが、起動を外され斜め上へと進んでいった。その時に頬を少し斬られてしまったが、心臓に触手が刺さるよりかはマシだ。
触手はまだ俺の事を狙ってきている。ここにいては避けきれない。俺はすぐさま、隣のコンテナに飛びついた。
「なぜ弱者はのうのうと生きている!?なぜいつも強者が不幸な目に合うんだ!?弱者の存在理由は強者の栄養となることだ!だがどうだ!?強者の毒になってるではないか!」
呼吸が乱れる。肩を大きく揺らして、できるだけ酸素を肺に取り込む。ここまでなんとか避けきれていたが、もう一度同じようなことが起きたら避けきれる自信が無い。
だけどやるしかない。矢をもう一度つがえる。
「必要なのは多数の弱者ではない!!少数の強者だ!!だから私は世界にZWを送り込んだ!強者を選定するためにだ!」
ZW。それがこの世界を変えた元凶というわけか。いいことをしれたな。別に知ったから何かが起こるってわけでもないが。
「……」
「お前は特別な存在だ。1世紀に1度しか見られることは無いであろうほどの強者だ。だからもう一度だけチャンスをやろう」
ホープが俺の前に重ねられていたコンテナに飛び乗った。俺よりも上から目線なのは腹が立つな。
「私と……手を組まないか?」
……嫌だと言いたいところだが……こいつの言ってることはあながち間違いではない。
自然界は本来なら弱肉強食だ。それが普通なんだ。今の人間の方がかなりおかしい。弱者が偉そうな顔をして強者をこき使う。俺だって強者は強者の位置にいるべきだと思う。俺は……俺は……。
「……俺は――」
続く
体をずらして、横にあったコンテナに捕まった。衝撃で肩が外れたかと思った。
何とか体を拗らせながら、よじ登る。今の桃が見てたらかっこいいって思ってくれるだろうか。思ってくれるよね。
ガタン!
上から音がした。即座に矢をつがえて、音の出た方向を見る。
「やはり想定以上の強さだな。一発目で殺せると思ったが……どうやら知らず知らずのうちにお前を過小評価していたらしい」
ホープが俺よりも上の位置にあるコンテナの上で蛇のような触手を揺らしていた。俺を見つめてくる目は赤く、白い肌とは不釣り合いのような色をしている。
「……ところでだ。お前を殺そうとはしていたが、お前は俺の予想を超えてくれた。これはこちら側からして、とてもありがたいことだ」
「なら期待を裏切らなかった方が良かったな」
軽口を叩く。何をしてくるのか分からない今、怒らせて単調な攻撃をさせるのがいいだろう。
「ふん……お前は俺と同じだ。弱者を踏みつけ、弱者を従え、弱者を魅力する……強者だ」
「そういうのはノートに書くものだ。今どきの中学生でもそんなことは言わないぞ」
「お前は強い。それも圧倒的にだ。……そこで、お前に提案がある」
「却下する……と言ったら?」
「まぁ聞け。……お前、俺と組む気はないか?俺と一緒にこの世界の真の強者になろう」
無理に決まってんだろ。アホか。こんなことをしておいてなんで俺がお前と組むと思ってんだよ。本当に義務教育受けたのかよ。
「却下だ。その空っぽの頭に冷水でも入れとけ」
「はは……答えが違うぞ!!」
ホープがジャンプした。大ジャンプだ。俺の真上に来た瞬間、俺の所に触手を飛ばしてきた。
俺に向かって銀色に光る刃が4本飛んでくる。細めの隕石のようだ。後ろにバックステップをして4本をなんとか避けきる。
ホープは奥のコンテナに着地したようで重い音を立てていた。触手もホープの元に戻っていく。
ここだと場所がかなり不利だ。せめてあいつより上、せめてほんの少し低いくらいの所でないと矢がまともに当たらない。
俺は隣にあったコンテナに飛び乗った。まだホープからの攻撃は来ていない。
「お前は思わないのか!これまでの世界がおかしいということを!」
ホープが叫んできた。俺に対して言ってるのだろう。これまでの世界がおかしいなんて今更なことだろう。
さらに奥のコンテナに飛び乗る。ここの隣にはさらに高く積まれたコンテナがある。ここに登れば多少はまともに戦えるだろう。
「自然界は弱肉強食だ!弱き者は強き者に食われる!それが自然の摂理だ!」
隣のコンテナに飛び移る。腕の力を最大限使ってよじ登っていった。わりと登れるもんだな。
「だが、これまでの世界はどうだ!?多数の弱き者によって少数の強き者が蹂躙される……こんなことがあっていいのか!?」
ようやくよじ登れた。かなり疲れるわ。俺は別にロッククライミングをしたいわけではないんだよ。
というか登るのに夢中で話をあまり聞いてなかったわ。なんか哲学みたいなことを言ってた気がする。
「なぜ弱者が大きい顔をする!?なぜ強者が弱き者に従って生きていかなくてはならない!?」
左から触手が2本飛び出してきた。体を前に倒して、触手の軌道から逃れる。完全には避けきれずに、触手の刃が背中を掠った。
「ちっ――」
水たまりを踏んだ時のように、真珠のような丸い血液が辺りに飛び散った。
すぐに体勢を立て直して、前のコンテナに飛び移る。我ながらなかなかに判断が速いと思った。
「弱者は同じ弱者を盾にしているんだ!だから強者にだってたてつくことが出来る!本来ならできるわけがないのだ!!」
カズン、カズン、カズン。
下から何かが聞こえてくる。何かが突き破ってくるような音だ。厚い紙を何枚も重ねて、それを一気に鉛筆で突き刺すような感じ――。
下から触手がコンテナを突き破ってきた。持ち前の反射神経で避けられはした。ただし、それは1本目のみの話だ。
1本目の触手から少し奥の所。そこからまた、触手が1本突き破って出てきたのだ。さすがに連続は避けきれない。
ならば避けるのではなく防ぐ。弓は金属だ。多少なら刃を防げるだろう。
弓を盾にして、刃の起動をずらす。刃は俺の心臓を狙っていたが、起動を外され斜め上へと進んでいった。その時に頬を少し斬られてしまったが、心臓に触手が刺さるよりかはマシだ。
触手はまだ俺の事を狙ってきている。ここにいては避けきれない。俺はすぐさま、隣のコンテナに飛びついた。
「なぜ弱者はのうのうと生きている!?なぜいつも強者が不幸な目に合うんだ!?弱者の存在理由は強者の栄養となることだ!だがどうだ!?強者の毒になってるではないか!」
呼吸が乱れる。肩を大きく揺らして、できるだけ酸素を肺に取り込む。ここまでなんとか避けきれていたが、もう一度同じようなことが起きたら避けきれる自信が無い。
だけどやるしかない。矢をもう一度つがえる。
「必要なのは多数の弱者ではない!!少数の強者だ!!だから私は世界にZWを送り込んだ!強者を選定するためにだ!」
ZW。それがこの世界を変えた元凶というわけか。いいことをしれたな。別に知ったから何かが起こるってわけでもないが。
「……」
「お前は特別な存在だ。1世紀に1度しか見られることは無いであろうほどの強者だ。だからもう一度だけチャンスをやろう」
ホープが俺の前に重ねられていたコンテナに飛び乗った。俺よりも上から目線なのは腹が立つな。
「私と……手を組まないか?」
……嫌だと言いたいところだが……こいつの言ってることはあながち間違いではない。
自然界は本来なら弱肉強食だ。それが普通なんだ。今の人間の方がかなりおかしい。弱者が偉そうな顔をして強者をこき使う。俺だって強者は強者の位置にいるべきだと思う。俺は……俺は……。
「……俺は――」
続く
1
お気に入りに追加
196
あなたにおすすめの小説

王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。


初恋をこじらせたやさぐれメイドは、振られたはずの騎士さまに求婚されました。
石河 翠
恋愛
騎士団の寮でメイドとして働いている主人公。彼女にちょっかいをかけてくる騎士がいるものの、彼女は彼をあっさりといなしていた。それというのも、彼女は5年前に彼に振られてしまっていたからだ。ところが、彼女を振ったはずの騎士から突然求婚されてしまう。しかも彼は、「振ったつもりはなかった」のだと言い始めて……。
色気たっぷりのイケメンのくせに、大事な部分がポンコツなダメンズ騎士と、初恋をこじらせたあげくやさぐれてしまったメイドの恋物語。
*この作品のヒーローはダメンズ、ヒロインはダメンズ好きです。苦手な方はご注意ください
この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
あなたのそばにいられるなら、卒業試験に落ちても構いません! そう思っていたのに、いきなり永久就職決定からの溺愛って、そんなのありですか?
石河 翠
恋愛
騎士を養成する騎士訓練校の卒業試験で、不合格になり続けている少女カレン。彼女が卒業試験でわざと失敗するのには、理由があった。 彼女は、教官である美貌の騎士フィリップに恋をしているのだ。
本当は料理が得意な彼女だが、「料理音痴」と笑われてもフィリップのそばにいたいと願っている。
ところがカレンはフィリップから、次の卒業試験で不合格になったら、騎士になる資格を永久に失うと告げられる。このままでは見知らぬ男に嫁がされてしまうと慌てる彼女。
本来の実力を発揮したカレンはだが、卒業試験当日、思いもよらない事実を知らされることになる。毛嫌いしていた見知らぬ婚約者の正体は実は……。
大好きなひとのために突き進むちょっと思い込みの激しい主人公と、なぜか主人公に思いが伝わらないまま外堀を必死で埋め続けるヒーロー。両片想いですれ違うふたりの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください
楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。
ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。
ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……!
「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」
「エリサ、愛してる!」
ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
すべてフィクションです。読んでくだり感謝いたします。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
氷の公爵の婚姻試験
黎
恋愛
ある日、若き氷の公爵レオンハルトからある宣言がなされた――「私のことを最もよく知る女性を、妻となるべき者として迎える。その出自、身分その他一切を問わない。」。公爵家の一員となる一世一代のチャンスに王国中が沸き、そして「公爵レオンハルトを最もよく知る女性」の選抜試験が行われた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる