10 / 40
10.勇気
しおりを挟む
ベッドの上にはあの日もらった紙ナプキンが置かれている。その番号を目にしていると本当にあの日のことが夢ではなく現実に起こった事だと実感する。
武人は一体どういうつもりでこれを渡したのだろうか……。
意を決して携帯電話に文字を打ち込む。
──元気?連絡が遅くなってごめんね
差し障りのない言葉を打ち込んでみるが本質的な事は何一つ言えない。まるで昔の友人にするメールの内容みたいで思わず笑えてくる。こんな風に元気かどうかなんて聞かなくてもいい仲だったというのに。
既読になるまでの間じっと画面を見つめていたが怖くなり風呂に行く。何かをしているほうがマシだ。シャワーを浴びている間に考えることは二つだけだ。
風呂から上がった後、返信が来ているのかそうでないか。それだけ。
濡れた髪をタオルで包み部屋に戻ってきて携帯電話を手に取る。真っ暗な画面に明かりがつく……。
あ、きてる──。
ドキドキする。久しぶりの感覚だ。
はやる気持ちとは裏腹にゆっくりと携帯画面を操作する。
──ありがとう、もしかしたら連絡くれないかもしれないと思ってた。嬉しいよ
──ごめんね。元気そうでよ
そこまで打ち込んで文字を消す。さっきから元気かどうかを聞く文章しか打ててない。
──ごめんね。また機会があったら飲みにでも行こうね
涼香は本当に友達のような事しか言えなかった。怖かった。またやり直せると期待すれば、傷つくのが目に見えている。
──また誘うよ。楽しみにしていて
武人の真意はメールからは分からない。それでもあの武人と繋がっていることが嬉しかった。たとえこんな繋がり方でも。
そのまま涼香は大輝に報告のメールをする。
──連絡したよ。返事きた。飲みに行く……かもしれない。わかんないけど。
すぐに大輝から返事がきた。
──頑張ったな。大きな進展じゃん! 楽しみだな。
大輝のメールには前向きな言葉が並ぶ。涼香を励まそうとしているのが分かる。半乾きのままだった髪に巻いたバスタオルを外す。あの日の大輝に触れられた時の温もりを思い出す。店で泣き出した私の頭を抱きしめて、涙ごと包み込んでくれた。
ドライヤーを取り出し髪を乾かしていく。すっかりサラサラに乾いた頃、携帯電話にメールが届いていた。大輝からのメールだった。
──話聞いてくれて、助かった。ありがと
その一文を見て涼香は口元が緩む。
少しは楽になったのだろうか。希さんの話をする大輝くんは本当に切なそうだった。少し私の胸の中で泣くことができたので、少しは前に進んだのかもしれない。
私も、大輝くんもほんのちょっぴりだけど、進んだ。
涼香はもう一人 報告しなくてはいけない人物を思い出した。メールするとすぐに電話がかかってきた。今夜は長くなりそうだ。
「もしもし……」
『ちょっと! 早く言いなさいよ!』
『なになに? どしたー?』
電話の後ろで洋介の間抜けな声が聞こえる。涼香は苦笑いを浮かべつつ、ベッドに横になって武人のことを話しはじめた。
武人は一体どういうつもりでこれを渡したのだろうか……。
意を決して携帯電話に文字を打ち込む。
──元気?連絡が遅くなってごめんね
差し障りのない言葉を打ち込んでみるが本質的な事は何一つ言えない。まるで昔の友人にするメールの内容みたいで思わず笑えてくる。こんな風に元気かどうかなんて聞かなくてもいい仲だったというのに。
既読になるまでの間じっと画面を見つめていたが怖くなり風呂に行く。何かをしているほうがマシだ。シャワーを浴びている間に考えることは二つだけだ。
風呂から上がった後、返信が来ているのかそうでないか。それだけ。
濡れた髪をタオルで包み部屋に戻ってきて携帯電話を手に取る。真っ暗な画面に明かりがつく……。
あ、きてる──。
ドキドキする。久しぶりの感覚だ。
はやる気持ちとは裏腹にゆっくりと携帯画面を操作する。
──ありがとう、もしかしたら連絡くれないかもしれないと思ってた。嬉しいよ
──ごめんね。元気そうでよ
そこまで打ち込んで文字を消す。さっきから元気かどうかを聞く文章しか打ててない。
──ごめんね。また機会があったら飲みにでも行こうね
涼香は本当に友達のような事しか言えなかった。怖かった。またやり直せると期待すれば、傷つくのが目に見えている。
──また誘うよ。楽しみにしていて
武人の真意はメールからは分からない。それでもあの武人と繋がっていることが嬉しかった。たとえこんな繋がり方でも。
そのまま涼香は大輝に報告のメールをする。
──連絡したよ。返事きた。飲みに行く……かもしれない。わかんないけど。
すぐに大輝から返事がきた。
──頑張ったな。大きな進展じゃん! 楽しみだな。
大輝のメールには前向きな言葉が並ぶ。涼香を励まそうとしているのが分かる。半乾きのままだった髪に巻いたバスタオルを外す。あの日の大輝に触れられた時の温もりを思い出す。店で泣き出した私の頭を抱きしめて、涙ごと包み込んでくれた。
ドライヤーを取り出し髪を乾かしていく。すっかりサラサラに乾いた頃、携帯電話にメールが届いていた。大輝からのメールだった。
──話聞いてくれて、助かった。ありがと
その一文を見て涼香は口元が緩む。
少しは楽になったのだろうか。希さんの話をする大輝くんは本当に切なそうだった。少し私の胸の中で泣くことができたので、少しは前に進んだのかもしれない。
私も、大輝くんもほんのちょっぴりだけど、進んだ。
涼香はもう一人 報告しなくてはいけない人物を思い出した。メールするとすぐに電話がかかってきた。今夜は長くなりそうだ。
「もしもし……」
『ちょっと! 早く言いなさいよ!』
『なになに? どしたー?』
電話の後ろで洋介の間抜けな声が聞こえる。涼香は苦笑いを浮かべつつ、ベッドに横になって武人のことを話しはじめた。
1
お気に入りに追加
196
あなたにおすすめの小説


王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?
いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、
たまたま付き人と、
「婚約者のことが好きなわけじゃないー
王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」
と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。
私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、
「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」
なんで執着するんてすか??
策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー
基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。


初恋をこじらせたやさぐれメイドは、振られたはずの騎士さまに求婚されました。
石河 翠
恋愛
騎士団の寮でメイドとして働いている主人公。彼女にちょっかいをかけてくる騎士がいるものの、彼女は彼をあっさりといなしていた。それというのも、彼女は5年前に彼に振られてしまっていたからだ。ところが、彼女を振ったはずの騎士から突然求婚されてしまう。しかも彼は、「振ったつもりはなかった」のだと言い始めて……。
色気たっぷりのイケメンのくせに、大事な部分がポンコツなダメンズ騎士と、初恋をこじらせたあげくやさぐれてしまったメイドの恋物語。
*この作品のヒーローはダメンズ、ヒロインはダメンズ好きです。苦手な方はご注意ください
この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください
楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。
ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。
ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……!
「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」
「エリサ、愛してる!」
ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。
あなたのそばにいられるなら、卒業試験に落ちても構いません! そう思っていたのに、いきなり永久就職決定からの溺愛って、そんなのありですか?
石河 翠
恋愛
騎士を養成する騎士訓練校の卒業試験で、不合格になり続けている少女カレン。彼女が卒業試験でわざと失敗するのには、理由があった。 彼女は、教官である美貌の騎士フィリップに恋をしているのだ。
本当は料理が得意な彼女だが、「料理音痴」と笑われてもフィリップのそばにいたいと願っている。
ところがカレンはフィリップから、次の卒業試験で不合格になったら、騎士になる資格を永久に失うと告げられる。このままでは見知らぬ男に嫁がされてしまうと慌てる彼女。
本来の実力を発揮したカレンはだが、卒業試験当日、思いもよらない事実を知らされることになる。毛嫌いしていた見知らぬ婚約者の正体は実は……。
大好きなひとのために突き進むちょっと思い込みの激しい主人公と、なぜか主人公に思いが伝わらないまま外堀を必死で埋め続けるヒーロー。両片想いですれ違うふたりの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる