33 / 40
33.恋情と友情
しおりを挟む「は?」
「え?」
遠藤夫妻が同じように大根キムチを取り皿へと落とす。双子のような動きに思わず笑ってしまう。涼香が横にいる大輝に目をやると、はにかんだ笑顔を見せる。
「大輝、お前──なんて……」
「いや、だから、俺たち……付き合ってます」
もう一度ゆっくりと言葉を紡ぐと、洋介も弘子もあんぐりと口が開いている。
二人は無言で抱き合いぎゅっと抱きしめ合う。悶絶しているのだろう……遠藤夫婦は声にならない声を上げる。
しばらくして弘子が涼香の方へと歩み寄り熱い抱擁する。それを見た洋介が立ち上がったところで大輝が「いや、俺はいい……」と洋介を止める。それでも洋介は聞こえないふりをして俺の元へとやってくると隣の女子たちに負けないような熱い抱擁をした。
「おい、もういいってば……暑苦しい! 野郎で抱き合うのはごめんだ。おい! 聞いてんのか洋介──」
洋介は泣いていた。
初めて見た、洋介が泣いている。俺には見えないが鼻をすすり、曇った声が聞こえた。
「良かったな……大輝、良かった良かった……」
「洋介……」
明るくていつも楽しげな男の涙は思いのほか心にくる。ただ、付き合ったと報告しただけなのに……ただ、それだけなのに俺たちのために泣いてくれている。それが、嬉しい。
隣を見ると弘子ちゃんも泣いている。涼香も同じように泣いている。
なんだ? 涙涙だ……。
おめでとう、乾杯! やったな! ようやくか!
そう言われて終わるとばかり思っていたのだが、この二人には随分と心配をかけさせてしまったようだ。俺は洋介の肩を叩く。涙がつられて出てしまわぬ様に洋介から視線を外す。
「これからだって。色々とありがとな」
「……おう、とりあえずお前ここ奢れ」
「……は?」
隣の弘子は抱擁が終わり目尻をぬぐいながら席へと戻っている。
「嬉しいわ、大輝くんの奢りだなんて……洋介、あんた確か胃薬持ってたわよね? 私にちょうだい」
夫婦は胃薬を口に含むと湯飲みの茶を飲み干した。本気だ、この似た者夫婦……胃袋の崩壊を恐れていない。
「よし、飲むか……」
大輝は諦めたように笑うとビールを傾けた。涼香も楽しそうに体を左右に揺らしながらジョッキを傾けた。
「えーでは、浜崎大輝くんと木村涼香さんの交際を祝いましょう、カンパーイ!!」
洋介がとんでもない音量で乾杯の音頭をとる。隣にいた会社員もつられてグラスを持ち上げて祝ってくれた。
幸せだった。みんな笑顔で酒を飲んだ。洋介や弘子の友情に胸が熱くなった。大輝や涼香の愛おしい思いに胸が焦がれた。
こんなに幸せを感じながら酒を飲める日が来るなんてあの時は思えなかった。
酒を飲む理由が、変わった。
希……俺、幸せだ。だから、もう心配すんな。いい人たちに囲まれて、俺はもう大丈夫だから。
「え?」
遠藤夫妻が同じように大根キムチを取り皿へと落とす。双子のような動きに思わず笑ってしまう。涼香が横にいる大輝に目をやると、はにかんだ笑顔を見せる。
「大輝、お前──なんて……」
「いや、だから、俺たち……付き合ってます」
もう一度ゆっくりと言葉を紡ぐと、洋介も弘子もあんぐりと口が開いている。
二人は無言で抱き合いぎゅっと抱きしめ合う。悶絶しているのだろう……遠藤夫婦は声にならない声を上げる。
しばらくして弘子が涼香の方へと歩み寄り熱い抱擁する。それを見た洋介が立ち上がったところで大輝が「いや、俺はいい……」と洋介を止める。それでも洋介は聞こえないふりをして俺の元へとやってくると隣の女子たちに負けないような熱い抱擁をした。
「おい、もういいってば……暑苦しい! 野郎で抱き合うのはごめんだ。おい! 聞いてんのか洋介──」
洋介は泣いていた。
初めて見た、洋介が泣いている。俺には見えないが鼻をすすり、曇った声が聞こえた。
「良かったな……大輝、良かった良かった……」
「洋介……」
明るくていつも楽しげな男の涙は思いのほか心にくる。ただ、付き合ったと報告しただけなのに……ただ、それだけなのに俺たちのために泣いてくれている。それが、嬉しい。
隣を見ると弘子ちゃんも泣いている。涼香も同じように泣いている。
なんだ? 涙涙だ……。
おめでとう、乾杯! やったな! ようやくか!
そう言われて終わるとばかり思っていたのだが、この二人には随分と心配をかけさせてしまったようだ。俺は洋介の肩を叩く。涙がつられて出てしまわぬ様に洋介から視線を外す。
「これからだって。色々とありがとな」
「……おう、とりあえずお前ここ奢れ」
「……は?」
隣の弘子は抱擁が終わり目尻をぬぐいながら席へと戻っている。
「嬉しいわ、大輝くんの奢りだなんて……洋介、あんた確か胃薬持ってたわよね? 私にちょうだい」
夫婦は胃薬を口に含むと湯飲みの茶を飲み干した。本気だ、この似た者夫婦……胃袋の崩壊を恐れていない。
「よし、飲むか……」
大輝は諦めたように笑うとビールを傾けた。涼香も楽しそうに体を左右に揺らしながらジョッキを傾けた。
「えーでは、浜崎大輝くんと木村涼香さんの交際を祝いましょう、カンパーイ!!」
洋介がとんでもない音量で乾杯の音頭をとる。隣にいた会社員もつられてグラスを持ち上げて祝ってくれた。
幸せだった。みんな笑顔で酒を飲んだ。洋介や弘子の友情に胸が熱くなった。大輝や涼香の愛おしい思いに胸が焦がれた。
こんなに幸せを感じながら酒を飲める日が来るなんてあの時は思えなかった。
酒を飲む理由が、変わった。
希……俺、幸せだ。だから、もう心配すんな。いい人たちに囲まれて、俺はもう大丈夫だから。
5
お気に入りに追加
196
あなたにおすすめの小説


片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
その出会い、運命につき。
あさの紅茶
恋愛
背が高いことがコンプレックスの平野つばさが働く薬局に、つばさよりも背の高い胡桃洋平がやってきた。かっこよかったなと思っていたところ、雨の日にまさかの再会。そしてご飯を食べに行くことに。知れば知るほど彼を好きになってしまうつばさ。そんなある日、洋平と背の低い可愛らしい女性が歩いているところを偶然目撃。しかもその女性の名字も“胡桃”だった。つばさの恋はまさか不倫?!悩むつばさに洋平から次のお誘いが……。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
すべてフィクションです。読んでくだり感謝いたします。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
あなたのそばにいられるなら、卒業試験に落ちても構いません! そう思っていたのに、いきなり永久就職決定からの溺愛って、そんなのありですか?
石河 翠
恋愛
騎士を養成する騎士訓練校の卒業試験で、不合格になり続けている少女カレン。彼女が卒業試験でわざと失敗するのには、理由があった。 彼女は、教官である美貌の騎士フィリップに恋をしているのだ。
本当は料理が得意な彼女だが、「料理音痴」と笑われてもフィリップのそばにいたいと願っている。
ところがカレンはフィリップから、次の卒業試験で不合格になったら、騎士になる資格を永久に失うと告げられる。このままでは見知らぬ男に嫁がされてしまうと慌てる彼女。
本来の実力を発揮したカレンはだが、卒業試験当日、思いもよらない事実を知らされることになる。毛嫌いしていた見知らぬ婚約者の正体は実は……。
大好きなひとのために突き進むちょっと思い込みの激しい主人公と、なぜか主人公に思いが伝わらないまま外堀を必死で埋め続けるヒーロー。両片想いですれ違うふたりの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。
海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】
クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。
しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。
失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが――
これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。
※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました!
※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる