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26.オトコ会
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「は……泊まった?」
「あぁ、俺の部屋にな」
洋介がすぐに顔を寄せて真顔になる。チャラけたやつが真顔になると気味が悪い。
「まさか、ヤッた……?」
「んなわけあるか……友達だ」
「お前、親友の俺ですら部屋に泊まらせたことねぇだろ」
「…………そうだったか?」
洋介は何を思ったのか小さく頷き始める。手に持っていたビールをぐいっと飲み、俺を睨みつける。
「正直に言え……傷ついた涼香ちゃんを、帰したくなかったんだろ?」
図星すぎて大輝は一瞬固まるがそのまま「馬鹿らしい……」といいビールを飲む。
「普通の男ならそこでヤらなくても手は出すけどな。キスぐらいして──」
「ブファ!……ゴホ──ゴホゴホッ!」
大輝がビールを噎せて吐いた。
洋介は信じられないものを見るように大輝を見る。割り箸を持ち大輝の顔の前に突きつける。その瞳は真剣だ。
「お前、涼香ちゃんに……キスを、したんだな? そうだろ?」
「あ、いや、寝顔を見てたら……してた──あぁ……なんで俺あんな事……洋介!! 絶対言うな……弘子ちゃんにも言うな! 誰にも言うな! 死ぬまで言うな!」
「い、痛いです。言いません、言えません……涼香ちゃんは知らないのか?」
「あぁ、ちゃんと、俺から本人に謝るから……黙っててくれ」
大輝が洋介の肩を力強く掴んで凄む。自分でも信じられないのだろう。大輝の性格上こんな冒険するような事はしない。
まさか、自覚なしで思わずキスしたのか?
石橋を叩いて渡るような安全第一の大輝がそんなことをするなんて……よほどこいつ涼香ちゃんのこと……。
「言わないけど……大輝、それどういう意味か分かってるんだよな?」
「……涼香ちゃんに、惹かれてる──と思う」
「お、おおおお!? うんうん、いいよいいよ続けて!」
洋介は熱い映画監督のようなテンションになっている。
「でも……涼香ちゃんを好きかどうか、確信はない」
「え、でも……惹かれてるんだろ?」
大輝は目の前の枝豆を数個口に放り込み咀嚼する。
「希の代わりにしたくない……希のいない部分を埋めるために涼香ちゃんを求めてるのか分からないんだ。涼香ちゃんはいい子だ……だから、俺なんかとどうこうなっちゃダメだ」
「お前の何がダメなんだ?」
「え?」
「お前に何が問題あるんだ? 大輝はちゃんと人を幸せにできる。何も問題ないだろう。愛する人を失う悲しみを知るお前は、誰よりも愛せる幸せを知ってるだろうが……お前と一緒にいる女の子は、幸せに決まってるだろうが、バァカ」
「洋介……」
洋介は眉間にしわを寄せビールを飲み干す。
「それに……希ちゃんの代わりじゃないよ、涼香ちゃんは……全く違う扱いをしていると思うけど……」
「希と違う扱い?」
洋介は割り箸を小皿に置く。その表情は優しい。
「希ちゃんはお前の一部だから怒ったり、嫉妬しないだろう? 大輝、お前は涼香ちゃんのことになると人前で怒るわ、嫉妬で飲むわ、しまいには迎えに行って部屋に泊まらせる……大輝、お前生きてる感じがしないか? なんて言うか、感情が溢れてる。希ちゃんのいない部分を埋めるだけならそんな一生懸命じゃないだろ、普通」
俺が、生きてる?
涼香ちゃんみたいに……生きてるのか。
「はは……そうか、そうなんだな……俺は、涼香ちゃんと生きたいのか……、そういうことか──」
大輝は泣きそうになるのが洋介にバレないように額に手を当てた。気を抜けば涙が落ちそうだ。嬉しいのと、希への申し訳なさと色んな感情が混ざる。
── 希さんが心にいるのが大輝くんでしょ、忘れるなんて言い方しないで。希さんの事を思い出して、悲しい気持ちにならなければそれでいいんじゃない?
涼香の言葉が蘇った。大輝はそれを思い出しながら希の事を思った。
希、ごめん……俺、涼香ちゃんが好きらしい。あの子みたいに生きたい、あの子と一緒に生きたいんだ──希は、許してくれるか?
その日の晩、希が夢の中で俺に会いにきてくれた──。
「あぁ、俺の部屋にな」
洋介がすぐに顔を寄せて真顔になる。チャラけたやつが真顔になると気味が悪い。
「まさか、ヤッた……?」
「んなわけあるか……友達だ」
「お前、親友の俺ですら部屋に泊まらせたことねぇだろ」
「…………そうだったか?」
洋介は何を思ったのか小さく頷き始める。手に持っていたビールをぐいっと飲み、俺を睨みつける。
「正直に言え……傷ついた涼香ちゃんを、帰したくなかったんだろ?」
図星すぎて大輝は一瞬固まるがそのまま「馬鹿らしい……」といいビールを飲む。
「普通の男ならそこでヤらなくても手は出すけどな。キスぐらいして──」
「ブファ!……ゴホ──ゴホゴホッ!」
大輝がビールを噎せて吐いた。
洋介は信じられないものを見るように大輝を見る。割り箸を持ち大輝の顔の前に突きつける。その瞳は真剣だ。
「お前、涼香ちゃんに……キスを、したんだな? そうだろ?」
「あ、いや、寝顔を見てたら……してた──あぁ……なんで俺あんな事……洋介!! 絶対言うな……弘子ちゃんにも言うな! 誰にも言うな! 死ぬまで言うな!」
「い、痛いです。言いません、言えません……涼香ちゃんは知らないのか?」
「あぁ、ちゃんと、俺から本人に謝るから……黙っててくれ」
大輝が洋介の肩を力強く掴んで凄む。自分でも信じられないのだろう。大輝の性格上こんな冒険するような事はしない。
まさか、自覚なしで思わずキスしたのか?
石橋を叩いて渡るような安全第一の大輝がそんなことをするなんて……よほどこいつ涼香ちゃんのこと……。
「言わないけど……大輝、それどういう意味か分かってるんだよな?」
「……涼香ちゃんに、惹かれてる──と思う」
「お、おおおお!? うんうん、いいよいいよ続けて!」
洋介は熱い映画監督のようなテンションになっている。
「でも……涼香ちゃんを好きかどうか、確信はない」
「え、でも……惹かれてるんだろ?」
大輝は目の前の枝豆を数個口に放り込み咀嚼する。
「希の代わりにしたくない……希のいない部分を埋めるために涼香ちゃんを求めてるのか分からないんだ。涼香ちゃんはいい子だ……だから、俺なんかとどうこうなっちゃダメだ」
「お前の何がダメなんだ?」
「え?」
「お前に何が問題あるんだ? 大輝はちゃんと人を幸せにできる。何も問題ないだろう。愛する人を失う悲しみを知るお前は、誰よりも愛せる幸せを知ってるだろうが……お前と一緒にいる女の子は、幸せに決まってるだろうが、バァカ」
「洋介……」
洋介は眉間にしわを寄せビールを飲み干す。
「それに……希ちゃんの代わりじゃないよ、涼香ちゃんは……全く違う扱いをしていると思うけど……」
「希と違う扱い?」
洋介は割り箸を小皿に置く。その表情は優しい。
「希ちゃんはお前の一部だから怒ったり、嫉妬しないだろう? 大輝、お前は涼香ちゃんのことになると人前で怒るわ、嫉妬で飲むわ、しまいには迎えに行って部屋に泊まらせる……大輝、お前生きてる感じがしないか? なんて言うか、感情が溢れてる。希ちゃんのいない部分を埋めるだけならそんな一生懸命じゃないだろ、普通」
俺が、生きてる?
涼香ちゃんみたいに……生きてるのか。
「はは……そうか、そうなんだな……俺は、涼香ちゃんと生きたいのか……、そういうことか──」
大輝は泣きそうになるのが洋介にバレないように額に手を当てた。気を抜けば涙が落ちそうだ。嬉しいのと、希への申し訳なさと色んな感情が混ざる。
── 希さんが心にいるのが大輝くんでしょ、忘れるなんて言い方しないで。希さんの事を思い出して、悲しい気持ちにならなければそれでいいんじゃない?
涼香の言葉が蘇った。大輝はそれを思い出しながら希の事を思った。
希、ごめん……俺、涼香ちゃんが好きらしい。あの子みたいに生きたい、あの子と一緒に生きたいんだ──希は、許してくれるか?
その日の晩、希が夢の中で俺に会いにきてくれた──。
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