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28.想いは心へ収め、未来へ
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俺の目の前で涼香ちゃんが申し訳なさそうに頭を下げる。
「改めまして、大変、大変申し訳なかったです……お世話になりまして……」
俺の前に紙袋を置いた。その横にポンっと置いたプラスチックの筒に思わず吹き出す。子どもの頃駄菓子屋で食べた味付きスルメイカだ。詫びの品のセンスに笑いが出る。
「くっくっ……良かろう。ってか全然迷惑じゃない。逆に俺に電話して欲しかったぐらいだ」
「大輝くん……ごめんね、ありがとね!」
「いや、ほんとごめんな……」
「ん?」
「……イカのお菓子のこと」
涼香は大輝を見て微笑んだ。その笑顔が眩しい。
俺たちは久し振りに韓国料理屋さんにやってきた。あのイカの店はしばらく経って、ほとぼりが冷めてから行ったほうがいいだろう。大将の視線が痛い……。
「あれからどうなの? 後悔、とか、してないの?」
大輝はさらっと言えない。涼香は考えるような素振りを見せながら突き出しのナムルに箸をつける。
「……後悔したり、しなかったり……なんて言うんだろう、武人とは無理なんだろうなって分かってるの、分かってるんだけど……バカだよね、好きになった人は、やっぱり好きなんだね──って、言ってること分かんないね、支離滅裂で。今回振ったのは私だけど……」
涼香は手を振るとビールを手に取ると、ぐいっと飲む。
「嫌いじゃない、武人のこと。それだけ、たまに思い出して、あぁ……あんなことあったな、ああ言ってたなって思い出すかもね。でも、それでも、私の中ではもう忘れられてる感じ。過去の切なくて、甘かった恋の一つになってる……もう、これで終わったんだなって、そんな感じ」
「違うから、もう吹っ切れてるんだからね!」と俺に何度も念を押す。その顔に俺は安心する、色々な意味で。
「俺も、涼香ちゃんのおかげで変わったよ……」
ちょうど隣の席の客が帰っていった。これで少し話しやすくなる。
「希のこと話せるようになって少しずつ辛さがなくなって、希との楽しかった思い出を思い出して笑えるようになった。楽しかった、最高だった思い出を俺はずっと悲しい目でしか見れなかったから……希をいい思い出にしてやれそうだ」
「ちょっとは、私も役に立てたみたい……よかった……」
涼香は目の前の炒め物を皿に取り分けて俺の前に置く。箸を置くと徐に大輝の頭に触れる。
「それでいいんだよ。時折希さんとの思い出に浸って、懐かしんで……。大輝くんの心を包んでくれるいい人が現れたら、一緒に幸せになればいい……大輝くんの幸せを誰よりも望んでるのは、希さんだから……」
大輝は頭を上げると同じように涼香の頭に触れる。二人は笑い合い、ビールジョッキを傾けた。
大輝はこうして話してみて、涼香への気持ちを再確認していた。涼香は希のことをいつも考えてアドバイスをくれる、そんな涼香を純粋に好きだと思った。ただ、まだ気持ちを伝えられなかった。
スイッチのようにいかないんだ、こういうものは……。でも、俺は涼香ちゃんが好きだ、それはもう悩まない。ちゃんと、伝えたい。
涼香は安堵していた。
大輝にはずっと武人のことを応援してもらっていた。大輝がいなければ、きっとまた私たちはすれ違い傷つけあっていたかもしれない。私たち二人が前を向いて歩けるようになったのは……大輝のおかげだ。
大輝くん……希さんの話をする時に本当に表情が穏やかになった。辛そうじゃない、泣くのを我慢してもいない……。
本当に思い出の中の希さんを微笑ましく思い出してるようだ。少しでも、役に立てたのなら良かった。
大輝くんも、私みたいに前に進めるようになるかもしれない。恋を……愛を……もう一度……。
大輝くんが恋を──する?
少し胸に痛みを感じた。勝手に自分で考えて傷ついた。バカみたい。自分が選ばれるって勘違いしてるみたい。
大輝くんはダメだって……。大輝くんは、大事な人。絶対に失いたくない……ずっと一緒にこうしていたい。
涼香が難しい顔をしていると大輝が熱々のチヂミを涼香の口に放り込む。今日は特別出来立てだったようだ。
「んー!? ふぁ、ふあふあ……んぐ──あっちぃな!! あちー、舌が……」
「難しい顔してるからだ、美味かったろ?」
「ふうふうして冷ましてからしてよね……もう……」
涼香は舌の先を外に出し冷やす。その舌は赤くなっていた。その口元に大輝は釘付けになる。
「赤い?」
「……あ? あ、ああ、赤い、よ──」
大輝は残ったビールを一気に飲み干してお代わりを注文した。
緩やかに、そして少しずつ変わった二人がそこに居た。
「改めまして、大変、大変申し訳なかったです……お世話になりまして……」
俺の前に紙袋を置いた。その横にポンっと置いたプラスチックの筒に思わず吹き出す。子どもの頃駄菓子屋で食べた味付きスルメイカだ。詫びの品のセンスに笑いが出る。
「くっくっ……良かろう。ってか全然迷惑じゃない。逆に俺に電話して欲しかったぐらいだ」
「大輝くん……ごめんね、ありがとね!」
「いや、ほんとごめんな……」
「ん?」
「……イカのお菓子のこと」
涼香は大輝を見て微笑んだ。その笑顔が眩しい。
俺たちは久し振りに韓国料理屋さんにやってきた。あのイカの店はしばらく経って、ほとぼりが冷めてから行ったほうがいいだろう。大将の視線が痛い……。
「あれからどうなの? 後悔、とか、してないの?」
大輝はさらっと言えない。涼香は考えるような素振りを見せながら突き出しのナムルに箸をつける。
「……後悔したり、しなかったり……なんて言うんだろう、武人とは無理なんだろうなって分かってるの、分かってるんだけど……バカだよね、好きになった人は、やっぱり好きなんだね──って、言ってること分かんないね、支離滅裂で。今回振ったのは私だけど……」
涼香は手を振るとビールを手に取ると、ぐいっと飲む。
「嫌いじゃない、武人のこと。それだけ、たまに思い出して、あぁ……あんなことあったな、ああ言ってたなって思い出すかもね。でも、それでも、私の中ではもう忘れられてる感じ。過去の切なくて、甘かった恋の一つになってる……もう、これで終わったんだなって、そんな感じ」
「違うから、もう吹っ切れてるんだからね!」と俺に何度も念を押す。その顔に俺は安心する、色々な意味で。
「俺も、涼香ちゃんのおかげで変わったよ……」
ちょうど隣の席の客が帰っていった。これで少し話しやすくなる。
「希のこと話せるようになって少しずつ辛さがなくなって、希との楽しかった思い出を思い出して笑えるようになった。楽しかった、最高だった思い出を俺はずっと悲しい目でしか見れなかったから……希をいい思い出にしてやれそうだ」
「ちょっとは、私も役に立てたみたい……よかった……」
涼香は目の前の炒め物を皿に取り分けて俺の前に置く。箸を置くと徐に大輝の頭に触れる。
「それでいいんだよ。時折希さんとの思い出に浸って、懐かしんで……。大輝くんの心を包んでくれるいい人が現れたら、一緒に幸せになればいい……大輝くんの幸せを誰よりも望んでるのは、希さんだから……」
大輝は頭を上げると同じように涼香の頭に触れる。二人は笑い合い、ビールジョッキを傾けた。
大輝はこうして話してみて、涼香への気持ちを再確認していた。涼香は希のことをいつも考えてアドバイスをくれる、そんな涼香を純粋に好きだと思った。ただ、まだ気持ちを伝えられなかった。
スイッチのようにいかないんだ、こういうものは……。でも、俺は涼香ちゃんが好きだ、それはもう悩まない。ちゃんと、伝えたい。
涼香は安堵していた。
大輝にはずっと武人のことを応援してもらっていた。大輝がいなければ、きっとまた私たちはすれ違い傷つけあっていたかもしれない。私たち二人が前を向いて歩けるようになったのは……大輝のおかげだ。
大輝くん……希さんの話をする時に本当に表情が穏やかになった。辛そうじゃない、泣くのを我慢してもいない……。
本当に思い出の中の希さんを微笑ましく思い出してるようだ。少しでも、役に立てたのなら良かった。
大輝くんも、私みたいに前に進めるようになるかもしれない。恋を……愛を……もう一度……。
大輝くんが恋を──する?
少し胸に痛みを感じた。勝手に自分で考えて傷ついた。バカみたい。自分が選ばれるって勘違いしてるみたい。
大輝くんはダメだって……。大輝くんは、大事な人。絶対に失いたくない……ずっと一緒にこうしていたい。
涼香が難しい顔をしていると大輝が熱々のチヂミを涼香の口に放り込む。今日は特別出来立てだったようだ。
「んー!? ふぁ、ふあふあ……んぐ──あっちぃな!! あちー、舌が……」
「難しい顔してるからだ、美味かったろ?」
「ふうふうして冷ましてからしてよね……もう……」
涼香は舌の先を外に出し冷やす。その舌は赤くなっていた。その口元に大輝は釘付けになる。
「赤い?」
「……あ? あ、ああ、赤い、よ──」
大輝は残ったビールを一気に飲み干してお代わりを注文した。
緩やかに、そして少しずつ変わった二人がそこに居た。
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