1 / 40
1.出会い
しおりを挟む
今日は大学時代の友人である弘子から久し振りにご飯の誘いがあり、仕事を終わらせ待ち合わせ場所へと向かっていた。
弘子とご飯を食べるなんて久しぶりだ。
弘子がシングルの時にはよく二人で居酒屋をはしごしたものだが結婚しその機会はほとんどなくなった。
「おーお疲れ様」
「よし、行こっか」
店の中に入り弘子が名前を伝えると店員が案内をする。途中食事を終えたカップルの横を通るとき懐かしい香水の香りが鼻につき思わず反応してしまう。
遠ざかる後ろ姿の男は思い描いている人ではない。もしそうだとしても、呼び止めることも出来ない。
「涼香、どした?」
「あ、なんでもない」
弘子の後を追うと大きめのテーブルに案内される。隣の二人掛けの席も空いているのになぜここに案内されたのだろうか。弘子は涼香の表情の変化を捉えて、悪戯がバレたような顔をする。
「バレた? ごめん、でもどうしてもほっとけなくて……」
弘子の言葉で嫌な予感がした。
「お、俺らが先だと思ったけどな」
振り返ると弘子の旦那の遠藤洋介が手をひらひらとさせて近づいてくる。その後ろには同じくスーツ姿の男性がいて涼香と同じような表情で固まっている。
「洋介、お前……これ──」
「騙して悪い、ま、とりあえず座れ、な?」
洋介は本当に悪いと思っていないようだ。眉間にしわを寄せた男性は黙って涼香の向かいの席に座る。涼香と目を合わせないようにやや伏し目がちにテーブルに置かれた皿や箸を見ている。
「さて、揃いましたね。こちら私の大学時代からの親友の木村涼香さん……皆同じ年ね。都内のIT企業に勤めていて──」
弘子が手慣れた見合いの仲人のように涼香を紹介していく。それを微妙な顔で見ながら目の前の男性を盗み見る。
短い髪をセットして爽やかな青年だ。まさに今時の髪型だ。切れ長の瞳に鼻筋の通った顔をしていて外回りが多いのか肌は少し焼けている。
一瞬だけ顔を上げて目が合った。
だが、すぐに逸らさせてしまった。それだけなのになぜだか、この男性は私と似ている……そう思った。
「よし、俺の番だ。こちら同じ職場の浜崎大輝さんで、広告会社にお勤めの二十七歳、高校の時に水泳部に所属しており──」
「その情報はいらないだろ」
大輝はノリノリで紹介をし始めた洋介を黙らせる。呆れた顔で洋介を見ると顔を背けてバレぬように大きく息を吐いた。
浮かない顔の私達を見て隣の遠藤夫婦は嬉しそうに微笑んでいる。
無理やりセッティングされたこの席で私たちは出会った。この時にはお節介な夫婦に付き合わされた不幸な二人ぐらいにしか思わなかった。
その日夫婦から大いに話題を振られ会話を引き出され、無理やりその場をやり過ごしたが、この店を出ればもう話すこともないと思っていたのだから。だが、さすが抜け目ないバカ夫婦だ、帰り際に勝手に私たちの連絡先をメールで送信した。
メールには浜崎大輝 090-XXXX-XXXXとある。あちらの携帯電話には私の名前と電話番号が書かれているのだろう。
大輝が携帯画面を見て目を細めたのが見えた。
涼香は弘子を睨むが敢えて視線を逸らしているようだ。口裏を合わせていたかのような夫婦の素早い仕事に溜め息しか出ない。
大輝は隠すこともせず眉間にしわを寄せ洋介を睨む。そして向かいに座る涼香に申し訳なさそうに頭を下げた。涼香もとりあえず頭を下げるが、それを見た遠藤夫婦は満足げに微笑んでいた。まったく困った二人だ。
食事会はお開きになり駅で解散となった。とりあえず涼香は社交辞令とばかりに今日のお礼と食事に付き合わせて申し訳ない、楽しかったですという旨を送信した。大輝からすぐに返信があった。店での対応からして無視されるかもしれないと思ったが意外にも早かった。
巻き込んでしまい、すみませんでした。
今日はありがとうございました。
巻き込んだ? 巻き込んだのはこちらではないのか?
涼香はそのまま携帯電話をカバンに押し込んだ。
弘子とご飯を食べるなんて久しぶりだ。
弘子がシングルの時にはよく二人で居酒屋をはしごしたものだが結婚しその機会はほとんどなくなった。
「おーお疲れ様」
「よし、行こっか」
店の中に入り弘子が名前を伝えると店員が案内をする。途中食事を終えたカップルの横を通るとき懐かしい香水の香りが鼻につき思わず反応してしまう。
遠ざかる後ろ姿の男は思い描いている人ではない。もしそうだとしても、呼び止めることも出来ない。
「涼香、どした?」
「あ、なんでもない」
弘子の後を追うと大きめのテーブルに案内される。隣の二人掛けの席も空いているのになぜここに案内されたのだろうか。弘子は涼香の表情の変化を捉えて、悪戯がバレたような顔をする。
「バレた? ごめん、でもどうしてもほっとけなくて……」
弘子の言葉で嫌な予感がした。
「お、俺らが先だと思ったけどな」
振り返ると弘子の旦那の遠藤洋介が手をひらひらとさせて近づいてくる。その後ろには同じくスーツ姿の男性がいて涼香と同じような表情で固まっている。
「洋介、お前……これ──」
「騙して悪い、ま、とりあえず座れ、な?」
洋介は本当に悪いと思っていないようだ。眉間にしわを寄せた男性は黙って涼香の向かいの席に座る。涼香と目を合わせないようにやや伏し目がちにテーブルに置かれた皿や箸を見ている。
「さて、揃いましたね。こちら私の大学時代からの親友の木村涼香さん……皆同じ年ね。都内のIT企業に勤めていて──」
弘子が手慣れた見合いの仲人のように涼香を紹介していく。それを微妙な顔で見ながら目の前の男性を盗み見る。
短い髪をセットして爽やかな青年だ。まさに今時の髪型だ。切れ長の瞳に鼻筋の通った顔をしていて外回りが多いのか肌は少し焼けている。
一瞬だけ顔を上げて目が合った。
だが、すぐに逸らさせてしまった。それだけなのになぜだか、この男性は私と似ている……そう思った。
「よし、俺の番だ。こちら同じ職場の浜崎大輝さんで、広告会社にお勤めの二十七歳、高校の時に水泳部に所属しており──」
「その情報はいらないだろ」
大輝はノリノリで紹介をし始めた洋介を黙らせる。呆れた顔で洋介を見ると顔を背けてバレぬように大きく息を吐いた。
浮かない顔の私達を見て隣の遠藤夫婦は嬉しそうに微笑んでいる。
無理やりセッティングされたこの席で私たちは出会った。この時にはお節介な夫婦に付き合わされた不幸な二人ぐらいにしか思わなかった。
その日夫婦から大いに話題を振られ会話を引き出され、無理やりその場をやり過ごしたが、この店を出ればもう話すこともないと思っていたのだから。だが、さすが抜け目ないバカ夫婦だ、帰り際に勝手に私たちの連絡先をメールで送信した。
メールには浜崎大輝 090-XXXX-XXXXとある。あちらの携帯電話には私の名前と電話番号が書かれているのだろう。
大輝が携帯画面を見て目を細めたのが見えた。
涼香は弘子を睨むが敢えて視線を逸らしているようだ。口裏を合わせていたかのような夫婦の素早い仕事に溜め息しか出ない。
大輝は隠すこともせず眉間にしわを寄せ洋介を睨む。そして向かいに座る涼香に申し訳なさそうに頭を下げた。涼香もとりあえず頭を下げるが、それを見た遠藤夫婦は満足げに微笑んでいた。まったく困った二人だ。
食事会はお開きになり駅で解散となった。とりあえず涼香は社交辞令とばかりに今日のお礼と食事に付き合わせて申し訳ない、楽しかったですという旨を送信した。大輝からすぐに返信があった。店での対応からして無視されるかもしれないと思ったが意外にも早かった。
巻き込んでしまい、すみませんでした。
今日はありがとうございました。
巻き込んだ? 巻き込んだのはこちらではないのか?
涼香はそのまま携帯電話をカバンに押し込んだ。
2
お気に入りに追加
196
あなたにおすすめの小説
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
すべてフィクションです。読んでくだり感謝いたします。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。

王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。
海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】
クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。
しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。
失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが――
これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。
※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました!
※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
その出会い、運命につき。
あさの紅茶
恋愛
背が高いことがコンプレックスの平野つばさが働く薬局に、つばさよりも背の高い胡桃洋平がやってきた。かっこよかったなと思っていたところ、雨の日にまさかの再会。そしてご飯を食べに行くことに。知れば知るほど彼を好きになってしまうつばさ。そんなある日、洋平と背の低い可愛らしい女性が歩いているところを偶然目撃。しかもその女性の名字も“胡桃”だった。つばさの恋はまさか不倫?!悩むつばさに洋平から次のお誘いが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる