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26.……ん?

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「あぁ……キツイ……久々の徹夜は堪えた……」

 完成間近のプログラムにバグが見つかった。最も悲しい瞬間だ。だって終わりかけて納期に間に合うぞって時にフリーズだ。みんなこの世の終わりのような顔をしていた。
もちろん紫まむし極楽一発ドリンクを愛飲しているうちの社員たちだ、なんとか乗り切った。

 アパートのエレベーターへと向かうと女性二人が痴話話をしながら到着を待っているようだ。

「……こんばんは」

「こんばん、あら、こんばんは」
「どうも」

 随分と話し方がラフな感じだ。知り合いのようだ。女性二人の顔をじっと見てみる……。

 同じ階だったか?思い出せない……。

 徹夜明けの葵の目は潤んで揺れている。寝ていないせいで頰も赤い。女性達がみるみる顔が赤くなる。葵の眼光の奥に確かな熱を感じ女性たちは息を飲む。

「あ、あの……ごめんなさい私腰痛が……」

「あー、私も心臓にステントが入ってて無理は──」

「ん?あぁ、そうか。体が資本ですもんね、元気って大事ですよね」

 会話から推測するに、この間行った整体で会ったのかもしれない。葵はにっこりと微笑んだ。

 もちろん違う。ただ葵が絶倫&セックス依存症として有名なだけだ。

 チン

 エレベーターに乗り込むと【6】を押す。女性達は【8】を押した。

 葵に携帯電話が鳴り出した。「すみません」といい電話に出る。

『葵さん、もうつきます?』

「華子さんもう着きますよ。申し訳ないんですがすぐにんですがいいですか?その後に──」

 ドォン

 女性の一人が真っ赤な顔をして持っていた牛乳パックを落とした。女性は葵に頭を下げると、牛乳パックを胸に抱えた。もう一人はなぜかポエムでも執筆しているかのような顔で遠くを見ている。

『どうかしました?』

「あ、いえ何も……ご飯は後にしましょう。いまは。もう横になってひたすら華子さんの温もりを感じたいんです。あぁ、待ち遠しいです……」

「吐息が……だめだ、鼻血が……」
「横か……」

 女性達が額に手を当てて天を仰ぐ。
 二人とも徹夜明けの艶かしい葵の姿とエロセリフに悶絶していた。このモードの葵を止められない。本能のままに話をしている。性欲ではない、睡眠欲だ。

 チン

 あっという間に六階に到着した。

 葵が二人に犯罪級の笑顔を振りまいて降りていった。もう部屋に到着するからだろうか、目はより虚ろで妖艶な雰囲気だ。

 ドアが閉まると女性達は真顔で頷く。

「ぎっくり腰になってもいいわね……」

「……救急車先に呼んでおこうかしら」

  知らぬ間に人気が上がっている葵だった。

「なんか最近ご近所との交流が多いな……ま、いいことだけど」

 呑気な葵は気づかない。気付かなくていい。
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