25 / 38
25.同志よ、今立ち上がれ!
しおりを挟む
太陽が真上にのぼる頃突然自宅のインターホンが鳴る。
ドアを開けると四階に住む田中という名の女だった。廊下ですれ違うと会釈をするぐらいの関係だ。一体何の用だろうか……。
田中は小太りだが艶やかな白い肌……それに黒髪のおかっぱ頭の住人だ。白髪マダムも顔と名前を覚えるほどのインパクトだ。
「あら、奥様、突然どうなさったんです?」
「奥様、ちょっとお話が──」
あたりを気にする素振りを見せるので白髪マダムは玄関に通しドアを閉める。
「……奥様、絶倫カップルと仲がよろしいでしょ?」
いつのまにか白髪マダムは絶倫カップルの一味になっているようだ。マダムは何も言わずに頷く。決して私は絶倫じゃないとは言わない。白髪マダムは絶倫が恥ずかしいと思うこの世の中を変えたいと崇高なビジョンを描いているからだ。
絶倫は、恥ずかしくないわ!果てのない事は素晴らしいもの……。
もう、だれも白髪マダムを止められない。
「あの方達、何か特別なものを食べているのかしら?スーパーに売っているものとか……」
少し顔を赤らめる田中に最近彼氏ができたことを風の噂で知った。恋をすることなど諦めていたが絶倫カップルの影響で恋をしたくなり、実を結んだようだ。たしか同じアパートに住んでいる独身男性だった気がする。なかなかのやり手だ。
「あなたも──絶倫にあやかりたいのね?」
「あ、やだわ……身近に偉人がいる訳だし……少しアドバイスもらえたらと思って……」
田中はますます顔を赤らめる。突然葵と華子は偉人クラスまで登り詰めた。
白髪マダムはクスッと笑う。
そのまま部屋の奥へといくと濃い紫色をした箱を持ってきた。
「これを──お譲りしますわ」
「こ、これは……?」
「紫まむし極楽一発ドリンク……あの二人の愛用エナジードリンクよ……彼らの性欲を根底から支えていると言ってかまわないわ。性欲だけじゃないわ……固いわよ……」
「こ、これが……、と、言うことは岩のように──」
白髪マダムよ……落ち着きたまえと言いたい。
葵はまず飲んでいない。華子も仕事が疲れた時にしか飲まない。まったく性欲に関係ないのだが、白髪マダムの中で大きく事実が歪曲されている。
田中よ……お前は石より岩がいいのかと言いたい。
ただの栄養ドリンクに○イアグラ的成分はない。もしそれなら葵の会社の同僚は仕事しながら勃起させる変態集団だ。
「買います……2セット、いや、4セット!」
「不足分を注文いたします。あとは……ちょっとご協力いただきたいの」
「ご協力……」
「絶倫を助ける食べ物を日本中から取り寄せたいの。スマホしか使えないので目が痛くて……何かいい情報があればすぐに私に教えてくださるかしら?」
「まぁ……」
田中は感動していた。白い髪に赤いルージュのこの女性はまるでフランス革命を率いた女性のように気高い……。絶倫を救うべく立ち上がった、救世主──。
この世の絶倫に言いたい……もう恐れることはない、胸を張り、声を大にして叫んで欲しい。
私は絶倫なのだと──。
「絶倫、セックス中毒……それをサポートしていくのが残りの人生だと思っているの。名付けて、絶倫サポートプロジェクト!」
白髪マダムが親指を立ててドヤ顔をする。さすがの田中もどう反応すればいいか困っているようだ。
「もしご協力いただけるのならばドリンク1セットプレゼントするわ」
「やる……やるわ!」
田中が即答する。絶倫への憧れが強い田中の心をガシッと掴むことに成功したらしい。
翌日、廊下で田中と白髪マダムがすれ違った。すれ違いざま田中が一枚のメモ用紙を白髪マダムに手渡した。誰にもバレぬようにお互い顔を合わせない。まるでスパイ映画のワンシーンのような光景だ。
部屋に戻り白髪マダムがメモ用紙を確認する……。
鰻の肝エキス
一粒で超元気!ニョロニョログングン!
株式会社 永鰻
03ー〇〇〇〇ー〇〇56
白髪マダムはそのメモを見てニヤリと微笑む。すぐさま電話の受話器を手に取った。
「土用の丑の日に、間に合えば最高ね……」
白髪マダムの絶倫応援プロジェクトは始まったばかりだ。
まさかこんな事になっているとは華子は知る由もない。
ドアを開けると四階に住む田中という名の女だった。廊下ですれ違うと会釈をするぐらいの関係だ。一体何の用だろうか……。
田中は小太りだが艶やかな白い肌……それに黒髪のおかっぱ頭の住人だ。白髪マダムも顔と名前を覚えるほどのインパクトだ。
「あら、奥様、突然どうなさったんです?」
「奥様、ちょっとお話が──」
あたりを気にする素振りを見せるので白髪マダムは玄関に通しドアを閉める。
「……奥様、絶倫カップルと仲がよろしいでしょ?」
いつのまにか白髪マダムは絶倫カップルの一味になっているようだ。マダムは何も言わずに頷く。決して私は絶倫じゃないとは言わない。白髪マダムは絶倫が恥ずかしいと思うこの世の中を変えたいと崇高なビジョンを描いているからだ。
絶倫は、恥ずかしくないわ!果てのない事は素晴らしいもの……。
もう、だれも白髪マダムを止められない。
「あの方達、何か特別なものを食べているのかしら?スーパーに売っているものとか……」
少し顔を赤らめる田中に最近彼氏ができたことを風の噂で知った。恋をすることなど諦めていたが絶倫カップルの影響で恋をしたくなり、実を結んだようだ。たしか同じアパートに住んでいる独身男性だった気がする。なかなかのやり手だ。
「あなたも──絶倫にあやかりたいのね?」
「あ、やだわ……身近に偉人がいる訳だし……少しアドバイスもらえたらと思って……」
田中はますます顔を赤らめる。突然葵と華子は偉人クラスまで登り詰めた。
白髪マダムはクスッと笑う。
そのまま部屋の奥へといくと濃い紫色をした箱を持ってきた。
「これを──お譲りしますわ」
「こ、これは……?」
「紫まむし極楽一発ドリンク……あの二人の愛用エナジードリンクよ……彼らの性欲を根底から支えていると言ってかまわないわ。性欲だけじゃないわ……固いわよ……」
「こ、これが……、と、言うことは岩のように──」
白髪マダムよ……落ち着きたまえと言いたい。
葵はまず飲んでいない。華子も仕事が疲れた時にしか飲まない。まったく性欲に関係ないのだが、白髪マダムの中で大きく事実が歪曲されている。
田中よ……お前は石より岩がいいのかと言いたい。
ただの栄養ドリンクに○イアグラ的成分はない。もしそれなら葵の会社の同僚は仕事しながら勃起させる変態集団だ。
「買います……2セット、いや、4セット!」
「不足分を注文いたします。あとは……ちょっとご協力いただきたいの」
「ご協力……」
「絶倫を助ける食べ物を日本中から取り寄せたいの。スマホしか使えないので目が痛くて……何かいい情報があればすぐに私に教えてくださるかしら?」
「まぁ……」
田中は感動していた。白い髪に赤いルージュのこの女性はまるでフランス革命を率いた女性のように気高い……。絶倫を救うべく立ち上がった、救世主──。
この世の絶倫に言いたい……もう恐れることはない、胸を張り、声を大にして叫んで欲しい。
私は絶倫なのだと──。
「絶倫、セックス中毒……それをサポートしていくのが残りの人生だと思っているの。名付けて、絶倫サポートプロジェクト!」
白髪マダムが親指を立ててドヤ顔をする。さすがの田中もどう反応すればいいか困っているようだ。
「もしご協力いただけるのならばドリンク1セットプレゼントするわ」
「やる……やるわ!」
田中が即答する。絶倫への憧れが強い田中の心をガシッと掴むことに成功したらしい。
翌日、廊下で田中と白髪マダムがすれ違った。すれ違いざま田中が一枚のメモ用紙を白髪マダムに手渡した。誰にもバレぬようにお互い顔を合わせない。まるでスパイ映画のワンシーンのような光景だ。
部屋に戻り白髪マダムがメモ用紙を確認する……。
鰻の肝エキス
一粒で超元気!ニョロニョログングン!
株式会社 永鰻
03ー〇〇〇〇ー〇〇56
白髪マダムはそのメモを見てニヤリと微笑む。すぐさま電話の受話器を手に取った。
「土用の丑の日に、間に合えば最高ね……」
白髪マダムの絶倫応援プロジェクトは始まったばかりだ。
まさかこんな事になっているとは華子は知る由もない。
1
お気に入りに追加
166
あなたにおすすめの小説
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
奪われたから、奪い返します
ワールド
恋愛
奪われたから、あなたの大切なもの全て奪ってみせますわ。わたくし、イザベラ・フォン・エーデルヴァインは、この侮辱を決して忘れませんわ。あなたがわたくしにしたこと、すべてを記憶しておりますの。そして、あなたの大切なものを、一つ残らず奪い取ってみせます。それがわたくしの、エーデルヴァイン家の令嬢としての誇りですもの。覚悟なさい、フレデリック。あなたが落とした幕は、わたくしが再び上げるのですから。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
メランコリック・コインランドリー。
若松だんご
恋愛
10分100円。
それは、ちょっとした物思いにふける時間を手に入れる方法だった。
アパートの近くにある、古くも新しくもない、まあまあなコインランドリー。
そのコインランドリーの一角、左から三つ目にある乾燥機に自分の持ってきたカゴの中身を放りこみ、100円を投下することで得られる時間。
ようするに、洗濯物が乾くまでの時間。
そこで考えることは、とても「深い」とは言えず、およそ「哲学」ともほど遠い、どうでもいいことの羅列でしかなかった。
コインランドリー。
そこで過ごす俺の時間と、そこで出会った彼女の日常とが交差する。
特筆するような出来事もない、ドラマにするには物足りない、平凡すぎる俺と彼女の出会いの話。
地味令嬢は結婚を諦め、薬師として生きることにしました。口の悪い女性陣のお世話をしていたら、イケメン婚約者ができたのですがどういうことですか?
石河 翠
恋愛
美形家族の中で唯一、地味顔で存在感のないアイリーン。婚約者を探そうとしても、失敗ばかり。お見合いをしたところで、しょせん相手の狙いはイケメンで有名な兄弟を紹介してもらうことだと思い知った彼女は、結婚を諦め薬師として生きることを決める。
働き始めた彼女は、職場の同僚からアプローチを受けていた。イケメンのお世辞を本気にしてはいけないと思いつつ、彼に惹かれていく。しかし彼がとある貴族令嬢に想いを寄せ、あまつさえ求婚していたことを知り……。
初恋から逃げ出そうとする自信のないヒロインと、大好きな彼女の側にいるためなら王子の地位など喜んで捨ててしまう一途なヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
扉絵はあっきコタロウさまに描いていただきました。
びびあんママ、何故かビルの屋上に行く。
来栖もよもよ&来栖もよりーぬ
大衆娯楽
※連作短編ですが、下記の基本情報を把握していればオールOKです。
●新宿二丁目でバー『メビウス』のママをやっているオネエ。四十代半ば。お人好し。恋人なし。
●バイトの子は椿ちゃん(22)。スレンダーな美女オネエ。
●常連客のラジオのディレクターからの頼みで、人気タレントの逮捕で、その人がやっていた深夜の人生相談番組を穴埋めでやらされるが、引きが強いのか巻き込まれやすいのか事件が起きて「何か持っている」と人気DJに。一回こっきりのハズが、未だに毎週金曜深夜に【びびあんママの人生相談れいでぃお】をやらされている。
●四谷三丁目の三LDKのマンションで暮らしている。ペットは文鳥のチコちゃん。時々自分のアフロなウイッグに特攻してくるのが悩み。
●露出狂のイケメン・仙波ちゃん(26)がハウスキーパーになる。
●そんなびびあんママの日常。
メリザンドの幸福
下菊みこと
恋愛
ドアマット系ヒロインが避難先で甘やかされるだけ。
メリザンドはとある公爵家に嫁入りする。そのメリザンドのあまりの様子に、悪女だとの噂を聞いて警戒していた使用人たちは大慌てでパン粥を作って食べさせる。なんか聞いてたのと違うと思っていたら、当主でありメリザンドの旦那である公爵から事の次第を聞いてちゃんと保護しないとと庇護欲剥き出しになる使用人たち。
メリザンドは公爵家で幸せになれるのか?
小説家になろう様でも投稿しています。
蛇足かもしれませんが追加シナリオ投稿しました。よろしければお付き合いください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる