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30.健太のサプリメント
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健太から連絡が来た。今晩遊びにくるらしい。
健太は最近仕事が忙しいらしい。ああ言う業界は常に新商品が出るので暇な時がないようだ。
姉としては小さかった弟が立派に社会人として働いていることが誇らしい。
健太は某化粧品メーカーに就職している。時折試供品や試験用の商品を持ってきては華子に使ってくれと言い置いていく。お陰で化粧水を買わなくても済むようになった。女性は毎日使うものだから正直助かる。いい弟だ……。
ピーンポーン
「いらっしゃい、お疲れ様」
「あ、ただいま……」
健太は華子の顔を見てから玄関に置かれた靴や靴箱を見てなぜか顔を赤らめている。
「ん?玄関がどうかした?」
「いや、なんでもない……キレイにしているなって思っただけで、その、想像と通りというか──」
健太の言っていることがよく分からなかったが華子はそのまま健太を部屋へと通す。
まさか可愛い弟が姉カップルが玄関で合体したかどうか想像しているとは思うまい。
部屋に入ると初めてではないはずだが健太はやけに周りを見渡している。
「何か見つけた?」
華子が揶揄うように言うと健太は視線を泳がした。健太はごまかそうとすると手を頭の後ろに組む癖がある。華子はそれに気付いたが素知らぬふりをして晩御飯の支度をする。
小さなテーブルに健太の好きな豚汁とチキンソテーを並べる。
「葵さんは、今日来るの?」
「ん、たぶん来るよ。あ、晩御飯は気にしないで、葵さんの分は別に用意してあるの」
華子が優しく微笑むと健太はつられて笑った。
「その……健太……葵さんのことなんだけどね──」
健太の箸が止まる。
「健太には言っておきたくて、葵さんは……ちょっと変わっているの、その、毎晩──」
「知ってるよ……病気のことだろ?」
「え……」
健太は華子の言葉を遮るように言う。セックス依存症なんて単語を実の姉の口から聞きたくはなかった。
「葵さんから聞いたんだ……。言いづらそうだったけど……。俺は、それでも応援してるから──葵さんは姉ちゃんのこと本当に大切にしてくれるし……」
健太がチキンソテーをご飯の上に乗せそれを大きな口で頬張る。華子は驚いたようだったが、納得したように頷いた。少しホッとしたような顔をした。
「ありがとうね、健太……」
「いいんだ。姉ちゃんも葵さんと出会ってよかったね。いいカップルじゃん(絶倫同士)」
「そうかな?んー最初は戸惑ったけどこんな私でも役に立てるのが嬉しくて……」
「いや、姉ちゃんじゃないと体がもたないよ。毎晩ヤるのはそんな簡単なことじゃないよ」
「簡単よ?寝てればいいんだもの」
「……!?姉ちゃん!そこまで俺に話さなくていいから!」
「あ、そうか……ごめんね」
華子の言葉に受け身な姉を想像し、健太は真っ赤になってそれを頭から打ち消す。
そうか、正常位がお好きですか。ま、長期戦だからノーマルが一番だよね、うん。
健太はいつだって素直で純粋だ。
「健太、そういえば今日は何か用があったの?」
「あ、そうだった……」
健太は自分の黒のリュックから小さな瓶を取り出す。蓋が金色のその瓶を手にして華子は首をかしげる。
すっぽん好ぃとうと
なんだ、この商品名は……完全にアッチ系の代物ではないだろうか。しかもなぜ博多弁?
華子は健太を見る。健太は満面の笑みでその瓶を華子へと押し付ける。
受け取りたくない。だって、この前の鰻の肝エキスも飲んでない。こんなのばっかり部屋に置いてある独身女性にはなりたくない。
「健太、これ、どうしたの?」
「取引先の社長が開発したらしいんだ。すごく元気になるって言うんだよ。バテるとかもなくてすごく持久力が上がるんだよ、木村くん──って言うもんだから一つ買っちゃった。姉ちゃんにどうかなって」
「あ、ありがとう」
取引先の社長はただの元気ではなくて一部分の元気の話をしたのだろうが純粋な健太には通じなかったのかもしれない。うん、でなきゃこんなものを実の姉にプレゼントする愚弟はこの世に存在しない。
「よかったよ!喜んでもらえて」
じつはその愚弟が姉の性生活を心配してこれを手渡したとは思っていないようだ。
知らぬが仏……。
「もしもし?」
『もしもし……大人のおもちゃなら結構よ、間に合ってるわ』
「……まだ携帯電話の登録の名前、健康的な太い棒のままなんですか?──健太ですよ」
やはりまだあの名前のままで登録されているらしい。まさかすっかり忘れられてエッチな店からの販促電話と思われるとは思わなかったが……。
『……わざとよ、高度なボケよ。んで?どうしたの?』
「知り合いのおススメでいいサプリ知ったんで姉ちゃんにあげました。【すっぽん好ぃとうと】っていうやつなんですけど……」
『九州系ね……あっち系は色々と濃いわね……了解。あと、私のことは社長と呼びなさい。雇ってあげるわ』
「社長?雇う?どういう意味ですか──おれ仕事してますし……」
いろんな説明をぶっとばす白髪マダムに健太は慌てる。
『また頼むわね……健太』
「健太じゃねぇって!健太だってば──あれ?合ってる……」
またいつの間にか通話が切れていた。正しい名前で呼ばれて嬉しかった。
「はいはい了解です、社長」
健太は携帯電話を操作し、名前を登録し直した。
健太は最近仕事が忙しいらしい。ああ言う業界は常に新商品が出るので暇な時がないようだ。
姉としては小さかった弟が立派に社会人として働いていることが誇らしい。
健太は某化粧品メーカーに就職している。時折試供品や試験用の商品を持ってきては華子に使ってくれと言い置いていく。お陰で化粧水を買わなくても済むようになった。女性は毎日使うものだから正直助かる。いい弟だ……。
ピーンポーン
「いらっしゃい、お疲れ様」
「あ、ただいま……」
健太は華子の顔を見てから玄関に置かれた靴や靴箱を見てなぜか顔を赤らめている。
「ん?玄関がどうかした?」
「いや、なんでもない……キレイにしているなって思っただけで、その、想像と通りというか──」
健太の言っていることがよく分からなかったが華子はそのまま健太を部屋へと通す。
まさか可愛い弟が姉カップルが玄関で合体したかどうか想像しているとは思うまい。
部屋に入ると初めてではないはずだが健太はやけに周りを見渡している。
「何か見つけた?」
華子が揶揄うように言うと健太は視線を泳がした。健太はごまかそうとすると手を頭の後ろに組む癖がある。華子はそれに気付いたが素知らぬふりをして晩御飯の支度をする。
小さなテーブルに健太の好きな豚汁とチキンソテーを並べる。
「葵さんは、今日来るの?」
「ん、たぶん来るよ。あ、晩御飯は気にしないで、葵さんの分は別に用意してあるの」
華子が優しく微笑むと健太はつられて笑った。
「その……健太……葵さんのことなんだけどね──」
健太の箸が止まる。
「健太には言っておきたくて、葵さんは……ちょっと変わっているの、その、毎晩──」
「知ってるよ……病気のことだろ?」
「え……」
健太は華子の言葉を遮るように言う。セックス依存症なんて単語を実の姉の口から聞きたくはなかった。
「葵さんから聞いたんだ……。言いづらそうだったけど……。俺は、それでも応援してるから──葵さんは姉ちゃんのこと本当に大切にしてくれるし……」
健太がチキンソテーをご飯の上に乗せそれを大きな口で頬張る。華子は驚いたようだったが、納得したように頷いた。少しホッとしたような顔をした。
「ありがとうね、健太……」
「いいんだ。姉ちゃんも葵さんと出会ってよかったね。いいカップルじゃん(絶倫同士)」
「そうかな?んー最初は戸惑ったけどこんな私でも役に立てるのが嬉しくて……」
「いや、姉ちゃんじゃないと体がもたないよ。毎晩ヤるのはそんな簡単なことじゃないよ」
「簡単よ?寝てればいいんだもの」
「……!?姉ちゃん!そこまで俺に話さなくていいから!」
「あ、そうか……ごめんね」
華子の言葉に受け身な姉を想像し、健太は真っ赤になってそれを頭から打ち消す。
そうか、正常位がお好きですか。ま、長期戦だからノーマルが一番だよね、うん。
健太はいつだって素直で純粋だ。
「健太、そういえば今日は何か用があったの?」
「あ、そうだった……」
健太は自分の黒のリュックから小さな瓶を取り出す。蓋が金色のその瓶を手にして華子は首をかしげる。
すっぽん好ぃとうと
なんだ、この商品名は……完全にアッチ系の代物ではないだろうか。しかもなぜ博多弁?
華子は健太を見る。健太は満面の笑みでその瓶を華子へと押し付ける。
受け取りたくない。だって、この前の鰻の肝エキスも飲んでない。こんなのばっかり部屋に置いてある独身女性にはなりたくない。
「健太、これ、どうしたの?」
「取引先の社長が開発したらしいんだ。すごく元気になるって言うんだよ。バテるとかもなくてすごく持久力が上がるんだよ、木村くん──って言うもんだから一つ買っちゃった。姉ちゃんにどうかなって」
「あ、ありがとう」
取引先の社長はただの元気ではなくて一部分の元気の話をしたのだろうが純粋な健太には通じなかったのかもしれない。うん、でなきゃこんなものを実の姉にプレゼントする愚弟はこの世に存在しない。
「よかったよ!喜んでもらえて」
じつはその愚弟が姉の性生活を心配してこれを手渡したとは思っていないようだ。
知らぬが仏……。
「もしもし?」
『もしもし……大人のおもちゃなら結構よ、間に合ってるわ』
「……まだ携帯電話の登録の名前、健康的な太い棒のままなんですか?──健太ですよ」
やはりまだあの名前のままで登録されているらしい。まさかすっかり忘れられてエッチな店からの販促電話と思われるとは思わなかったが……。
『……わざとよ、高度なボケよ。んで?どうしたの?』
「知り合いのおススメでいいサプリ知ったんで姉ちゃんにあげました。【すっぽん好ぃとうと】っていうやつなんですけど……」
『九州系ね……あっち系は色々と濃いわね……了解。あと、私のことは社長と呼びなさい。雇ってあげるわ』
「社長?雇う?どういう意味ですか──おれ仕事してますし……」
いろんな説明をぶっとばす白髪マダムに健太は慌てる。
『また頼むわね……健太』
「健太じゃねぇって!健太だってば──あれ?合ってる……」
またいつの間にか通話が切れていた。正しい名前で呼ばれて嬉しかった。
「はいはい了解です、社長」
健太は携帯電話を操作し、名前を登録し直した。
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