上 下
22 / 38

22.葵の魅力

しおりを挟む
 数日後、俺は姉ちゃんのアパートの前にいた。直接例の彼氏に会いたいと思ったからだ。

 健太は華子に直接聞くことはできなかった。
 できることなら事情を聞き、そっと見守ってやりたいと思った。家族に絶倫のセックス依存症とバレることはなによりも耐え難いだろう。

 華子はもう帰宅している。さりげなく葵が帰宅したかどうか確認するとまだらしいのできっと待っていれば会えるだろう……。

 駅の方からゆっくりとした足取りでサラリーマンらしき人物がこちらに向かってくる。
茶色の髪に肌が白く顔もイケメンだ。白い肌に赤い唇が際立っている。

 まさか……コイツじゃないだろうな……。

 あの日は気が動転していて彼氏の顔をよく見ていなかった。

 ぼうっと歩くその会社員が顔を上げ俺と目が合った。瞬きを繰り返し俺に近づく……。

 ま、まさか、このイケメンが……?

「……もしかして、健太くん?」

 ま、まじかよ!?こんなイケメン捕まえちゃったの?姉ちゃん!しかもこんなイケメンが絶倫のセックス依存って罪作りもいいとこじゃん!AV界のホープ間違いなしじゃん!

「姉ちゃんの、彼氏です、か?」

「はじめまして、時吉葵です」

 葵はふわりと微笑み頷く。どうやらあの後華子に一緒に撮った写真を見せてもらったらしい。前髪を搔き上げるその動作ですら色気がある。
 健太は怯みそうになるが、視線の先に喫茶店を見つけると指をさした。

「話が、あるんだ……あそこでちょっといい?」

 純喫茶らしくアンティーク独特の赤茶色で統一された落ち着いた空間が広がっている。その窓側の席に二人は座る。葵は緊張しているのかさっきから出されたおしぼりを何度も握っている。

「あのさ……葵さん、その……があるんだろ?」

「あ、あぁ、お姉さんから聞いたの?」

 葵は申し訳なさそうに微笑む。
 
 本当だった……あの白髪の女性の言うことは本当だったんだ。

「ごめんな……普通の男じゃなくて……いつからかストレスでこんな体になっちゃって。お姉さんには毎日迷惑かけちゃうんだ……手間かけさせちゃって……」

「あ、いや、その──病気だし……。仕方ないけど……」

 葵が頭を下げる。ちょうど注文したコーヒーが届く。葵は最初コーヒーを頼んでいたが、途中で何かに気づきウーロン茶に変えてもらっていた。

「コーヒーを飲むと、余計寝れなくなっちゃって華子さんに負担がかかるからこの時間は飲まないんだ」

「あーそうなんだ……色々大変だね……」

 どんな負担のかけ方をしているのか聞きたいがショックを受けそうで聞けない。

「姉ちゃんの、どこが良かったの?……まさか寝れるからとかじゃ──」

「ほかほかで……ふわふわ」

「え?」

「ふわふわの髪の毛が可愛いって思ったんだ。コインランドリーで本を読む姿も魔女みたいで……あとは一緒にいて癒されて、愛おしい、俺の体の心配もしてくれて……なんていうか……温かくて、大好きなんだ……」

 自分で言いながら葵は頰を赤らめた。
 純粋な気持ちを彼女の弟に言える男がどこにいるんだろう。健太は葵が気に入ってしまった。こんなにも華子を大切に思ってくれる男はいないと思った。

 ただ、セックス依存症なのが残念すぎる……。実に惜しい……。

「姉ちゃんの体のこと考えてよ。姉ちゃんも強い方だって聞いたけど、それでもたまには休ませてやってくれ……」

「健太くん……」

 葵は健太の腕を取る。その手は白いが力強かった。その手にドキッとする。健太は葵の瞳を見る。茶色の瞳に吸い込まれそうだ。

「最近はもできるようになったんだ……。症状も落ち着いてきているし、大丈夫だと思う。お姉さんの負担を減らせるように帰ってすぐようにするよ」

「寝溜め……普通は出来ないよね……あ、うん。良かったよ、何でも創意工夫だよね」

 一体何発ヤってんだ?そして何発ヤれるんだ!?
 このカップルの底知れぬ性欲の深さに健太は感服した。帰ってすぐにヤるって……おかえりの瞬間玄関で!? 嘘でしょ! 次姉ちゃんの部屋行ったら色々考えちゃうよ!

「華子さんが待ってるから、そろそろ行くね?」

「あ……姉ちゃんには俺に会ったことは──」

「分かってるよ。いい弟を持って華子さんは幸せだな」

 葵は何度も頷いた。そのまま笑顔で健太の分の会計も支払うと店を出て行った。

 か、かっけぇぇ!!
 絶倫すらも魅力的に感じる……。なんなんだ?俺がおかしいのか?葵さんかっけぇぇ!

 誤解されながらも葵は健太の心を鷲掴みすることに成功したようだ。

「良かったわね……味方がふえて」

 そんな健太の後ろの席で一人コーヒーを飲んでいた白髪マダムは窓の外を眺めて微笑んでいた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

愛されない女

詩織
恋愛
私から付き合ってと言って付き合いはじめた2人。それをいいことに彼は好き放題。やっぱり愛されてないんだなと…

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

びびあんママ、何故かビルの屋上に行く。

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ
大衆娯楽
※連作短編ですが、下記の基本情報を把握していればオールOKです。 ●新宿二丁目でバー『メビウス』のママをやっているオネエ。四十代半ば。お人好し。恋人なし。 ●バイトの子は椿ちゃん(22)。スレンダーな美女オネエ。 ●常連客のラジオのディレクターからの頼みで、人気タレントの逮捕で、その人がやっていた深夜の人生相談番組を穴埋めでやらされるが、引きが強いのか巻き込まれやすいのか事件が起きて「何か持っている」と人気DJに。一回こっきりのハズが、未だに毎週金曜深夜に【びびあんママの人生相談れいでぃお】をやらされている。 ●四谷三丁目の三LDKのマンションで暮らしている。ペットは文鳥のチコちゃん。時々自分のアフロなウイッグに特攻してくるのが悩み。 ●露出狂のイケメン・仙波ちゃん(26)がハウスキーパーになる。 ●そんなびびあんママの日常。

メランコリック・コインランドリー。

若松だんご
恋愛
 10分100円。  それは、ちょっとした物思いにふける時間を手に入れる方法だった。  アパートの近くにある、古くも新しくもない、まあまあなコインランドリー。  そのコインランドリーの一角、左から三つ目にある乾燥機に自分の持ってきたカゴの中身を放りこみ、100円を投下することで得られる時間。  ようするに、洗濯物が乾くまでの時間。   そこで考えることは、とても「深い」とは言えず、およそ「哲学」ともほど遠い、どうでもいいことの羅列でしかなかった。  コインランドリー。  そこで過ごす俺の時間と、そこで出会った彼女の日常とが交差する。  特筆するような出来事もない、ドラマにするには物足りない、平凡すぎる俺と彼女の出会いの話。

地味令嬢は結婚を諦め、薬師として生きることにしました。口の悪い女性陣のお世話をしていたら、イケメン婚約者ができたのですがどういうことですか?

石河 翠
恋愛
美形家族の中で唯一、地味顔で存在感のないアイリーン。婚約者を探そうとしても、失敗ばかり。お見合いをしたところで、しょせん相手の狙いはイケメンで有名な兄弟を紹介してもらうことだと思い知った彼女は、結婚を諦め薬師として生きることを決める。 働き始めた彼女は、職場の同僚からアプローチを受けていた。イケメンのお世辞を本気にしてはいけないと思いつつ、彼に惹かれていく。しかし彼がとある貴族令嬢に想いを寄せ、あまつさえ求婚していたことを知り……。 初恋から逃げ出そうとする自信のないヒロインと、大好きな彼女の側にいるためなら王子の地位など喜んで捨ててしまう一途なヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。 扉絵はあっきコタロウさまに描いていただきました。

大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた

黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」 幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

処理中です...