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19.徹夜明けの葵さん

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「では……行ってきます!!」

「あ、はい……気をつけて」

 土曜日の朝、葵は大きな手荷物を手に靴を履いている。表情と意気込みからかなりの期間出張かと思いきや二泊三日ほどの仕事らしい。

 地方に赴き、ある会社の支店に起こるバグを見つけるそうだ。部屋に閉じこもるイメージだったが仕事はそれだけではないらしい。京都まで行くので移動距離が長いのが辛そうだ。

 ということは、葵にとってこの仕事は当然寝られない、過酷な仕事になる。
 さっきカバンの中に必要なものを詰め込んでいたがその中に華子の絵が丁寧にファイルに入れられていたのを見て華子は恥ずかしくて顔を赤らめた。人前でそのファイルを取り出さないでいてくれることを祈りたい。

 これで少しは仮眠できればいいが……。

 玄関先で靴を履き終わると葵は華子を引き寄せて抱きしめた。

「死なないように長居せず戻ります」

「やばい仕事に聞こえるけど……」

 気合いを入れて葵は出ていった。

 さて……掃除でもするか……。華子は腕まくりをしてシーツを引っ張った。




 月曜日の朝方、ふらつく体を必死でこらえて歩く葵の姿があった。実は仕事が早く終わり昨晩本社に帰って報告と、バグの微調整を行わなければいけなかった。
 なんとか仕事を終わらせた葵は頭がぼうっとしていた。

 エレベーターに乗り込むと壁に寄りかかる。【6】か【7】どちらを押すか悩んだがちょっとでも会いたいと【6】を押す。
 到着するまで目を閉じて到着を待った。

 チン

 エレベーターを降りて華子の部屋の前に立つ。
 腕時計を見るとまだ五時前だ。きっとまだ寝ているだろう。そのまま階段を使い七階まで登ろうと廊下を歩くと白髪マダムと鉢合わせる。白髪マダムは葵と会い嬉しそうに微笑んだ。白っぽいTシャツを着ている。太極拳に今から行くようだ。

「あら、早いわね……顔色悪いわよ、大丈夫?」

「ちょっと寝れなくて……」

 ガチャン

 ドアの鍵が開く音が聞こえた。華子の部屋のドアが開き茶髪のスーツ姿の男が出てきた。
 欠伸をしてリュックを肩に掛け直している。

 え?だれだ──

 思わず白髪マダムの腕を引き、物陰に隠れる。

「ちょ、ちょっと──」
「し──黙っててください」

 男の背後から寝間着姿の華子が出てくる。

「早く帰って。こんなところ見られたらなんて思われるか」

「心配性だな……こんな時間だれもいないって」

 華子は男の首元の触る。歪んだネクタイを直してやるとそのまま胸を叩くと送り出した。

「ありがと!また彼氏がいない時にくるから」

 笑顔で男は帰っていった。
 白髪マダムも俺も何も言えなかった。ただ、二人の仲睦まじい様子と会話に呆然とするしかなかった。

 白髪マダムがそのまま廊下を通りエレベーターを使ってどこかへと消えていった。

 俺は呆然と華子さんの部屋の前に立っていた。

 今の男はだれ?
 誰かに見られたらまずい?それは……俺?彼氏のいない時に来る男って、なんだそれ……。

 葵は頭が呆然としてきた。寝てないせいで頭がおかしい。ゆっくりとインターホンを押す。

「健太、忘れ物──?あ、あれ……葵さん?」

 ドアの向こうにいた人物が思った人と違うので華子は焦っている。葵は、グァンと頭を殴られたようだった。

 健太?呼び捨て?

 そのまま葵は部屋の中へ入ると鍵を閉めた──。
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