19 / 38
19.徹夜明けの葵さん
しおりを挟む
「では……行ってきます!!」
「あ、はい……気をつけて」
土曜日の朝、葵は大きな手荷物を手に靴を履いている。表情と意気込みからかなりの期間出張かと思いきや二泊三日ほどの仕事らしい。
地方に赴き、ある会社の支店に起こるバグを見つけるそうだ。部屋に閉じこもるイメージだったが仕事はそれだけではないらしい。京都まで行くので移動距離が長いのが辛そうだ。
ということは、葵にとってこの仕事は当然寝られない、過酷な仕事になる。
さっきカバンの中に必要なものを詰め込んでいたがその中に華子の絵が丁寧にファイルに入れられていたのを見て華子は恥ずかしくて顔を赤らめた。人前でそのファイルを取り出さないでいてくれることを祈りたい。
これで少しは仮眠できればいいが……。
玄関先で靴を履き終わると葵は華子を引き寄せて抱きしめた。
「死なないように長居せず戻ります」
「やばい仕事に聞こえるけど……」
気合いを入れて葵は出ていった。
さて……掃除でもするか……。華子は腕まくりをしてシーツを引っ張った。
月曜日の朝方、ふらつく体を必死でこらえて歩く葵の姿があった。実は仕事が早く終わり昨晩本社に帰って報告と、バグの微調整を行わなければいけなかった。
なんとか仕事を終わらせた葵は頭がぼうっとしていた。
エレベーターに乗り込むと壁に寄りかかる。【6】か【7】どちらを押すか悩んだがちょっとでも会いたいと【6】を押す。
到着するまで目を閉じて到着を待った。
チン
エレベーターを降りて華子の部屋の前に立つ。
腕時計を見るとまだ五時前だ。きっとまだ寝ているだろう。そのまま階段を使い七階まで登ろうと廊下を歩くと白髪マダムと鉢合わせる。白髪マダムは葵と会い嬉しそうに微笑んだ。白っぽいTシャツを着ている。太極拳に今から行くようだ。
「あら、早いわね……顔色悪いわよ、大丈夫?」
「ちょっと寝れなくて……」
ガチャン
ドアの鍵が開く音が聞こえた。華子の部屋のドアが開き茶髪のスーツ姿の男が出てきた。
欠伸をしてリュックを肩に掛け直している。
え?だれだ──
思わず白髪マダムの腕を引き、物陰に隠れる。
「ちょ、ちょっと──」
「し──黙っててください」
男の背後から寝間着姿の華子が出てくる。
「早く帰って。こんなところ見られたらなんて思われるか」
「心配性だな……こんな時間だれもいないって」
華子は男の首元の触る。歪んだネクタイを直してやるとそのまま胸を叩くと送り出した。
「ありがと!また彼氏がいない時にくるから」
笑顔で男は帰っていった。
白髪マダムも俺も何も言えなかった。ただ、二人の仲睦まじい様子と会話に呆然とするしかなかった。
白髪マダムがそのまま廊下を通りエレベーターを使ってどこかへと消えていった。
俺は呆然と華子さんの部屋の前に立っていた。
今の男はだれ?
誰かに見られたらまずい?それは……俺?彼氏のいない時に来る男って、なんだそれ……。
葵は頭が呆然としてきた。寝てないせいで頭がおかしい。ゆっくりとインターホンを押す。
「健太、忘れ物──?あ、あれ……葵さん?」
ドアの向こうにいた人物が思った人と違うので華子は焦っている。葵は、グァンと頭を殴られたようだった。
健太?呼び捨て?
そのまま葵は部屋の中へ入ると鍵を閉めた──。
「あ、はい……気をつけて」
土曜日の朝、葵は大きな手荷物を手に靴を履いている。表情と意気込みからかなりの期間出張かと思いきや二泊三日ほどの仕事らしい。
地方に赴き、ある会社の支店に起こるバグを見つけるそうだ。部屋に閉じこもるイメージだったが仕事はそれだけではないらしい。京都まで行くので移動距離が長いのが辛そうだ。
ということは、葵にとってこの仕事は当然寝られない、過酷な仕事になる。
さっきカバンの中に必要なものを詰め込んでいたがその中に華子の絵が丁寧にファイルに入れられていたのを見て華子は恥ずかしくて顔を赤らめた。人前でそのファイルを取り出さないでいてくれることを祈りたい。
これで少しは仮眠できればいいが……。
玄関先で靴を履き終わると葵は華子を引き寄せて抱きしめた。
「死なないように長居せず戻ります」
「やばい仕事に聞こえるけど……」
気合いを入れて葵は出ていった。
さて……掃除でもするか……。華子は腕まくりをしてシーツを引っ張った。
月曜日の朝方、ふらつく体を必死でこらえて歩く葵の姿があった。実は仕事が早く終わり昨晩本社に帰って報告と、バグの微調整を行わなければいけなかった。
なんとか仕事を終わらせた葵は頭がぼうっとしていた。
エレベーターに乗り込むと壁に寄りかかる。【6】か【7】どちらを押すか悩んだがちょっとでも会いたいと【6】を押す。
到着するまで目を閉じて到着を待った。
チン
エレベーターを降りて華子の部屋の前に立つ。
腕時計を見るとまだ五時前だ。きっとまだ寝ているだろう。そのまま階段を使い七階まで登ろうと廊下を歩くと白髪マダムと鉢合わせる。白髪マダムは葵と会い嬉しそうに微笑んだ。白っぽいTシャツを着ている。太極拳に今から行くようだ。
「あら、早いわね……顔色悪いわよ、大丈夫?」
「ちょっと寝れなくて……」
ガチャン
ドアの鍵が開く音が聞こえた。華子の部屋のドアが開き茶髪のスーツ姿の男が出てきた。
欠伸をしてリュックを肩に掛け直している。
え?だれだ──
思わず白髪マダムの腕を引き、物陰に隠れる。
「ちょ、ちょっと──」
「し──黙っててください」
男の背後から寝間着姿の華子が出てくる。
「早く帰って。こんなところ見られたらなんて思われるか」
「心配性だな……こんな時間だれもいないって」
華子は男の首元の触る。歪んだネクタイを直してやるとそのまま胸を叩くと送り出した。
「ありがと!また彼氏がいない時にくるから」
笑顔で男は帰っていった。
白髪マダムも俺も何も言えなかった。ただ、二人の仲睦まじい様子と会話に呆然とするしかなかった。
白髪マダムがそのまま廊下を通りエレベーターを使ってどこかへと消えていった。
俺は呆然と華子さんの部屋の前に立っていた。
今の男はだれ?
誰かに見られたらまずい?それは……俺?彼氏のいない時に来る男って、なんだそれ……。
葵は頭が呆然としてきた。寝てないせいで頭がおかしい。ゆっくりとインターホンを押す。
「健太、忘れ物──?あ、あれ……葵さん?」
ドアの向こうにいた人物が思った人と違うので華子は焦っている。葵は、グァンと頭を殴られたようだった。
健太?呼び捨て?
そのまま葵は部屋の中へ入ると鍵を閉めた──。
1
お気に入りに追加
166
あなたにおすすめの小説
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
びびあんママ、何故かビルの屋上に行く。
来栖もよもよ&来栖もよりーぬ
大衆娯楽
※連作短編ですが、下記の基本情報を把握していればオールOKです。
●新宿二丁目でバー『メビウス』のママをやっているオネエ。四十代半ば。お人好し。恋人なし。
●バイトの子は椿ちゃん(22)。スレンダーな美女オネエ。
●常連客のラジオのディレクターからの頼みで、人気タレントの逮捕で、その人がやっていた深夜の人生相談番組を穴埋めでやらされるが、引きが強いのか巻き込まれやすいのか事件が起きて「何か持っている」と人気DJに。一回こっきりのハズが、未だに毎週金曜深夜に【びびあんママの人生相談れいでぃお】をやらされている。
●四谷三丁目の三LDKのマンションで暮らしている。ペットは文鳥のチコちゃん。時々自分のアフロなウイッグに特攻してくるのが悩み。
●露出狂のイケメン・仙波ちゃん(26)がハウスキーパーになる。
●そんなびびあんママの日常。
メランコリック・コインランドリー。
若松だんご
恋愛
10分100円。
それは、ちょっとした物思いにふける時間を手に入れる方法だった。
アパートの近くにある、古くも新しくもない、まあまあなコインランドリー。
そのコインランドリーの一角、左から三つ目にある乾燥機に自分の持ってきたカゴの中身を放りこみ、100円を投下することで得られる時間。
ようするに、洗濯物が乾くまでの時間。
そこで考えることは、とても「深い」とは言えず、およそ「哲学」ともほど遠い、どうでもいいことの羅列でしかなかった。
コインランドリー。
そこで過ごす俺の時間と、そこで出会った彼女の日常とが交差する。
特筆するような出来事もない、ドラマにするには物足りない、平凡すぎる俺と彼女の出会いの話。
地味令嬢は結婚を諦め、薬師として生きることにしました。口の悪い女性陣のお世話をしていたら、イケメン婚約者ができたのですがどういうことですか?
石河 翠
恋愛
美形家族の中で唯一、地味顔で存在感のないアイリーン。婚約者を探そうとしても、失敗ばかり。お見合いをしたところで、しょせん相手の狙いはイケメンで有名な兄弟を紹介してもらうことだと思い知った彼女は、結婚を諦め薬師として生きることを決める。
働き始めた彼女は、職場の同僚からアプローチを受けていた。イケメンのお世辞を本気にしてはいけないと思いつつ、彼に惹かれていく。しかし彼がとある貴族令嬢に想いを寄せ、あまつさえ求婚していたことを知り……。
初恋から逃げ出そうとする自信のないヒロインと、大好きな彼女の側にいるためなら王子の地位など喜んで捨ててしまう一途なヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
扉絵はあっきコタロウさまに描いていただきました。
大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた
黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」
幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。
王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~
石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。
食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。
そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。
しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。
何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。
扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる