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18.くるん
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「本当にごめんなさい……ちょっと遅くなるかも──」
「大丈夫です。テレビを見てますから、気にしないで行ってきてください」
葵は華子の部屋に遊びにきていた。
そのまま今日は葵の部屋で添い寝をしてもらおうと思っていたのだったが、まさかの友人からの急な呼び出しがあった。近々友人の結婚式があり、その幹事を任されているらしい。
慌てて出て行く華子さんを見送ると葵は寂しくなった部屋を見渡す。華子さんの香りがするのになんだか落ち着かない。テレビをつけると葵は華子のベッドに寝転がってみる。
あ……華子さんの匂いだ
そのままタオルケットに抱きつく。温かくてふわふわしてまるでコインランドリー帰りみたいな感じがする。
葵はそのまま眠りについた。華子さんを抱きしめているようで気持ちが良かった。
「うっそ、もうこんな時間……」
幹事の決め事が多く、華子は国道沿いを走っていた。携帯電話の時刻を見て慌てて家に向かっていた。コインランドリーの明かりが見えてきた頃アパートの前に真っ白な髪の女性が見えた。きっと彼女だろう。
深夜の街に響く足音に気づきこちらを振り返る。
「あらん、こんな時間に出かけていたの?あの子は?」
「あ、私だけちょっと用事で……」
白髪マダムこそこんな時間に何をしているのだろうか。手には風呂敷に包んだお重箱らしきものを持っている。白髪マダムは華子の視線に気づき嬉しそうにそれを抱える。
「あ、これ?ふふふ……ちょっとある筋から手に入れてね──この時間じゃないとちょっと、ね?」
「あー、そうなんですね、じゃ……」
その笑顔で確実にやばいものに違いない。華子は詳しく聞かずに立ち去ろうとする。
「あ、ちょっと待って!ワタシも乗るわ」
エレベーターはこの時間に利用する客は少ないようだ。一階に止まったままだった。
二人は乗り込むと【6】【7】を押して華子は【閉】押す。エレベーターが動き出すと白髪マダムがおもむろに声を掛ける。
「ところで、あの子の病気はどうなの?」
「あー、調子はいいみたい、です」
白髪マダムは葵のことを気にしている。ただ病気はセックス依存症だと思っているのだが、もうここまで拗れたらそれでいいかと思い華子も訂正はしない。
「そうなのね、大変だけど頑張ってあげてねあなたしか出来ないことよ」
白髪マダムが優しく華子の肩を叩くが素直に喜べない。そこまで出掛かった絶倫ではないという言葉は飲み込んだ。またいつか鰻を持ってきてくれるかもしれないという微かな希望のために。
「あの子会社でもあなたと寝たいらしいのをぐっと堪えているらしいの。ちゃんと寝溜めできるといいわね、ふふ」
珍しくきちんと意味があっていると思ったが語尾の含み笑いで間違いに気づく。きっと白髪マダムは自分で上手く言ったと、大喜利をしてやったわ!ってな感じだ。
華子は優しく微笑んで返す。
チン
白髪マダムと別れると華子は部屋の鍵を開けて中に入る。
「ごめん、遅くなっ──」
部屋のベットで葵が寝ていた。タオルケットをうまく体に纏わりつかせて、まるでみの虫のようだ。気持ちよさそうに体を丸める葵の背中を撫でてやる。
華子は寝る準備をしてベットへと入った。
みの虫葵を抱きしめて華子は眠りについた。
翌朝はなぜか華子を抱きしめるように一緒にタオルケットに包まれ、みの虫になっていた。二人の体温が合わさり日向ぼっこをしているようで気持ちがよかった。
葵と出会って人と一緒に寝ることがこんなにもいいものだと教えてもらった。
でも、それはきっと葵だからだと思う。
「大好き……」
葵の耳元で囁いた。
「大丈夫です。テレビを見てますから、気にしないで行ってきてください」
葵は華子の部屋に遊びにきていた。
そのまま今日は葵の部屋で添い寝をしてもらおうと思っていたのだったが、まさかの友人からの急な呼び出しがあった。近々友人の結婚式があり、その幹事を任されているらしい。
慌てて出て行く華子さんを見送ると葵は寂しくなった部屋を見渡す。華子さんの香りがするのになんだか落ち着かない。テレビをつけると葵は華子のベッドに寝転がってみる。
あ……華子さんの匂いだ
そのままタオルケットに抱きつく。温かくてふわふわしてまるでコインランドリー帰りみたいな感じがする。
葵はそのまま眠りについた。華子さんを抱きしめているようで気持ちが良かった。
「うっそ、もうこんな時間……」
幹事の決め事が多く、華子は国道沿いを走っていた。携帯電話の時刻を見て慌てて家に向かっていた。コインランドリーの明かりが見えてきた頃アパートの前に真っ白な髪の女性が見えた。きっと彼女だろう。
深夜の街に響く足音に気づきこちらを振り返る。
「あらん、こんな時間に出かけていたの?あの子は?」
「あ、私だけちょっと用事で……」
白髪マダムこそこんな時間に何をしているのだろうか。手には風呂敷に包んだお重箱らしきものを持っている。白髪マダムは華子の視線に気づき嬉しそうにそれを抱える。
「あ、これ?ふふふ……ちょっとある筋から手に入れてね──この時間じゃないとちょっと、ね?」
「あー、そうなんですね、じゃ……」
その笑顔で確実にやばいものに違いない。華子は詳しく聞かずに立ち去ろうとする。
「あ、ちょっと待って!ワタシも乗るわ」
エレベーターはこの時間に利用する客は少ないようだ。一階に止まったままだった。
二人は乗り込むと【6】【7】を押して華子は【閉】押す。エレベーターが動き出すと白髪マダムがおもむろに声を掛ける。
「ところで、あの子の病気はどうなの?」
「あー、調子はいいみたい、です」
白髪マダムは葵のことを気にしている。ただ病気はセックス依存症だと思っているのだが、もうここまで拗れたらそれでいいかと思い華子も訂正はしない。
「そうなのね、大変だけど頑張ってあげてねあなたしか出来ないことよ」
白髪マダムが優しく華子の肩を叩くが素直に喜べない。そこまで出掛かった絶倫ではないという言葉は飲み込んだ。またいつか鰻を持ってきてくれるかもしれないという微かな希望のために。
「あの子会社でもあなたと寝たいらしいのをぐっと堪えているらしいの。ちゃんと寝溜めできるといいわね、ふふ」
珍しくきちんと意味があっていると思ったが語尾の含み笑いで間違いに気づく。きっと白髪マダムは自分で上手く言ったと、大喜利をしてやったわ!ってな感じだ。
華子は優しく微笑んで返す。
チン
白髪マダムと別れると華子は部屋の鍵を開けて中に入る。
「ごめん、遅くなっ──」
部屋のベットで葵が寝ていた。タオルケットをうまく体に纏わりつかせて、まるでみの虫のようだ。気持ちよさそうに体を丸める葵の背中を撫でてやる。
華子は寝る準備をしてベットへと入った。
みの虫葵を抱きしめて華子は眠りについた。
翌朝はなぜか華子を抱きしめるように一緒にタオルケットに包まれ、みの虫になっていた。二人の体温が合わさり日向ぼっこをしているようで気持ちがよかった。
葵と出会って人と一緒に寝ることがこんなにもいいものだと教えてもらった。
でも、それはきっと葵だからだと思う。
「大好き……」
葵の耳元で囁いた。
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