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1.コインランドリーとは

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 ピーッ

 甲高い音が聞こえると私は読んでいた本にしおりを挟みカバンの中へとしまい込む。
 透明な丸いガラスの向こうにはさっき使ったバスタオルや今日着ていた服たちが気持ちよさそうに丸まっている。
 ドアを開けると洗剤の匂いが鼻を抜けふかふかのほこほこの洗濯物を抱きかかえる……。
最高の瞬間だ。
 冷めないうちにパパッと畳むがタオルはまるで高級ホテルのように毛が立ち弾力が出ている。自宅で干した時とは全く違うこのクオリティはさすがとしか言えない。

 私は木村華子、二十五歳の会社員だ。ロングの黒髪にパーマをかけているので随分年上に見えるのが最近の悩みだ。天パを活かすいい方法があれば是非教えてほしい。
 洗濯物を畳み終えて出入り口の自動ドアに向かうとスーツ姿でソファーに座ったまま寝落ちしている会社員の足に洗濯物の袋が当たってしまった。

「あ、すみません……」

「…………」

 すごい。全く起きない。乾燥機が止まるまでの短時間でよくこんなにも熟睡できるものだなと感心する。
 華子はそのままコインランドリーをあとにしてそのまま同じ建物のエレベーターに乗り込んだ。数字の【6】を押してしばらくするとドアが開く。その目の前にあるこの部屋が私の部屋だ。
 駅からまあまあ近くて、そこそこな値段……一番の決め手はやはり一階のテナントスペースにコインランドリーが入っていることだろう。

 洗濯物袋を部屋に置くと衣装ケースに入れていく。ワンルームということもあり荷物は必要最低限だ。買ってしまえばどんどんと動けるスペースが減ってしまう。華子はその部屋の大半を占めるベッドの上に横たわると大きく背伸びをした。

 朝起きて仕事をして帰ってきてシャワーを浴びる、脱いだ服を洗濯してコインランドリーで乾かす……この一連の流れが華子にとって至福のルーティーンだ。乾燥機をかけている間はお気に入りの本を読んで過ごすのがマストだ。今日も無事一日が終わった──。

 そんな日が続くと思っていた。
 あくる日に我が家の洗濯機が壊れるまでは……。


 その日も相変わらず風呂に入っている間に洗濯機を回していた。髪を洗っているときに何やら洗濯機から変な音が聞こえてきた。何かがひどく擦れるような音が……そして私の長年の相棒は帰らぬ人となった。

 どうにか手洗いで乗り切り、数日は手で洗いコインランドリーに持っていった。ただ、脱水が甘いので乾燥に時間がかかってしまっていた。これではすごい金額を乾燥機にかけてしまっていることになる。

 そこで私はあることに気が付いた……。

 そうじゃん、洗濯乾燥機買っちゃえばいいじゃん!

 そこからはあっという間だった。週末に電気屋に行き一番安い洗濯乾燥機を購入し、次の日に届けてもらった。設置し最初洗濯乾燥機を使った時は本当に感動した。
 ふかふかだ……まぁ、コインランドリーよりかは劣るが何より低コストだ。華子は上機嫌でどんどん使った。そして華子のルーティーンは変わってしまった。ほとんど一階に行き乾燥機をかけることがなくなった。たまに大物とか、分厚い生地のものとか、夜遅くに帰ってきたので振動とかが迷惑かもしれないと二日まとめて洗ったりした時とか……それぐらいものだった。

 仕事からの帰り道いつも通りエレベーターが来るのを待っていた。隣にだれか住人が立っているようだ。軽く会釈すると会社員姿のその男性は華子に気づくと驚いたような顔をした。
 よく見るとその男性は目が虚ろでクマが酷かった。ちゃんと寝ているのだろうか。ちょうどエレベーターが来て乗り込むと迷わず【6】を押した。一緒に乗り込んだ男性も同じ階らしい。ボタンを押さない。会ったことない気がするが時間帯が違うのかもしれない。

 すっとエレベーターが動き出すと両端に分かれるように立っていた男性が突然話しかけてきた。

「あの、今日は乾燥機回しにいかれないんですか?」

「え?いや、めっちゃ外晴れてましたけど……」

 一体この男は何を言っているんだ?雨降ってないけど?クスリでもやってるんじゃなかろうか。

「いや、最近いらっしゃらないなと。ほら、一階のコインランドリーに」

「……あ」

 思い出した。コインランドリーのソファーでよく寝落ちしていた会社員だ。動いている姿を見たことがあまりないので気がつかなかった。会う時は殆ど熟睡だったから──。

「よくあそこで寝てらっしゃる方ですね!なるほど──」

 チン
 
 あっという間に六階についた。華子は同じ階なので【開】を押して会社員の男性に先に降りるように促すとなぜか会社員の男性は眉間にしわを寄せたまま動かない。

 ん?

「あの……えっと六階ですけど……え、六階ですよね?」

「すみません……」

 そういうとなぜか男は華子の腕を掴むとエレベーターの【閉】ボタンを押して【7】を押す。

 はい?なんで?どうした?やっぱクスリやってんじゃん!私を見る目血管飛び散ってんじゃん!拉致監禁?ちょっと、握力強くない?!

 恐怖で固まる華子の腕を離すとガバッと頭を下げる。

「助けてください……もうダメなんです」

 男の目は真剣だった。よく見るとクマさえなければイケメンなことに今更気づく。栗色の髪に白い肌が今時の男子だ。

 チン

「あ、ちょ……ちょっと!」
「行きましょう、もうダメだ」

 七階についたようだ。そのまま華子の腕を取りエレベーターを降りると華子の声を無視してずんずん歩いていく。数歩先の部屋で立ち止まりあっという間に華子を部屋に押し込んだ。

「あ──」

 ドアが無情にもガチャンと音を立てて閉まった。 
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