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第二部

三重県から愛を込めて

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「あぁ、あかんな、緊張するなぁ……」

 美英は治療所の受付に座りタブレット片手に大きく深呼吸をしていた。

 東京から帰宅後、町田と電話やメールのやり取りはしていた。町田の携帯電話が古く、ビデオ通話はまだ出来ていなかった。
 町田は先日タブレットを購入し、幸の手助けを得て基本操作をマスターした。今晩が二人で初めてのビデオ通話だ。

 タブレットを操作し、美英は繋がるまでの間町田に何を話そうか考える……。

 元気してる?
【腎虚】はどう?
 ケンカしてない?
 寂しくない?
 私は、会いたい……。


 突然画面が真っ黒になる。繋がっている、のか?

『美英ちゃん?』

「兄さん? なんか真っ暗やけど?」

 画面が反転しタブレットをどこかへと置くとようやく町田の姿が見えた。

 ん?兄、さん?

『お疲れさま、そっちは雨かな?』

「うん、雨、かなぁ?」

 町田の言葉が頭に入ってこない。

 目の前の町田の頭はとんがっている。雨の雫のようだ。きっと色々大変だったのだろう。額に所々丸い痕が見える。ケンカでチェーンでも頭に巻かれたのだろうか。

「兄さん、あの、元気?」

『あぁ、元気だよ……あー、なんか緊張するな』

 町田は頭を撫でると真っ赤な頰を叩く。その姿に美英の胸はときめく。
 頭の形や得体の知れない紋様が皮膚にあっても、兄さんは、兄さんだ……。

 やさしくて可愛い──。

「あー、兄さん、【腎虚】はどうですか? 頑張ってますか?」

『毎日頑張っているよ、言われた通り頭のてっぺんにも温灸しているしな』

「なるほどなるほど、良好ですね?」

 美英は何やら机の上でメモを取るような仕草をする。きっとカルテがそこにあるのだろう。こうして町田の【腎虚】に真剣に取り組んでくれているのが嬉しい。

「兄さん、性欲はどうです?」

『はい? なんだって?』

「性欲ですよ、湧いてきます? こう、なんていうか【腎】から湧いてくるようなそんな熱いパッション的な」

『あ……あぁ、それはその……あるほうがマズイんじゃ──』

 遠距離恋愛中の彼氏がそんなんじゃ彼女として心配にならないものだろうか。

 美英が残念そうに呟き書き込む。

「そうか……性欲はまだないんか……そうか……性交に支障が──」

『いや! あります! 溢れ出してこぼれるぐらいあります! 止まりません! どうしよっかなー、困るね! パッション!』

 男としてそこは主張すべきだろう。盛りに盛ってみた。

「あ、そうですか、じゃ……止まらない性欲の兆し……っと──」

『いや、それ意味違ってきちゃったけど』

 絶倫みたいな意味合いになっている。カルテに書き込んで大丈夫なんだろうか……。

「これでよし、と……兄さん、大丈夫です。私が兄さんを治してみせますからね!」

『美英ちゃん……ありがとう』

 美英が拳を振り上げる。美英の笑顔に町田は抱きしめてキスをしたくなる。
 美英のおかげで確かに性欲は高まる。素晴らしい治療家だ。

「また、東京で学会があるんですけど……その……その時……治療の成果を見せてもらいたいなぁ、なんて」

 町田が瞬きを繰り返す。
 頭を撫でて毛の生え具合を確認する。

「毛じゃなくて、その……もう一つのほうを……」

 美英が真っ赤な顔をして町田を見る。

「あの、その、主治医として、そこは経過をカルテに書かないといけないし、その──」

『わかった、楽しみにしてる。より【腎虚】と戦うよ──その日のために』

 町田はニヤリと笑う。その笑顔に美英がつられて笑う。

「あ、言い忘れてました。出来れば毎朝の勃起情報もお願いします。角度は結構ですので──」

『……いや、それは──男として守りたい秘密の壁だから……』


 美英は至って真剣だ。幸同様医学のことになると恥じらいも何もない……。彼氏だろうが関係ないらしい。体の関係になってもいないのに隅々まで知られてしまいそうだ。

『……それは……あはは、美英ちゃんが測ってくれたほうが──あはは』

 町田が冗談を言うと画面の向こうの美英がみるみる赤くなる。首から上が真っ赤になり耳も染まる。町田の言葉に冷静になったらしい……一気に医療人の脳から普通の脳の思考へとシフトした。

 可愛い……。虐めたくなる……。

『ハハハ、分度器、買っとくね』

「兄さん! もう! 揶揄わんとってください!」

 町田が嬉しそうに頭を撫でた。
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