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第二部
女神降臨
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月末が近づき、定期的に銀行へ行く日だ。
今回も光田が付き添ってくれている。あの日自分のせいで幸を危険な目に合わせたと思っている光田はいつにも増して周りを警戒して歩いている。
すれ違う人たちがそそくさと視線を逸らして足早に通り過ぎる。商店街のアーケードの人混みでさえ、まるで海を二つに分けた◯ーゼになったように皆が私たちの為に道を開けていく。
「あ、すみません……」
突然できた花道を幸は頭を下げつつ通り抜ける。
そこへ突然スーツを着た男が近づいてきた。
「先生……僕のこと覚えてらっしゃいますか……」
スーツを着た眉毛の細い青年が涙を流している。首に金色のチェーンが見える。見るからにそっち系だ。
あいにくこんな風貌の人間と感動の再会をするほど激動の人生を歩んでいない。
「えっと……ごめんなさい──ちょっと……」
「おたく、どちらさん? うちの先生になんか用?」
光田が組長に教わったのだろうか黒いオーラを撒き散らす。その青年は怯むことなく笑顔で対応する。その時点で只者ではない。
光田の質問には答えず幸をキラキラした瞳で見つめている。
「俺、先生のおかげで健康になれたんです。先生、いや、女神の……」
「あ……えっと、私生きてるんです。真面目に地に足つけて生きてるんで邪魔しないでください、じゃ」
勧誘か何かだと思い幸は立ち去ろうとする。男はあわてて幸の手を取ろうとする。
その手を叩き落とし、二人の間に光田が割って入る。
「ええかげんにせえよ、しつこいなぁ、あんた」
光田の眉間にシワが寄る。その光田の腕を幸が握る。ケンカはダメよ……そう言っているのがわかり眉をひそめる。
男は拳を胸に当てて大声で叫び出す。
「俺……! 性病を治して真面目にゴムつけてます……先生のおかげで人生変わったんです!」
は? 性病……ゴム?
そのワードに幸は記憶のページをめくり始めた。
あ、あの子だ
「あなた、黒嶺会の男の子ね? 性病の! あぁ! 上手く勃起するようになったのね!」
「あ──先生、ここ商店街ですよ? 性病とか勃起とか大きい声で言わない方が……」
幸は医療人だ。医学に関することであれば恥ずかしいとも思っていない。痴話話をする感覚で話している。しかも声のトーンも下げない。
光田の声は幸の耳には届いていない様だ。商店街の老若男女は突然道端に現れた性の相談コーナーに釘付けだ。
「先生はうちの会では女神と呼ばれています。先生のおかげで性病撲滅に大きく舵を切るきっかけにもなりました。おかげで安心安全の裏ビデオ作成が出来そうです」
「本当? 良かったわ」
「いや、犯罪ですよ? 裏ビデオですよ? 先生──」
にこやかに微笑む二人だがそもそも裏ビデオにクリーンなイメージをつけてどうするんだろうか。
商店街に人が集まり始めた。光田は先生の腕を取り歩き始めた。
「先生! もうこれ以上はダメです。はよ銀行行きましょう!」
「あ、そうね。じゃあね、これからも頑張ってね」
この事がバレるとマズイ。
ただでさえ、黒嶺会に関して組長はピリピリしている。遭遇したと知れれば……。
光田は背筋が凍る。
はやく院に戻らないと……また黒嶺会の輩が──。
腕を掴んでぐいぐい引っ張る光田に幸は心配そうに声をかける。だか、光田は周りを見て黒嶺会の奴らがいないか目を光らせ続ける。
「ちょっと、光田さん、光田さん?……キツネちゃん?」
キツネちゃん
懐かしい呼び方にふと我に帰る。
「あ、あ……先生すみません……腕痛いですよね」
掴んでいた腕を離し申し訳なさそうに頭を下げる。幸はその頭にそっと触れる。
……こうして他人に撫でられるのは久しぶりだ。先生の手は温かい……。
「あの日守ってくれてありがとうね。大丈夫……キツネちゃんがいてくれるだけでこうして安心して外に出られるの……だから、そんなに怖がらないで? ね?」
そういうと幸は優しく微笑んだ。
光田は幸の笑顔を見て泣きそうになった。あんな目にあっても信じてくれる幸が眩しくて目を細める。
あぁ、あいつらの言ってることは本当かも。
──女神……
幸はゆっくりと歩き始めた。
「さ、行きましょう……あ、銀行では目付きは優しくね? 実は一回、脅されてませんか? って書いたメモを渡されてね──」
光田はゆっくりと幸の後ろを歩き始めた。その表情は穏やかで以前と同じ様に幸との外出を楽しんでいる様だった。
今回も光田が付き添ってくれている。あの日自分のせいで幸を危険な目に合わせたと思っている光田はいつにも増して周りを警戒して歩いている。
すれ違う人たちがそそくさと視線を逸らして足早に通り過ぎる。商店街のアーケードの人混みでさえ、まるで海を二つに分けた◯ーゼになったように皆が私たちの為に道を開けていく。
「あ、すみません……」
突然できた花道を幸は頭を下げつつ通り抜ける。
そこへ突然スーツを着た男が近づいてきた。
「先生……僕のこと覚えてらっしゃいますか……」
スーツを着た眉毛の細い青年が涙を流している。首に金色のチェーンが見える。見るからにそっち系だ。
あいにくこんな風貌の人間と感動の再会をするほど激動の人生を歩んでいない。
「えっと……ごめんなさい──ちょっと……」
「おたく、どちらさん? うちの先生になんか用?」
光田が組長に教わったのだろうか黒いオーラを撒き散らす。その青年は怯むことなく笑顔で対応する。その時点で只者ではない。
光田の質問には答えず幸をキラキラした瞳で見つめている。
「俺、先生のおかげで健康になれたんです。先生、いや、女神の……」
「あ……えっと、私生きてるんです。真面目に地に足つけて生きてるんで邪魔しないでください、じゃ」
勧誘か何かだと思い幸は立ち去ろうとする。男はあわてて幸の手を取ろうとする。
その手を叩き落とし、二人の間に光田が割って入る。
「ええかげんにせえよ、しつこいなぁ、あんた」
光田の眉間にシワが寄る。その光田の腕を幸が握る。ケンカはダメよ……そう言っているのがわかり眉をひそめる。
男は拳を胸に当てて大声で叫び出す。
「俺……! 性病を治して真面目にゴムつけてます……先生のおかげで人生変わったんです!」
は? 性病……ゴム?
そのワードに幸は記憶のページをめくり始めた。
あ、あの子だ
「あなた、黒嶺会の男の子ね? 性病の! あぁ! 上手く勃起するようになったのね!」
「あ──先生、ここ商店街ですよ? 性病とか勃起とか大きい声で言わない方が……」
幸は医療人だ。医学に関することであれば恥ずかしいとも思っていない。痴話話をする感覚で話している。しかも声のトーンも下げない。
光田の声は幸の耳には届いていない様だ。商店街の老若男女は突然道端に現れた性の相談コーナーに釘付けだ。
「先生はうちの会では女神と呼ばれています。先生のおかげで性病撲滅に大きく舵を切るきっかけにもなりました。おかげで安心安全の裏ビデオ作成が出来そうです」
「本当? 良かったわ」
「いや、犯罪ですよ? 裏ビデオですよ? 先生──」
にこやかに微笑む二人だがそもそも裏ビデオにクリーンなイメージをつけてどうするんだろうか。
商店街に人が集まり始めた。光田は先生の腕を取り歩き始めた。
「先生! もうこれ以上はダメです。はよ銀行行きましょう!」
「あ、そうね。じゃあね、これからも頑張ってね」
この事がバレるとマズイ。
ただでさえ、黒嶺会に関して組長はピリピリしている。遭遇したと知れれば……。
光田は背筋が凍る。
はやく院に戻らないと……また黒嶺会の輩が──。
腕を掴んでぐいぐい引っ張る光田に幸は心配そうに声をかける。だか、光田は周りを見て黒嶺会の奴らがいないか目を光らせ続ける。
「ちょっと、光田さん、光田さん?……キツネちゃん?」
キツネちゃん
懐かしい呼び方にふと我に帰る。
「あ、あ……先生すみません……腕痛いですよね」
掴んでいた腕を離し申し訳なさそうに頭を下げる。幸はその頭にそっと触れる。
……こうして他人に撫でられるのは久しぶりだ。先生の手は温かい……。
「あの日守ってくれてありがとうね。大丈夫……キツネちゃんがいてくれるだけでこうして安心して外に出られるの……だから、そんなに怖がらないで? ね?」
そういうと幸は優しく微笑んだ。
光田は幸の笑顔を見て泣きそうになった。あんな目にあっても信じてくれる幸が眩しくて目を細める。
あぁ、あいつらの言ってることは本当かも。
──女神……
幸はゆっくりと歩き始めた。
「さ、行きましょう……あ、銀行では目付きは優しくね? 実は一回、脅されてませんか? って書いたメモを渡されてね──」
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