上 下
15 / 19
プチ番外編

おれの可愛いたぬき ※

しおりを挟む
 いつものように俊と琴音はグラス片手に微笑んでいた。

 目の前の琴音は演歌歌手並みに「くぅシビれるぅ」と拳を握りしめている。

「喉越しも悪くないな」

 俺は箸を持ち琴音に南蛮漬けを取り分けてやる。琴音は犬のようにじっとその様子を見つめ、手元に皿が置かれるとふにゃりと笑った。

「俊くん、ありがとー」

 まだ二杯目だが既に琴音はほろ酔いだ。最近イタズラを警戒して飲まなかったからだろうか。

 あれから、琴音は酒を少し控えた。
 いつだったかイタリア産の白ワインを同僚にもらった時に琴音はあまりの旨さにペース配分を間違った。泥酔したあと、まぁ、その、まぁ……抱き潰したわけだが……額に肉を書かれただけでなく頬には魚の絵を描いておいた。本人からしたら敗北感がすごかったのかあれから本当に少ししか飲まない日が続いた。

 今日はそんな琴音を陥落すべく切り札を投下した。琴音の好きな新潟の地酒を用意した。以前、小さな瓶を試しで買ってみたのだがそれが美味しかったらしく瓶を逆さにして最後の一滴まで飲み干そうとしていた。

 案の定というかなんというか、メールを送ると琴音は食らいついた。もうそれは凄まじく。

いく! 今日!

 目の前の琴音は「眠い……」と言い出した。俺はもう琴音に泊まっていけばなんて言わない。当たり前のように琴音は洗面台に向かった。

 ドサッ

 ベッドに横たわる琴音は気持ちが良さそうだ。髪の毛のゴムが頭に当たって痛そうだ。そのゴムを外すとまだ髪は乾ききっていないようだ。しっとりとしている。
 そのままお腹の上にタオルケットをかけてやると俊はテーブルの上を片付け始めた。


 俺はベッドへ横になると琴音の背中に抱きつく。

「琴音……もう寝た?」

 いつものように尋ねて、返事がないのを確認する。首筋に唇を当て舌でうなじを擦る。相変わらず反応がない。
 そのまま琴音を仰向けにするとゆっくり口付ける。起きているのか、寝ているのか分からない。琴音のたぬき寝入りはもう名人芸だ。

 これは……勝負だな──。

 俺は琴音の首筋にキスを落とし着ていた服の上から琴音の脇腹をなぞる。

「…………」

 何となく力が入った気がするがどうだろうか起きているのか? 俺は耳元で囁く。

「起きてるんだろ……? 琴音」

「…………」

 仕方がない。じゃあ勝手にさせてもらう。

 俊は上の服を捲り上げて琴音の胸の周りを指でなぞる。一瞬背中が反応した気がした。
 そのままわざと音を立てるように舐めると琴音の身体がピクンと跳ねた。ごまかそうと琴音が壁側を向いて横になったのを見計らって背中にぴったりと体を寄せる。

 琴音の服の裾から手を入れるとそのまま横向きで琴音の胸を揉みしだく。ぐにゃりと形を変えてやると一瞬琴音の肩が上がった。うなじにキスを落とし耳元で囁く。

「──降参か?」

 触れた耳は既に熱い。酒のせいではないだろう、きっと羞恥でこうなっているはずだ。琴音の瞳が見たい……。蕩けて俺を欲しているはずだ。たぬき寝入りの時には見れなかった瞳を最近は欲するようになった。

 俺は一気にたたみ掛けることにした。

 俊は琴音のTシャツをめくり上げると一気に脱がす。

「……ッ!」

 脱がし切るあたりで手首に纏められたTシャツの上からさっき琴音の髪から抜いたゴムを八の字につける。
 まるで拘束されているみたいだ。

 そのままコロンと仰向けにさせると真っ赤なに染まった顔をしている琴音と目が合った。その瞳はやはり濡れていてそれだけで自身が昂ぶる。その琴音に俺はゆっくり跨り上から見下ろす。

「おはよう、琴音──」 

 とぼけたふりして俺は声をかける。俺のイタズラに反応して身体が熱くなっている琴音に気づかないふりをして──。

「ず、ずるい──こんなの、お、起きちゃう……」

 決して起きていたとは言わない。
 琴音はされたことをしっかり覚えていて後で仕返す悪いたぬきだ。おれはそれをちゃんと覚えている。

「不公平?」
「…………」

「じゃあこれでどう?」

 俺は琴音に跨ったまま着ていた上の服を脱ぎベッドの外へ投げ捨てる。
 琴音の喉が鳴ったのがわかる。月明かりに照らされた俺の首や鎖骨、胸や腕、腹筋……そしてスウェットに覆われた下腹部に目をやるのを俺は黙って見ていた。

 琴音の眼が欲望に包まれるこの瞬間はたまらなく嬉しい。

 琴音の体を引き起こし、あぐらをかいた俺の太腿に琴音を座らせる。
 琴音が息を飲んだ。俺の下腹部の昂りを肌で感じたはずだ。そのまま繋がれた両腕の中に俺の頭を通させると琴音にキスをする。カーテン越しにぼんやりとした月明かりに照らされた琴音は薄目でぼんやりと俺の口元を見つめている。

──どうやら、ここらで形勢逆転だろう。琴音が限界らしい。

「続きは──?」
「仕返し……させて──」

「ふーん、上等……」

 そこからは俺たちの秘密だ。俺たち以外みんなたぬき寝入りしていてくれ──。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹は奪わない

緑谷めい
恋愛
 妹はいつも奪っていく。私のお気に入りのモノを……  私は伯爵家の長女パニーラ。2つ年下の妹アリスは、幼い頃から私のお気に入りのモノを必ず欲しがり、奪っていく――――――な~んてね!?

歪んだ欲望と、我慢した先の愛

下菊みこと
恋愛
主人公だいぶ歪んでます!ヤンデレとか病んでるとかじゃなくて性的な嗜好がぶっとんでます!でも多分誰にも迷惑…は…かけてない…と思う…。 主人公は夫の仕事仲間が、夫の寵愛を得たと言い振り回してるのがストレスでとうとうはっちゃける。良い妻として、夫を支え、子供を愛し、そしてたまに息抜きに実家に戻り…養老院へ、通った。 小説家になろう様でも投稿しています!

トリスタン

下菊みこと
恋愛
やべぇお話、ガチの閲覧注意。登場人物やべぇの揃ってます。なんでも許してくださる方だけどうぞ…。 彼は妻に別れを告げる決意をする。愛する人のお腹に、新しい命が宿っているから。一方妻は覚悟を決める。愛する我が子を取り戻す覚悟を。 小説家になろう様でも投稿しています。

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

ボロボロになった心

空宇海
恋愛
付き合ってそろそろ3年の彼氏が居る 彼氏は浮気して謝っての繰り返し もう、私の心が限界だった。 心がボロボロで もう、疲れたよ… 彼のためにって思ってやってきたのに… それが、彼を苦しめてた。 だからさよなら… 私はまた、懲りずに新しい恋をした ※初めから書きなおしました。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

裏切り者

詩織
恋愛
付き合って3年の目の彼に裏切り者扱い。全く理由がわからない。 それでも話はどんどんと進み、私はここから逃げるしかなかった。

人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?

石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。 ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。 ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。 「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。 扉絵は汐の音さまに描いていただきました。

処理中です...