キスの練習台

菅井群青

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番外編

あれから

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「そこのもやしのナムル取ってくんない?」

「ああ、ほれ」

 どこぞの夫婦だっていうぐらい気の抜けたやりとりが続く。自分でもこれでいいのかと思うぐらいだ。十八年の付き合いが憎らしい。ビールを飲んだ哲太はごきげんなようで貴子の髪を手で搔き上げて耳元で囁く。

「貴子、練習台お願いしていい?」

……きた。

 哲太の言葉に心臓が跳ねる。あの日以来哲太と恋人関係になったわけだが、とにかくこっぱずかしくて堪らない。急に甘え出すこともできない捻くれた私を哲太はどう思っているのだろう。好きの二文字すらとても言えそうにない。

「貴子……」

 熱を帯びた哲太の声に全身の毛が逆立つ。哲太は私をゆっくりと寝かせるとゆっくりとキスを落とす。ふわりと触れ、角度を変えて深く繋がる。哲太は私に苦しい思いをさせまいと身体の重みは腕で支えているようだ。優しく甘いキスと、必要以上に大切にされている感覚でビリっと背筋に電気が走る。哲太から出る男の香りに目眩がしそうだ。

「どうだ?」

 哲太のキスは優しく始まる。一旦離れて練習台の感想を求めてくるのは変わらない。

「御前様の、出番ね……」

「おいおい、登り詰めたな。おい」

 いつのまにかお偉いさんになってしまった貴子に優しく微笑みかける。

……あぁもうダメだ。

 仰向けに寝ていた貴子は哲太の腰を太腿で挟むとぐいっと一回転した。攻守交代だ──
貴子は仰向けにされた哲太に跨り上から哲太を見下ろしている。太腿越しに感じる哲太の腹筋にゾクリとする。

「っておおぃ! まだ俺のターン!」

 焦ったように下でバタつく哲太の内腿を手の平で優しく撫でてやるとピタリと大人しくなる。本物のゴリラもこれぐらい従順だといいのだが。真っ赤な顔して抗議の目を向けてくる哲太はびっくりするほど可愛い。

「……期待してるの?」

 いつものように指を絡めて人質に取ると哲太の喉仏は返事をするように動く。貴子はゆっくりと顔に近づくと「かわいい……」と言い早急に唇を奪う。かわいい発言に抗議をしているようで曇った声を出すがその声ごと貴子は捕食した。途中でもっと中まで犯したくなり哲太の顎を上に向けさせて食べる。
 迎えに行くように舌を出し絡めとりわざと口角をなぞるようにしてやると哲太の身体が反る。ゆっくりと離れていくと口を軽くあけ真っ赤になったであろう舌を見せると哲太の表情が固まる。

「どう、かな?」

 欲望のまま突っ走った後は、いつも哲太の顔を見てやり過ぎた、嫌われるかもしれないと怖くなる。私は哲太を失うことが何よりも怖い。

 哲太は上半身を急に起こすとバランスを崩しそうになる貴子の腰を抱えた。

「び、びっくりした……!」

「……びっくりしたのはこっちだ」

 哲太の声がかすれて渋みが増している。

「貴子、俺のマグナム、ショットガンになってるわ」

「勝手にカスタムしてんなよ」

 自分のシャツを脱ぐのが面倒になったのか哲太はなぜかボタンに構わずシャツを左右に開く。え? 本場のゴリラじゃん、どっかのモンスターの変身シーンのような光景に唖然としていると興奮し過ぎて息が荒れた哲太は貴子の頰を掴み満面の笑みを浮かべる。

「女豹のお前が悪い、前回みたいに手加減しないからな」

……へ? 手加減しててあれなの? ってかもう人間の男じゃなくてオスの顔してるくない?

「ちょ、まっ──エロゴリラー!」
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