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番外編
吉田夫妻の新婚生活
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朝目が覚めるとカーテンの隙間から日が差し込んできて眩しい……。逃げるように寝返りを打つと隣で寝ていた憲司に手が当たる。
「あ、ごめん」
「ん……あぁ、おはよう」
憲司が寝惚けながら私にキスをする。
そのまま気持ちよさそうに再び眠る憲司に里美は一瞬戸惑ったものの笑いが出る。無意識でキスをしてくれるのが嬉しい。
あぁ、結婚したんだな。
一緒にこうして朝を迎えられるのが嬉しい。
胸の中からポカポカしたものが溢れ出る。
結婚していっしょにくらすようになり変わったこともある。
まずゴミ捨ては憲司がする。会社に行く途中で出すのだが、度々近所のおばあちゃんに捕まってしまい、走って駅へと向かう。意外にも憲司はおばあちゃんキラーだったようだ。真面目な性格が出てしまいつい話を聞いてあげたくなるらしい。
晩御飯はどちらも作るが、片付けはもう一方がする。そして片付けをしてもらっている間にもう一方が風呂に入る。
憲司も私も仕事で帰宅が遅くなる日がどうしてもある。それでも二人の時間を持ちたいので段取りよく試行錯誤するうち自然とこの仕組みが定着した。どちらが多く負担するんじゃなくて、二人の時間を取れるよう優先した結果だ。
喧嘩をした日はある事で決着をつける。これも結婚後に急に里美が考え出した。
ある日憲司が連絡をし忘れて夕食がいらなくなった時があった。里美は晩御飯を作って待っていた。メールが送信できていなかったことに気づいた憲司が里美に連絡すると里美は「知らない」とだけ言い電話を切った。その晩憲司がコンビニで里美の好きなスイーツを買って帰った。そっと鍵を開けると玄関先で里美が仁王立ちで立っていた。
「座りなさい」
「はい、すみません……」
憲司が椅子に座る。台所にはカレーのスパイスのいい香りが立ち込めていた。申し訳ない気持ちになり真摯に謝る。里美はそのまま腰を浮かすと憲司を睨む。
「さ、これで決着つけましょう」
「……これ?」
里美がダイニングテーブルに肘をつき気合の入った瞳で憲司を見つめる。指の関節を鳴らすと親指を立てる。
「指相撲よ……」
夜も遅かったが三回勝負で里美と真剣に指相撲をした。里美は気合が入っていたもののかなり弱かった。憲司がただじっとしている間里美は「あぁ、くそう……あん、なんで?」と一人で憲司以外の何かと戦っている……。指が曲がらないようだ。
可愛い……。
ちらっと時計の針を見ると随分と時間が遅い事に気が付く。このままじゃ勝負が付かず終わらない──とりあえず一回里美の親指を挟んでみる。あっという間に押さえ込みカウントが始まる。
「一二、三四、五……」
「ああん! もう! 負けた……」
里美は悔しそうだ。袖を捲り上げもう一度手を握り合う……。それにしても弱い……弱々だ。こんなにも指相撲が弱いのになぜ指相撲で勝負を挑んできたのだろう。憲司は笑いを堪える。
「一二、三四、五……ははは」
「ああん! またぁ?」
最後は仕方なく親指を下げて押さえやすくしてやると、里美は思いっきり俺の指を押さえた。もう興奮して肘はテーブルから離れ立ち上がりそうな勢いだ。勝利の瞬間が見えて大声を上げる。カウントも早すぎる。
「一二三四五! よっしゃー!」
里美が嬉しそうに笑った。思わずつられて笑ってしまう。結局二対一で憲司が勝った。里美は満足そうに笑うと「じゃあ、許す」と言った。
憲司は里美が可愛くて、愛おしくて思わず里美の頭を撫でる……完敗だ。
「ちゃんと連絡できてなくてごめん」
「……わざとじゃないからいいよ。次の詫びの品はみたらし団子にして」
憲司は微笑んだ。結婚して変わったことも多いけれど、二人は楽しみながら思い合っていた。
愛情も呼応する──水面に投じた石のように広がっていく。
今日も二人揃ってベッドに横たわる。
「ねぇ……今日の写真の犬ってブルドッグ?」
「んー? たぶんフレンチブルドッグかな?」
仕事で顧客先に出向いた時に飼われているフレンチブルドッグの写真を憲司は里美に送っていた。ヨダレが垂れていて可愛かった。
「そう……本物の、ブルドッグ……見かけたら、写メちょうだ──」
「うん、わかった……」
微睡んできた里美を抱き寄せると腕枕をしてあげる。憲司が里美の額にキスをすると里美がうっすら微笑んだ気がした。
「あ、ごめん」
「ん……あぁ、おはよう」
憲司が寝惚けながら私にキスをする。
そのまま気持ちよさそうに再び眠る憲司に里美は一瞬戸惑ったものの笑いが出る。無意識でキスをしてくれるのが嬉しい。
あぁ、結婚したんだな。
一緒にこうして朝を迎えられるのが嬉しい。
胸の中からポカポカしたものが溢れ出る。
結婚していっしょにくらすようになり変わったこともある。
まずゴミ捨ては憲司がする。会社に行く途中で出すのだが、度々近所のおばあちゃんに捕まってしまい、走って駅へと向かう。意外にも憲司はおばあちゃんキラーだったようだ。真面目な性格が出てしまいつい話を聞いてあげたくなるらしい。
晩御飯はどちらも作るが、片付けはもう一方がする。そして片付けをしてもらっている間にもう一方が風呂に入る。
憲司も私も仕事で帰宅が遅くなる日がどうしてもある。それでも二人の時間を持ちたいので段取りよく試行錯誤するうち自然とこの仕組みが定着した。どちらが多く負担するんじゃなくて、二人の時間を取れるよう優先した結果だ。
喧嘩をした日はある事で決着をつける。これも結婚後に急に里美が考え出した。
ある日憲司が連絡をし忘れて夕食がいらなくなった時があった。里美は晩御飯を作って待っていた。メールが送信できていなかったことに気づいた憲司が里美に連絡すると里美は「知らない」とだけ言い電話を切った。その晩憲司がコンビニで里美の好きなスイーツを買って帰った。そっと鍵を開けると玄関先で里美が仁王立ちで立っていた。
「座りなさい」
「はい、すみません……」
憲司が椅子に座る。台所にはカレーのスパイスのいい香りが立ち込めていた。申し訳ない気持ちになり真摯に謝る。里美はそのまま腰を浮かすと憲司を睨む。
「さ、これで決着つけましょう」
「……これ?」
里美がダイニングテーブルに肘をつき気合の入った瞳で憲司を見つめる。指の関節を鳴らすと親指を立てる。
「指相撲よ……」
夜も遅かったが三回勝負で里美と真剣に指相撲をした。里美は気合が入っていたもののかなり弱かった。憲司がただじっとしている間里美は「あぁ、くそう……あん、なんで?」と一人で憲司以外の何かと戦っている……。指が曲がらないようだ。
可愛い……。
ちらっと時計の針を見ると随分と時間が遅い事に気が付く。このままじゃ勝負が付かず終わらない──とりあえず一回里美の親指を挟んでみる。あっという間に押さえ込みカウントが始まる。
「一二、三四、五……」
「ああん! もう! 負けた……」
里美は悔しそうだ。袖を捲り上げもう一度手を握り合う……。それにしても弱い……弱々だ。こんなにも指相撲が弱いのになぜ指相撲で勝負を挑んできたのだろう。憲司は笑いを堪える。
「一二、三四、五……ははは」
「ああん! またぁ?」
最後は仕方なく親指を下げて押さえやすくしてやると、里美は思いっきり俺の指を押さえた。もう興奮して肘はテーブルから離れ立ち上がりそうな勢いだ。勝利の瞬間が見えて大声を上げる。カウントも早すぎる。
「一二三四五! よっしゃー!」
里美が嬉しそうに笑った。思わずつられて笑ってしまう。結局二対一で憲司が勝った。里美は満足そうに笑うと「じゃあ、許す」と言った。
憲司は里美が可愛くて、愛おしくて思わず里美の頭を撫でる……完敗だ。
「ちゃんと連絡できてなくてごめん」
「……わざとじゃないからいいよ。次の詫びの品はみたらし団子にして」
憲司は微笑んだ。結婚して変わったことも多いけれど、二人は楽しみながら思い合っていた。
愛情も呼応する──水面に投じた石のように広がっていく。
今日も二人揃ってベッドに横たわる。
「ねぇ……今日の写真の犬ってブルドッグ?」
「んー? たぶんフレンチブルドッグかな?」
仕事で顧客先に出向いた時に飼われているフレンチブルドッグの写真を憲司は里美に送っていた。ヨダレが垂れていて可愛かった。
「そう……本物の、ブルドッグ……見かけたら、写メちょうだ──」
「うん、わかった……」
微睡んできた里美を抱き寄せると腕枕をしてあげる。憲司が里美の額にキスをすると里美がうっすら微笑んだ気がした。
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