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泣く背中
結び
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「紗英……本当に良かったのか?」
「いいってば、本当に大丈夫だから」
二人はとある写真館で並んで立っていた。先程から色眼鏡をかけたカメラマンがシャッターを切る音が部屋に響いている。紗英はマーメイドの純白ドレスを着ていた。装飾の少ないシンプルなデザインだったが紗英らしかった。遼はグレーのタキシードを着ていた。仕事で自然と体を鍛えているので海外のタキシードを借りた。カメラマンは筋肉質な遼の体格を気に入り何度もリクエストをして写真に収めていた。ただ、部屋には私たちと写真館のスタッフしかいない。私たちは結婚式を挙げなかった。
紗英はこうして純白のドレスを着て記念撮影ができるだけで良かった。友人たちにはもう充分祝ってもらったし、両親の顔合わせも済んでいた。父親同士は共通の趣味があるようで先日も共に海釣りに行った。釣った魚で一献したらしいが、なぜか私たちまで呼び出された。遼は二人からどちらが釣った魚が美味いかを迫られ冷や汗をかいていたのが面白かった。
父親たちの間で新たな友情が芽生えたらしい……遼と紗英は顔を見合わせて笑った。両親たちは本人たちが望むようにすれば良いと言ってくれた。有り難かった。せめて写真だけでも残してあげれればと思った。
カメラマンが嬉しそうに遼に紗英をお姫様抱っこさせた。何回も紗英を持ち上げて笑顔でリクエストに応える遼が可愛かった。
「遼、大丈夫?……その、最近体重増えて──」
遼の料理の腕が上がりすっかり食べ過ぎてしまった紗英は以前と比べて体重が増加していた。周りのみんなからは幸せ太りだと言われた。現にその通りだ。幸せだ、とても……。
「あ、大丈夫、俺今鍛えてるつもりで持ち上げてるから、ダンベル的な感じ」
「な、なんですって!?……遼!」
遼は幸せそうに微笑むと紗英を下ろした。耳元で囁かれた言葉に紗英は唇を噛み締める。
「もう、泣いてないから。怖がらないでいいから……幸せになろう、もっと」
遼は真顔になると紗英の頰に手を当てた。紗英は涙が落ちるのを我慢している。折角メイクをしてもらったのに撮影を始めてすぐに崩れてしまうわけにはいかない。
「傷付けてごめん……、紗英になにかを背負わせる気はなかったんだ。ただ、でも一緒にいれる事が嬉しい……正直な気持ちだ。紗英、俺は寂しくない。すげー幸せだ。幸せだから、紗英も一緒に幸せになろう……俺が、そばにいるから……一生かけて愛を伝えるから……」
「……ふ……」
カメラマンが泣き出した紗英に気付き黙ってそのままシャッターを切る。紗英の瞳から大粒の涙が絶え間なく落ちて行く……。遼はそっと紗英の濡れる頰にキスをした。
「愛してる、紗英、一緒にいてくれてありがとう」
「ありがとう……愛してるわ」
私達は互いを思い合い、支え合うことを誓った。教会じゃない……シャッターのライトが光るこの場所で愛を誓った。
一ヶ月後届いた結婚式の写真の他にカメラマンさんからプレゼントが届いた。それは涙を流す私の頰にキスをする遼の写真だった。紗英の朴には光る一筋の光があった。落ちる涙が上手く輝いていた……プロの技に思わず舌を巻く。
「俺、結構イケてるな」
背後から写真を覗いた遼は頭を掻きながらトイレへと消えた。きっと照れているんだろう。この写真は私の引き出しの中に大切に眠っている。結婚式よりも、ケーキよりも何よりも大切な思い出ができた。
「いいってば、本当に大丈夫だから」
二人はとある写真館で並んで立っていた。先程から色眼鏡をかけたカメラマンがシャッターを切る音が部屋に響いている。紗英はマーメイドの純白ドレスを着ていた。装飾の少ないシンプルなデザインだったが紗英らしかった。遼はグレーのタキシードを着ていた。仕事で自然と体を鍛えているので海外のタキシードを借りた。カメラマンは筋肉質な遼の体格を気に入り何度もリクエストをして写真に収めていた。ただ、部屋には私たちと写真館のスタッフしかいない。私たちは結婚式を挙げなかった。
紗英はこうして純白のドレスを着て記念撮影ができるだけで良かった。友人たちにはもう充分祝ってもらったし、両親の顔合わせも済んでいた。父親同士は共通の趣味があるようで先日も共に海釣りに行った。釣った魚で一献したらしいが、なぜか私たちまで呼び出された。遼は二人からどちらが釣った魚が美味いかを迫られ冷や汗をかいていたのが面白かった。
父親たちの間で新たな友情が芽生えたらしい……遼と紗英は顔を見合わせて笑った。両親たちは本人たちが望むようにすれば良いと言ってくれた。有り難かった。せめて写真だけでも残してあげれればと思った。
カメラマンが嬉しそうに遼に紗英をお姫様抱っこさせた。何回も紗英を持ち上げて笑顔でリクエストに応える遼が可愛かった。
「遼、大丈夫?……その、最近体重増えて──」
遼の料理の腕が上がりすっかり食べ過ぎてしまった紗英は以前と比べて体重が増加していた。周りのみんなからは幸せ太りだと言われた。現にその通りだ。幸せだ、とても……。
「あ、大丈夫、俺今鍛えてるつもりで持ち上げてるから、ダンベル的な感じ」
「な、なんですって!?……遼!」
遼は幸せそうに微笑むと紗英を下ろした。耳元で囁かれた言葉に紗英は唇を噛み締める。
「もう、泣いてないから。怖がらないでいいから……幸せになろう、もっと」
遼は真顔になると紗英の頰に手を当てた。紗英は涙が落ちるのを我慢している。折角メイクをしてもらったのに撮影を始めてすぐに崩れてしまうわけにはいかない。
「傷付けてごめん……、紗英になにかを背負わせる気はなかったんだ。ただ、でも一緒にいれる事が嬉しい……正直な気持ちだ。紗英、俺は寂しくない。すげー幸せだ。幸せだから、紗英も一緒に幸せになろう……俺が、そばにいるから……一生かけて愛を伝えるから……」
「……ふ……」
カメラマンが泣き出した紗英に気付き黙ってそのままシャッターを切る。紗英の瞳から大粒の涙が絶え間なく落ちて行く……。遼はそっと紗英の濡れる頰にキスをした。
「愛してる、紗英、一緒にいてくれてありがとう」
「ありがとう……愛してるわ」
私達は互いを思い合い、支え合うことを誓った。教会じゃない……シャッターのライトが光るこの場所で愛を誓った。
一ヶ月後届いた結婚式の写真の他にカメラマンさんからプレゼントが届いた。それは涙を流す私の頰にキスをする遼の写真だった。紗英の朴には光る一筋の光があった。落ちる涙が上手く輝いていた……プロの技に思わず舌を巻く。
「俺、結構イケてるな」
背後から写真を覗いた遼は頭を掻きながらトイレへと消えた。きっと照れているんだろう。この写真は私の引き出しの中に大切に眠っている。結婚式よりも、ケーキよりも何よりも大切な思い出ができた。
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