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新たな朝
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朝日が昇りすっかり明るくなった部屋に裸で一つの掛け布団に包まる二人がいた。
里美が目を覚まし俺を起こさぬようゆっくりとシャワーに向かったのを確認すると俺はゆっくりと目を開けた。里美がいなくなった部分へ手を伸ばすと里美の熱を感じて嬉しい。
朝食の準備をして二人で食べる朝食は格別だった。片付けをしている間に俺はテレビを見ていたが、そういえばなぜ里美は日曜日の予定を聞いていたのだろう。里美が仕事的に日曜日に休みなのも珍しい。勤め先の雑貨店は日曜日が最も活気がある。
「そういえば、今日どこか行くの? 取りにくいのにわざわざ休み取ってくれたんでしょ?」
「あ、いや? 特には」
里美が言葉を濁す。食器を洗い終わり里美が手を拭きながら俺の元へとやってくる。何も言わずにクローゼットの奥から見覚えのある紙袋を出してきた。これは里美の勤める雑貨店の袋だ。
「え──」
「……開けてみて?」
里美がはにかんだように微笑んだ。俺はその紙袋の中を覗くと綺麗に包装された四角いものが入っている。その包装をゆっくりと開けていく。
そこには革で出来たメガネケースが入っていた。憲司の好きな深緑色に染められた革で出来ている。
「これって──」
「私が、作ったの……仕事の一環でレザークラフト教室に通ってて──」
手で縫い目の部分に手を触れる。丁寧に縫われている。これを里美がひと針ひと針縫ったのか……根気のいる作業だったろう。
「初めてあった時、緑のメガネケースを探していたでしょ? だから、先生にお願いして緑に染めてもらったのきれいでしょ?」
そんな細かいことまで覚えててくれたことに驚いた。俺自身ですらそんなことを言ったかどうかなんて覚えていないのに……。
「どうして急に──」
「今度うちの店で簡単なレザークラフトの体験コーナーを立ち上げることになって……同じ店の木村くんとその教室に通うことになったの。もう少ししたら隔週でそのコーナーを受け持つんだ。だから今日休みなの、実験的な休みね。」
どうやら今度から二週間に一回日曜日が休みになったらしい。その分仕事量が増え大変らしいが里美は嬉しそうだ。
木村という名は昨日里美の携帯電話の画面に現れた名だ。心にどんどんと薬を塗り込んでいくようだ。里美の紡ぐ言葉たちが胸に吸い込まれていく。昨日里美と愛し合って満たされた心がより大きく膨らむ。
「どう、かな?……これから毎年色んなものを作ってあげたいの、憲司に。メガネケースの他にもペン入れとか、キーケースとか書類入れとか──」
嬉しい。里美の口から出た毎年──という言葉に胸が焦げそうだ。これからも里美のそばにいてもいいんだと思うと思わず里美を優しく抱きしめる。
「ありがとう」
「ん、仕事頑張って」
今までずっと俺に言ってくれた言葉だけど、以前とは全く意味が違う。
──ありがとう、もう無理はしないから。
二人はせっかくだからどこかに出掛けようか悩んだ挙句、なぜかカラオケボックスに向かった。憲司は歌うことが苦手だが、里美がカラオケで歌いたい曲があると言ったからだ。何を入れるのか直前まで教えてくれなかったが、ピビピという通信音の後に画面に現れた曲名を目にして俺はツボに入り腹を抱えて笑った。
その曲は有名な愛を訴えるデュエット曲の王道だった。嬉しそうにマイクを手渡す里美とまさかの一曲目から二人で歌い始めた。腕を組み熱唱する里美は本当に楽しそうで俺は携帯電話でその姿を激写した。
この思い出は、一生忘れない。
里美はやはり俺の気持ちを温かくする天才だ。
里美が目を覚まし俺を起こさぬようゆっくりとシャワーに向かったのを確認すると俺はゆっくりと目を開けた。里美がいなくなった部分へ手を伸ばすと里美の熱を感じて嬉しい。
朝食の準備をして二人で食べる朝食は格別だった。片付けをしている間に俺はテレビを見ていたが、そういえばなぜ里美は日曜日の予定を聞いていたのだろう。里美が仕事的に日曜日に休みなのも珍しい。勤め先の雑貨店は日曜日が最も活気がある。
「そういえば、今日どこか行くの? 取りにくいのにわざわざ休み取ってくれたんでしょ?」
「あ、いや? 特には」
里美が言葉を濁す。食器を洗い終わり里美が手を拭きながら俺の元へとやってくる。何も言わずにクローゼットの奥から見覚えのある紙袋を出してきた。これは里美の勤める雑貨店の袋だ。
「え──」
「……開けてみて?」
里美がはにかんだように微笑んだ。俺はその紙袋の中を覗くと綺麗に包装された四角いものが入っている。その包装をゆっくりと開けていく。
そこには革で出来たメガネケースが入っていた。憲司の好きな深緑色に染められた革で出来ている。
「これって──」
「私が、作ったの……仕事の一環でレザークラフト教室に通ってて──」
手で縫い目の部分に手を触れる。丁寧に縫われている。これを里美がひと針ひと針縫ったのか……根気のいる作業だったろう。
「初めてあった時、緑のメガネケースを探していたでしょ? だから、先生にお願いして緑に染めてもらったのきれいでしょ?」
そんな細かいことまで覚えててくれたことに驚いた。俺自身ですらそんなことを言ったかどうかなんて覚えていないのに……。
「どうして急に──」
「今度うちの店で簡単なレザークラフトの体験コーナーを立ち上げることになって……同じ店の木村くんとその教室に通うことになったの。もう少ししたら隔週でそのコーナーを受け持つんだ。だから今日休みなの、実験的な休みね。」
どうやら今度から二週間に一回日曜日が休みになったらしい。その分仕事量が増え大変らしいが里美は嬉しそうだ。
木村という名は昨日里美の携帯電話の画面に現れた名だ。心にどんどんと薬を塗り込んでいくようだ。里美の紡ぐ言葉たちが胸に吸い込まれていく。昨日里美と愛し合って満たされた心がより大きく膨らむ。
「どう、かな?……これから毎年色んなものを作ってあげたいの、憲司に。メガネケースの他にもペン入れとか、キーケースとか書類入れとか──」
嬉しい。里美の口から出た毎年──という言葉に胸が焦げそうだ。これからも里美のそばにいてもいいんだと思うと思わず里美を優しく抱きしめる。
「ありがとう」
「ん、仕事頑張って」
今までずっと俺に言ってくれた言葉だけど、以前とは全く意味が違う。
──ありがとう、もう無理はしないから。
二人はせっかくだからどこかに出掛けようか悩んだ挙句、なぜかカラオケボックスに向かった。憲司は歌うことが苦手だが、里美がカラオケで歌いたい曲があると言ったからだ。何を入れるのか直前まで教えてくれなかったが、ピビピという通信音の後に画面に現れた曲名を目にして俺はツボに入り腹を抱えて笑った。
その曲は有名な愛を訴えるデュエット曲の王道だった。嬉しそうにマイクを手渡す里美とまさかの一曲目から二人で歌い始めた。腕を組み熱唱する里美は本当に楽しそうで俺は携帯電話でその姿を激写した。
この思い出は、一生忘れない。
里美はやはり俺の気持ちを温かくする天才だ。
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