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帰宅 憲司side
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今日は日曜日だ。いつもは仕事が休みだが憲司は会社に出勤していた。月曜日に休みをもらうために返上で働く事にした。日曜日なら顧客は訪れることもない。溜まっていた仕事を一掃するには適している。
その日は夜遅くなってしまった。里美の職場を覗いてみようかとも思ったがゆっくり話はできないだろうと帰宅した。そのまま自分のアパートへと帰る。シャワーを浴びベッドへと体を沈めると携帯電話を取り出した。里美の電話番号が画面一面に表示されている。発信ボタンに指を近付けると憲司は大きく息を吐いた。
今日は──どうだろうか。
コール音が聞こえた……出ろ、出ろ……頼むから──里美、出てくれ。
『もしもし』
久しぶりに聞く里美の声に溜息が漏れる。ようやく電話に出てくれた。数日ぶりの里美の声は静かで、機械のようだった。
『なに? 切るよ』
里美が気怠そうだ。ズキッと心が痛む。
「まて、いや、ごめん……記念日、行けなくて……ご馳走ダメにして……」
必死で言葉を紡ぐ。憲司が昨日ゴミ袋を捨てようとした時に改めて見ると砂糖細工の飾りが目に入った。生クリームに埋もれたそれを手に取ると表面のクリームを指で拭った。現れたカラフルな文字に唇が震えた……。
五周年おめでとう K&S
台無しにしてしまったご馳走を思い出し気付くと涙が溢れていた。里美に泣いていることはバレないでほしい。一瞬里美が黙り込んだ。電話の向こうで大きく息を吸ったような気配がした。
『もういいの、終わったことだから』
里美はいつもケンカの時に別れようとは言ったことがない。こうしてアパートからいなくなったり、電話に出ないこともない。こんなに冷たく俺に話しかけることも……なかったはずだ。
痛い、心臓がおかしくなってしまったか? 手が冷たくなる……シャワーを浴びたはずなのに。
これが、恐怖か。
俺は必死に声を出す。ベッドの枕を握りしめる。柔らかいはずの枕が固く感じた。
「終わってない。別れないから、俺……本当に里美のこと──」
『やめて……』
好きなんだ
その言葉は言えなかった。里美が本当に辛そうで、愛を伝えたいのに、それが里美には辛い言葉のようだった。
『憲司は私を捨てた。とっくに捨ててた……すがっていたのは私でそれを止めるタイミングは私が決めるの。記念日の日に違う人といたくせに、仕事なんて終わっていたくせに、あの日に笑顔でいたくせに!』
里美の心の声が爆発したのを黙って俺は受け取る。あぁ、違う! 違う!
一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる。こんなにも愛しているのに、涙が溢れて胸を焦がしているのに、捨てていない。捨てられるわけがない……。
……さようなら
里美の声が聞こえて通話が終わった。俺は握っていた携帯電話をベッドへと置くと頭を自分で殴る。強く、強く、強く。
最悪だ──俺。
その日は夜遅くなってしまった。里美の職場を覗いてみようかとも思ったがゆっくり話はできないだろうと帰宅した。そのまま自分のアパートへと帰る。シャワーを浴びベッドへと体を沈めると携帯電話を取り出した。里美の電話番号が画面一面に表示されている。発信ボタンに指を近付けると憲司は大きく息を吐いた。
今日は──どうだろうか。
コール音が聞こえた……出ろ、出ろ……頼むから──里美、出てくれ。
『もしもし』
久しぶりに聞く里美の声に溜息が漏れる。ようやく電話に出てくれた。数日ぶりの里美の声は静かで、機械のようだった。
『なに? 切るよ』
里美が気怠そうだ。ズキッと心が痛む。
「まて、いや、ごめん……記念日、行けなくて……ご馳走ダメにして……」
必死で言葉を紡ぐ。憲司が昨日ゴミ袋を捨てようとした時に改めて見ると砂糖細工の飾りが目に入った。生クリームに埋もれたそれを手に取ると表面のクリームを指で拭った。現れたカラフルな文字に唇が震えた……。
五周年おめでとう K&S
台無しにしてしまったご馳走を思い出し気付くと涙が溢れていた。里美に泣いていることはバレないでほしい。一瞬里美が黙り込んだ。電話の向こうで大きく息を吸ったような気配がした。
『もういいの、終わったことだから』
里美はいつもケンカの時に別れようとは言ったことがない。こうしてアパートからいなくなったり、電話に出ないこともない。こんなに冷たく俺に話しかけることも……なかったはずだ。
痛い、心臓がおかしくなってしまったか? 手が冷たくなる……シャワーを浴びたはずなのに。
これが、恐怖か。
俺は必死に声を出す。ベッドの枕を握りしめる。柔らかいはずの枕が固く感じた。
「終わってない。別れないから、俺……本当に里美のこと──」
『やめて……』
好きなんだ
その言葉は言えなかった。里美が本当に辛そうで、愛を伝えたいのに、それが里美には辛い言葉のようだった。
『憲司は私を捨てた。とっくに捨ててた……すがっていたのは私でそれを止めるタイミングは私が決めるの。記念日の日に違う人といたくせに、仕事なんて終わっていたくせに、あの日に笑顔でいたくせに!』
里美の心の声が爆発したのを黙って俺は受け取る。あぁ、違う! 違う!
一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる。こんなにも愛しているのに、涙が溢れて胸を焦がしているのに、捨てていない。捨てられるわけがない……。
……さようなら
里美の声が聞こえて通話が終わった。俺は握っていた携帯電話をベッドへと置くと頭を自分で殴る。強く、強く、強く。
最悪だ──俺。
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