2 / 45
もう終わった
しおりを挟む「しかし、なんであのオッサンが増田先生の憧れなんだ?」
昨日は紬と増田を宥めるので終わってしまったが、この疑問が解決していないぞと俺は気づく。
昼休み。これからまた惚れ薬開発の時間となるのだが、そもそもなぜ増田は朝倉のストーカーなんてやっているのだろうか。
「調べろよ」
そんな俺の疑問につっけんどんに言ってくれるのは、よく解らない展開になっているのに、まだ付き合わされている大狼だ。
「調べて出てくるのか?」
俺が訊くと
「国家魔法師の資格を持っているんだったら、魔法省に色々と登録されているはずだろ。アクセス申請すれば、すぐに朝倉先生の情報を教えてくれるはずだ」
大狼が大元に問い合わせろよと冷たい。
「面倒だよ。ってか、わざわざ魔法省にそんなこと問い合わせたくねえし」
俺は勘弁と、この話題を打ち切った。
ちなみに何かと出てくる魔法省は、そのまんま、魔法に関することを一手に引き受けている省庁だ。隕石衝突の混乱後にすぐに設置され、国家魔法師の認定から危険魔法動物の特定まで、なんでもやらされている省である。そして、この魔法学院も魔法省の管轄となっている。
「ふっ。仕方がない。私が教えてやろう」
と、そこに昼飯を購買に買いに行っていた佳希が、偉そうにふんぞり返ってくれる。おかげで大きな胸が強調されまくっていた。
「調べたのか?」
俺は突き出された胸をこっそり目で堪能しながら、魔法省に問い合わせたのかと訊く。
「そんな面倒なことをしなくても、増田先生に聞けばいいだけだ。私は朝倉先生を尊敬する同志。そのことを伝えたら、色々と教えてくれた」
「あっそ」
なんという恐ろしい共通の話題なんだ。俺は呆れつつも、それで問題の発端となっている朝倉への拗らせはどうなっているのかと訊ねる。
「ああ。これを見てくれ」
佳希はそう言うと、白衣のポケットからコピー用紙を取り出した。広げられたそこには、二十年前の新聞が印刷されている。
「なになに。『天才少年現る! 十五才で国家魔法師に特別認定された朝倉小太郎』って、ええっ!?」
俺はその新聞記事を読んで、思い切り仰け反ってしまう。
「そう。ビックリだろ。魔法学院に飛び級という制度があることも初めて知ったが、朝倉先生の魔法能力は飛び抜けているらしいんだ。この翌年には国家間の魔法対抗試合に出て、当時世界一位の称号を手に入れている」
「くう。あのオッサン、どこまで天才なんだよ」
俺は、あのボサボサ頭のオッサンにこれだけ秘められた能力があるのが信じられんと、がしがしと頭を掻き毟る。
「増田が憧れる理由は解った。でも、今は魔法薬学の権威なんだよな。その間に何があったんだ?」
大狼は俺からコピー用紙を奪い取ると、朝倉の人生に一体何がと真剣な目だ。
「確かに、今は国家魔法師の記章を白衣のポケットに入れちまう、適当なオッサンだぜ」
なんで朝倉関係でこんなに謎が出てくるんだよと、俺はやれやれと溜め息を吐く。しかし、身近にとんでもない人物がいたことが発覚したわけだ。そりゃあ、今をときめく増田も、二十年前だから子どもながらに衝撃を受けたはずで、思わず追い掛けてしまうことだろう。
「何なんだろうな」
「もう、天才同士で勝手にやっていてくれって思うな」
俺と大狼の意見が珍しく一致した時
『緊急警報! 魔法師指揮下にないアンデッドを確認!! 学生の皆さんは、至急校舎内に避難してください』
と頭の中に思念伝達が鳴り響く。
「魔法師指揮下にないアンデッドって」
「野良アンデッドか。昨日の騒動ですっかり忘れていたけど、増田がグラウンドの近くで見たって言ってたぞ」
そうだ。昨日、紬のことがなければ、増田は朝倉とアンデッドの捕獲に向うはずだった。
「きゃあああ」
と、校舎の外から悲鳴が聞こえた。誰かがアンデッドに出くわしてしまったらしい。
「この近くかよ」
「マジか。野良は危険だぞ。凶暴化していることが多いんだ」
驚いて廊下に出る俺を追い掛けながら、大狼は注意しろと警告してくる。
「凶暴化」
「ああ。アンデッドってのは、そもそも凶暴なものだからな」
「マジで」
(そういう情報、もう少し早く言って欲しかったぜ)
昨日、紬を探しに出た時に出会わなくてよかった。あと、友葉をからかって悪かったなと思う。
と、そっと外を覗いてみると
「なんでこっちに来るのよ~!?」
「げっ、胡桃!」
なんと、胡桃がアンデッドに追い掛けられていた。アンデッドはマントに帽子と、この間大狼が連れてきたのと同じ格好をしているが、体格からして男であるらしい。
「こっちだ」
と、そこに話題の朝倉が箒で駆けつけ、胡桃の白衣を掴んで引っ張り上げる。が、アンデッドはさらに追い掛け、胡桃の白衣を掴んで一緒に箒に乗ろうとする。
「いやあああ。なんで付いてくるの!? ってか臭っ!!」
胡桃は自分の白衣を掴むアンデッドにパニックだ。
「くっ」
そして、二人分の重さが掛かって、朝倉がバランスを崩しそうになる。箒が不安定にふるふると震え始めた。
「拙いぞ」
「行くしかないな」
俺たちはそれを見て、避難している場合じゃないと校舎から飛び出す。
「先生」
「アンデッドを引き剥がしてくれ! 攻撃はこちらから防ぐ!!」
朝倉は根性で箒の制御をすると、俺たちに助勢してくれと頼んだ。
「了解」
「腕と足を折るんだ」
頷く俺と、アンデッドに容赦ない大狼の指示が飛ぶ。
昨日は紬と増田を宥めるので終わってしまったが、この疑問が解決していないぞと俺は気づく。
昼休み。これからまた惚れ薬開発の時間となるのだが、そもそもなぜ増田は朝倉のストーカーなんてやっているのだろうか。
「調べろよ」
そんな俺の疑問につっけんどんに言ってくれるのは、よく解らない展開になっているのに、まだ付き合わされている大狼だ。
「調べて出てくるのか?」
俺が訊くと
「国家魔法師の資格を持っているんだったら、魔法省に色々と登録されているはずだろ。アクセス申請すれば、すぐに朝倉先生の情報を教えてくれるはずだ」
大狼が大元に問い合わせろよと冷たい。
「面倒だよ。ってか、わざわざ魔法省にそんなこと問い合わせたくねえし」
俺は勘弁と、この話題を打ち切った。
ちなみに何かと出てくる魔法省は、そのまんま、魔法に関することを一手に引き受けている省庁だ。隕石衝突の混乱後にすぐに設置され、国家魔法師の認定から危険魔法動物の特定まで、なんでもやらされている省である。そして、この魔法学院も魔法省の管轄となっている。
「ふっ。仕方がない。私が教えてやろう」
と、そこに昼飯を購買に買いに行っていた佳希が、偉そうにふんぞり返ってくれる。おかげで大きな胸が強調されまくっていた。
「調べたのか?」
俺は突き出された胸をこっそり目で堪能しながら、魔法省に問い合わせたのかと訊く。
「そんな面倒なことをしなくても、増田先生に聞けばいいだけだ。私は朝倉先生を尊敬する同志。そのことを伝えたら、色々と教えてくれた」
「あっそ」
なんという恐ろしい共通の話題なんだ。俺は呆れつつも、それで問題の発端となっている朝倉への拗らせはどうなっているのかと訊ねる。
「ああ。これを見てくれ」
佳希はそう言うと、白衣のポケットからコピー用紙を取り出した。広げられたそこには、二十年前の新聞が印刷されている。
「なになに。『天才少年現る! 十五才で国家魔法師に特別認定された朝倉小太郎』って、ええっ!?」
俺はその新聞記事を読んで、思い切り仰け反ってしまう。
「そう。ビックリだろ。魔法学院に飛び級という制度があることも初めて知ったが、朝倉先生の魔法能力は飛び抜けているらしいんだ。この翌年には国家間の魔法対抗試合に出て、当時世界一位の称号を手に入れている」
「くう。あのオッサン、どこまで天才なんだよ」
俺は、あのボサボサ頭のオッサンにこれだけ秘められた能力があるのが信じられんと、がしがしと頭を掻き毟る。
「増田が憧れる理由は解った。でも、今は魔法薬学の権威なんだよな。その間に何があったんだ?」
大狼は俺からコピー用紙を奪い取ると、朝倉の人生に一体何がと真剣な目だ。
「確かに、今は国家魔法師の記章を白衣のポケットに入れちまう、適当なオッサンだぜ」
なんで朝倉関係でこんなに謎が出てくるんだよと、俺はやれやれと溜め息を吐く。しかし、身近にとんでもない人物がいたことが発覚したわけだ。そりゃあ、今をときめく増田も、二十年前だから子どもながらに衝撃を受けたはずで、思わず追い掛けてしまうことだろう。
「何なんだろうな」
「もう、天才同士で勝手にやっていてくれって思うな」
俺と大狼の意見が珍しく一致した時
『緊急警報! 魔法師指揮下にないアンデッドを確認!! 学生の皆さんは、至急校舎内に避難してください』
と頭の中に思念伝達が鳴り響く。
「魔法師指揮下にないアンデッドって」
「野良アンデッドか。昨日の騒動ですっかり忘れていたけど、増田がグラウンドの近くで見たって言ってたぞ」
そうだ。昨日、紬のことがなければ、増田は朝倉とアンデッドの捕獲に向うはずだった。
「きゃあああ」
と、校舎の外から悲鳴が聞こえた。誰かがアンデッドに出くわしてしまったらしい。
「この近くかよ」
「マジか。野良は危険だぞ。凶暴化していることが多いんだ」
驚いて廊下に出る俺を追い掛けながら、大狼は注意しろと警告してくる。
「凶暴化」
「ああ。アンデッドってのは、そもそも凶暴なものだからな」
「マジで」
(そういう情報、もう少し早く言って欲しかったぜ)
昨日、紬を探しに出た時に出会わなくてよかった。あと、友葉をからかって悪かったなと思う。
と、そっと外を覗いてみると
「なんでこっちに来るのよ~!?」
「げっ、胡桃!」
なんと、胡桃がアンデッドに追い掛けられていた。アンデッドはマントに帽子と、この間大狼が連れてきたのと同じ格好をしているが、体格からして男であるらしい。
「こっちだ」
と、そこに話題の朝倉が箒で駆けつけ、胡桃の白衣を掴んで引っ張り上げる。が、アンデッドはさらに追い掛け、胡桃の白衣を掴んで一緒に箒に乗ろうとする。
「いやあああ。なんで付いてくるの!? ってか臭っ!!」
胡桃は自分の白衣を掴むアンデッドにパニックだ。
「くっ」
そして、二人分の重さが掛かって、朝倉がバランスを崩しそうになる。箒が不安定にふるふると震え始めた。
「拙いぞ」
「行くしかないな」
俺たちはそれを見て、避難している場合じゃないと校舎から飛び出す。
「先生」
「アンデッドを引き剥がしてくれ! 攻撃はこちらから防ぐ!!」
朝倉は根性で箒の制御をすると、俺たちに助勢してくれと頼んだ。
「了解」
「腕と足を折るんだ」
頷く俺と、アンデッドに容赦ない大狼の指示が飛ぶ。
97
お気に入りに追加
1,332
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*
音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。
塩対応より下があるなんて……。
この婚約は間違っている?
*2021年7月完結

【完結】愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を
川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」
とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。
これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。
だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。
これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。
第22回書き出し祭り参加作品
2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます
2025.2.14 後日談を投稿しました

愛する義兄に憎まれています
ミカン♬
恋愛
自分と婚約予定の義兄が子爵令嬢の恋人を両親に紹介すると聞いたフィーナは、悲しくて辛くて、やがて心は闇に染まっていった。
義兄はフィーナと結婚して侯爵家を継ぐはずだった、なのにフィーナも両親も裏切って真実の愛を貫くと言う。
許せない!そんなフィーナがとった行動は愛する義兄に憎まれるものだった。
2023/12/27 ミモザと義兄の閑話を投稿しました。
ふわっと設定でサクっと終わります。
他サイトにも投稿。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

殿下が私を愛していないことは知っていますから。
木山楽斗
恋愛
エリーフェ→エリーファ・アーカンス公爵令嬢は、王国の第一王子であるナーゼル・フォルヴァインに妻として迎え入れられた。
しかし、結婚してからというもの彼女は王城の一室に軟禁されていた。
夫であるナーゼル殿下は、私のことを愛していない。
危険な存在である竜を宿した私のことを彼は軟禁しており、会いに来ることもなかった。
「……いつも会いに来られなくてすまないな」
そのためそんな彼が初めて部屋を訪ねてきた時の発言に耳を疑うことになった。
彼はまるで私に会いに来るつもりがあったようなことを言ってきたからだ。
「いいえ、殿下が私を愛していないことは知っていますから」
そんなナーゼル様に対して私は思わず嫌味のような言葉を返してしまった。
すると彼は、何故か悲しそうな表情をしてくる。
その反応によって、私は益々訳がわからなくなっていた。彼は確かに私を軟禁して会いに来なかった。それなのにどうしてそんな反応をするのだろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる