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1.私たちそんな関係じゃありませんけど
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何故こんなことになってしまったのだろう。確かに最近私はツイていなかった。電車で定期券は落とすし、母の御用達の乳酸菌飲料を強奪すると相性が最悪だったのか下痢で苦しんだ。
私は渡辺風香、二十四歳の会社員だ。建築資材を現場に下ろす事務の仕事をしている。最近は都市開発の波で仕事は大忙しだ。その反面プライベートの充実はない、もちろん、男性関係の方だが。ところがなぜかそんな私が男と同棲することになった……目の前の頭にお花が咲いた中年女性たちによって。
「よかったわー、初めての一人暮らしでしょ? ふうちゃんがいてくれて助かるわ。大事な一人娘をいいの? 早苗……」
「こちらも大助かり! あの子がいると高級お取り寄せが消えていくのよ、困っちゃって……良子こそごめんね」
だからといって一人娘を家から滅殺するだなんて恐ろしい母親だ。大体なぜ当事者を差し置いて話が進むのだろうか……。
「いやいや、あのー……職場も遠くなるし、費用だって掛かるし、なによりも私嫁入り前なんだけど、幼馴染とはいえ男と女だけど?」
風香の言葉に二人の母親は顔を見合わせると一瞬間が空き破顔した。手を叩き可笑しそうに笑う。風香は嫌な予感がした。
「やだ、大丈夫よぉ、二人がどうにかなるわけないわ。ねぇ良子」
「やだ、本当ね。あなた達立派な腐れ縁だもの。何かあるかなんて……ねぇ?」
高笑いをする母親達を睨んでいると同棲予定相手の腐れ縁、高畑貴弘が我が家へと乗り込んで来た。不機嫌そうにリビングへとやってくると母親の良子に凄む。
「お邪魔します、ちょーっと、いいか? 母さん……なんか変な冗談を小耳に挟んだんだが……」
「……冗談じゃない、本気らしいわよ」
風香が腕を組み壁にもたれ掛かっている。その姿を見て貴弘は盛大に溜息をついた、いや、溜息しか出て来ない。
貴弘は仕事の都合で一人暮らしをすることになった。それなのに蓋を開けてみれば二人暮らしをする事になっていた。母親や弟が泊まりに来るときのために大きめの部屋にするように言われていたがまさかこんな事になろうとは思わなかった。
「あんたたち、諦めて住みなさいよ。家賃折半で」
「いや、嫁入り前の娘だよ? おかしくない?」
「絶対無理だ、風香とは住めないって母さん」
腕を組んだまま仁王立ちする私たちに母親達は顔を近づけ何か耳打ちをし合った。いつも思うがこの母親たちはとんでもなく太い絆で結ばれている。ただ、分譲マンションの隣の部屋同士になっただけだが、それからの縁が続いている。
「そうねぇ、同棲してくれたら半分、家賃を出すわ」
「「え? 半分?」」
思わず風香と貴弘の声が重なった。衝撃だ、そこまで出て行って欲しかったのかとショックでもある。家賃の半分を出すだなんてドケチ道まっしぐらな母親らしくない。貴弘はそれでも渋る。
「いやー、でもなぁ風香と一緒に住んだら家事大変そうだしな、俺が整理整頓、掃除もするんだろ?」
「は? 何それ、馬鹿にしないでよ自分のことぐらい自分で出来るし。あんたの手を煩わせないわよ」
風香は腰に手を当てて貴弘に詰め寄り睨み付ける。貴弘も負けじと腕を組み応戦態勢だ。
「なんだ? 俺の方が家事が出来るに決まってんだろ? 風香は親子丼作れんのか?」
「当たり前でしょ。いいわよ、じゃあ作ってやるわよ。貴弘はカツ丼作れるのね、もちろん」
風香が貴弘の顔の前に指を突きつけると、その手を払い除けて風香の頭を大きな手で掴んで突き放す。風香の肩まである黒髪が揺れた。風香は慣れているのか動じる素振りはない。
「ふ……当たり前だ、問題ない」
「じゃあ晩ご飯に作ってもらうからね!」
「あぁ上等だ! 朝飯でもいいぞ!」
「望むところよ! 胃薬買っておくからね」
二人が顔を合わせていがみ合っているのを二人の母親は満面の笑みで静観している。顔を見合わせると背後で静かにハイタッチした。どうやら母親たちのミッションはクリアしたようだ。
私は渡辺風香、二十四歳の会社員だ。建築資材を現場に下ろす事務の仕事をしている。最近は都市開発の波で仕事は大忙しだ。その反面プライベートの充実はない、もちろん、男性関係の方だが。ところがなぜかそんな私が男と同棲することになった……目の前の頭にお花が咲いた中年女性たちによって。
「よかったわー、初めての一人暮らしでしょ? ふうちゃんがいてくれて助かるわ。大事な一人娘をいいの? 早苗……」
「こちらも大助かり! あの子がいると高級お取り寄せが消えていくのよ、困っちゃって……良子こそごめんね」
だからといって一人娘を家から滅殺するだなんて恐ろしい母親だ。大体なぜ当事者を差し置いて話が進むのだろうか……。
「いやいや、あのー……職場も遠くなるし、費用だって掛かるし、なによりも私嫁入り前なんだけど、幼馴染とはいえ男と女だけど?」
風香の言葉に二人の母親は顔を見合わせると一瞬間が空き破顔した。手を叩き可笑しそうに笑う。風香は嫌な予感がした。
「やだ、大丈夫よぉ、二人がどうにかなるわけないわ。ねぇ良子」
「やだ、本当ね。あなた達立派な腐れ縁だもの。何かあるかなんて……ねぇ?」
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「あんたたち、諦めて住みなさいよ。家賃折半で」
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思わず風香と貴弘の声が重なった。衝撃だ、そこまで出て行って欲しかったのかとショックでもある。家賃の半分を出すだなんてドケチ道まっしぐらな母親らしくない。貴弘はそれでも渋る。
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二人が顔を合わせていがみ合っているのを二人の母親は満面の笑みで静観している。顔を見合わせると背後で静かにハイタッチした。どうやら母親たちのミッションはクリアしたようだ。
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