KNOCK

菅井群青

文字の大きさ
上 下
36 / 36
番外編

木下のつぶやき

しおりを挟む
 
 そもそも、ドックに収容されて乾電池になっている俺がどうしてエアーフリートを操作できるんだろう。
 これがギア・フィーネ、ギア3から使える『ハッキング』。
 ギア4になっていることで、精度と効果範囲が広がっている。
 俺如きの知識でもここまでのことが容易くできるのだから、ギア4の恐ろしさと危険性は相当だ。
 万能感とはこういうことを言うんだろう。

「ぐっ」

 でも、あまりもたない——!
 鼻と目と耳から、血が止まらなくなってきた。
 毛細血管がぶちぶちいっているのがわかる。
 神経が敏感になり続けて、熱い。
 これ以上続ければ、本当に人間辞めそう。

『あれぇ? もう人間辞めちゃうの? 早くない?』
「! デュレオ……?」
『レナの歌をもっとよく聴きなよ。それとも俺の歌の方がいい? どっちでもいいから、歌い手の歌をよく聴きな。確かに歌い手はブースターではあるけど、それだけじゃない。ちゃんと聴くことができれば、脳波の同調を整える力もある』
「……!」
『ちゃんと深呼吸して、口で。肺に酸素入れて、心臓で血を全身に行き渡らせて——感じて。歌を』

 その波動を。

「っ!」

 海? いや、大地、地平線?
 青い、青い空……夕焼け?
 違う、朝焼け……青い、群青の空に、なんだ?
 時間がすごい速度で進んでる?
 俺は今どうなってるんだ!?

『驚いた。こんなに早く“ここ”に辿り着くなんてな』
『兄さんはずいぶんあなたを気に入ったんですね』
「!?」

 ハッとした。
 目の前には真っ白な空間。
 ど、どこだここ!?
 あたりを見回すと、一人の男が近づいてきた。
 群青色の髪と不適な笑みを浮かべた金の目の男。
 こいつ、知ってる。俺。
 いや、初対面といえば初対面なんだが、全身がゾワゾワと泡立つ。
 でも、もう一人女の子みたいな声がしなかったか?
 男以外を見ようにも、白光りしていて明確に姿を確認できたのはこの男だけ。

「こ、ここは、なんだ!? 俺はエアーフリートの中のイノセント・ゼロの中にいたはずなのに!」
『イノセント・ゼロ。やっぱりまた四号機か。あれだけなーんでおかしいんだろうなぁ? 設計スタンスは五機とも同じなんだけど』
『育った環境ではありませんか? 四号機はよい登録者に恵まれ、すぐに“歌い手”を得ましたから』
『そういうものか。だが、存外お前の考えた“歌い手”システムは上手くいっている。導入は正解だったな』
「……なんの、話をしている!? お前は誰だ!」

 先ほどの万能感を一瞬で取り上げられたのだ、警戒もする。
 それに、多分これ肉体ではない。
 これは、なんだ?
 精神体?
 本当にどこだよ、ここ!
 いくら俺が美人に弱いからって、今回ばかりは揺るがされたりしないぞ。

『そうそう、普通そういう質問をするんだよ! ここにこられるのは各機各登録者一回きりなんだからさ! それなのに二号機と五号機の登録者としたら、今忙しい、ってさっさと帰っていくんだから』
「っ」

 茶化されている?
 二号機と五号機って、シズフさんとラウト?
 今忙しいって帰っていくって、容易に想像がつくなぁ。

『ここはブレス・トワ・アース。現代を生きるあなたたちが、結晶大陸クリステル・アースと呼ぶ世界の中心部』
『そして俺様こそがギア・フィーネの創造主にしてブレス・トワ・アースで世界を“運営”する代理神の一人! 王苑寺ギアン様だ! 崇め奉れよ!』
「……」

 ああ……ああ……!
 なんかそんな気はしていたけど、やっぱりこの男が王苑寺ギアン!
 それにしても、どうしてこんなに吐き気が止まらないんだ。
 この男が、気持ち悪くて仕方ない!
 デュレオが人を殺したのを見た時以上の拒絶感。
 思わず口を押さえてしまう。

「どうして俺をここに……」
『どうして! それは違う! ギア・フィーネはギア4に上がった時点で登録者をココへ招くようプログラムしてあるんだ。登録者はわけもわからず選ばれて、世界の都合で戦わせられるだろう? でもそれは仕方ない! 愚かな為政者どもが、ギア・フィーネの真の価値を理解しないまま戦わせるのだから!』
「そんなことを聞いてるんじゃない! ここはいったいなんなんだ!? なんで俺はここに連れてこられてるんだよ!」
『ハハ! 頭の悪いガキだな。ここは、最初で最後の俺への謁見の場! 聞きたいことになんでも答えてやろう。たとえばどうしてギア・フィーネを作ったのか、とかな! みんな知りたいだろう?』

 テンション高っけ。
 それに、なぜか異様な嫌悪感を抱く。
 一刻もここから立ち去りたい。
 もしかして、シズフさんとラウトもこんな気持ちだったのかな。
 でも、それなら誰よりも早くここにきたであろう、三号機の登録者——ザード・コアブロシアと、さっきから名前の出ない四号機の登録者、アベルトさんはなにかを質問したのか?
 っていうか、なんだよ、ブレス・トワ・アースとか、惑星の中心部とか。

「聞きたいことは、山のようにある、けど……質問制限とかあるの?」
『ないぜ』
『でも、あなたの体はあまりギア4に耐えられていません。一つだけにした方がいいと思います。もしくは、このままなにも聞かずに戻るのを推奨します』
「っ」
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

初恋の呪縛

泉南佳那
恋愛
久保朱利(くぼ あかり)27歳 アパレルメーカーのプランナー × 都築 匡(つづき きょう)27歳 デザイナー ふたりは同じ専門学校の出身。 現在も同じアパレルメーカーで働いている。 朱利と都築は男女を超えた親友同士。 回りだけでなく、本人たちもそう思っていた。 いや、思いこもうとしていた。 互いに本心を隠して。

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——?

冷たい彼と熱い私のルーティーン

希花 紀歩
恋愛
✨2021 集英社文庫 ナツイチ小説大賞 恋愛短編部門 最終候補選出作品✨ 冷たくて苦手なあの人と、毎日手を繋ぐことに・・・!? ツンデレなオフィスラブ💕 🌸春野 颯晴(はるの そうせい) 27歳 管理部IT課 冷たい男 ❄️柊 羽雪 (ひいらぎ はゆき) 26歳 営業企画部広報課 熱い女

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

【完結】巻き戻りを望みましたが、それでもあなたは遠い人

白雨 音
恋愛
14歳のリリアーヌは、淡い恋をしていた。相手は家同士付き合いのある、幼馴染みのレーニエ。 だが、その年、彼はリリアーヌを庇い酷い傷を負ってしまった。その所為で、二人の運命は狂い始める。 罪悪感に苛まれるリリアーヌは、時が戻れば良いと切に願うのだった。 そして、それは現実になったのだが…短編、全6話。 切ないですが、最後はハッピーエンドです☆《完結しました》

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

処理中です...