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30.動く未来
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ノックの音の後に彼の声が聞こえる。こうして聞くと今の彼とは少し違う。やや渋みを増した声に昨晩のことを思い出し胸がときめく。昨晩はノックが出来ず牧田に会えずじまいだった。結衣は時空の狭間に挟まれるとヒヤヒヤし落ち着かない一日を過ごした。どうやらちゃんと繋がったままらしい……助かった。
「こんばんは」
「こんばんは、先輩、スーツじゃないんですね」
牧田が結衣の服装に気づいたようだ。マネージャーからデザイナーになった事をまだ伝えていなかった。
「牧田くん、私デザイナーになりました」
「ああ、そうですか……おめでとうございます。長年の夢でしたからね」
一瞬だけど顔色が曇った気がしたが、すぐに優しい笑顔になる。今日の牧田はまた車のTシャツを着ている。背中に書かれた英語を見て結衣は笑う。こんなものをどこで仕入れてくるのやら……。
「相変わらずいい趣味ですね」
牧田は満足そうに微笑むだけで何も言わなかった。牧田との関係を言ってもいいのだろうか、未来なのだから問題ないだろうが、本人に言うのになぜか第三者に告白するようで緊張してくる。
「牧田くん、牧田くんと私──付き合うことになったの」
牧田はじっと結衣を見つめたまま何も言わない。結衣は不安になり、更に言葉を紡ぐ。
「五年後、私達はどうなっているかなんて分からない、分からないけど伝えておきたいと思って……」
「いつ──いつですか?」
牧田の声は低い。その声に五年後は結衣が望んでいる関係ではないのかもしれない。胸が絞られるような痛みがする。頭も少しガンガンしてきた。言わなければ良かったと後悔していた。
「……昨日」
牧田がガラスに両手をつけて結衣の顔を覗く。言葉とは裏腹に牧田の瞳は揺れていて優しい。
「ごめんなさい、私達結ばれたらダメだったの? あなたの事を好きになっちゃ……ダメだったの?」
牧田は大きく目を開き涙を流している。無表情のまま泣く人間を初めて見た……。
悲しみや苦しさの深さを感じてそれ以上何も言えない。突然牧田が二人を隔てるガラスを叩き始める。
「ッ──ダメだ! ダメなんだ! 頼むから◇@&〓∞◉×✳︎☆!~\$!!」
牧田の言葉は神さまによって消される。悔しそうに牧田の顔が歪むがそのまま訴え続ける。
「この、クソ神が……◇@&〓∞◉×✳︎☆!~\$……◇@&〓∞◉×✳︎☆!~\$!」
結衣は何が起こっているのか分からず茫然としていると牧田が結衣の顔に向かって手を差しのべる。
「結衣……結衣、結衣……どうすれば、俺は! ◇@&〓∞◉×✳︎☆!~\$」
もう言葉の大半がかき消されている。突然二人の間のガラスにヒビが入る。牧田が殴ったからかもしれない。だが、目の前の牧田は焦ったように割れた部分に手を当てる。
「まだダメだ、まだ伝えなきゃいけない事があるんだ! 待ってくれ!」
牧田の言葉にこのドアの終わりを迎えつつあることを知る。
「牧田くん、愛してるわ……五年後がどうなろうと関係ない。今の私はあなたを愛してるからこの気持ちを忘れないで」
結衣の言葉に牧田は嗚咽を飲み込み涙を流す。結衣もガラスの向こうの牧田に手を伸ばす。二人の手が合わさる部分がひどくひび割れ始めた。
「結衣……今までの俺を思い出して、いいね? 俺を思い出すんだ──」
言葉の途中で目の前のガラスが砕け落ち、牧田の部屋は粉々に砕け散った。
目の前に見えるのはいつもの台所だった。砕けたはずのガラスはどこかへと消え、夢のように散ってしまった。
結衣は未来が怖くなった。五年後の牧田は苦しんでいた。結衣を愛おしそうにそれでいて辛そうに見つめる瞳が忘れられない。
結衣はベッドに入ると毛布にくるまった。昨日の牧田の温もりを思い出し、そしてさっきの牧田の掌の温もりを感じながら眠りについた。
「こんばんは」
「こんばんは、先輩、スーツじゃないんですね」
牧田が結衣の服装に気づいたようだ。マネージャーからデザイナーになった事をまだ伝えていなかった。
「牧田くん、私デザイナーになりました」
「ああ、そうですか……おめでとうございます。長年の夢でしたからね」
一瞬だけど顔色が曇った気がしたが、すぐに優しい笑顔になる。今日の牧田はまた車のTシャツを着ている。背中に書かれた英語を見て結衣は笑う。こんなものをどこで仕入れてくるのやら……。
「相変わらずいい趣味ですね」
牧田は満足そうに微笑むだけで何も言わなかった。牧田との関係を言ってもいいのだろうか、未来なのだから問題ないだろうが、本人に言うのになぜか第三者に告白するようで緊張してくる。
「牧田くん、牧田くんと私──付き合うことになったの」
牧田はじっと結衣を見つめたまま何も言わない。結衣は不安になり、更に言葉を紡ぐ。
「五年後、私達はどうなっているかなんて分からない、分からないけど伝えておきたいと思って……」
「いつ──いつですか?」
牧田の声は低い。その声に五年後は結衣が望んでいる関係ではないのかもしれない。胸が絞られるような痛みがする。頭も少しガンガンしてきた。言わなければ良かったと後悔していた。
「……昨日」
牧田がガラスに両手をつけて結衣の顔を覗く。言葉とは裏腹に牧田の瞳は揺れていて優しい。
「ごめんなさい、私達結ばれたらダメだったの? あなたの事を好きになっちゃ……ダメだったの?」
牧田は大きく目を開き涙を流している。無表情のまま泣く人間を初めて見た……。
悲しみや苦しさの深さを感じてそれ以上何も言えない。突然牧田が二人を隔てるガラスを叩き始める。
「ッ──ダメだ! ダメなんだ! 頼むから◇@&〓∞◉×✳︎☆!~\$!!」
牧田の言葉は神さまによって消される。悔しそうに牧田の顔が歪むがそのまま訴え続ける。
「この、クソ神が……◇@&〓∞◉×✳︎☆!~\$……◇@&〓∞◉×✳︎☆!~\$!」
結衣は何が起こっているのか分からず茫然としていると牧田が結衣の顔に向かって手を差しのべる。
「結衣……結衣、結衣……どうすれば、俺は! ◇@&〓∞◉×✳︎☆!~\$」
もう言葉の大半がかき消されている。突然二人の間のガラスにヒビが入る。牧田が殴ったからかもしれない。だが、目の前の牧田は焦ったように割れた部分に手を当てる。
「まだダメだ、まだ伝えなきゃいけない事があるんだ! 待ってくれ!」
牧田の言葉にこのドアの終わりを迎えつつあることを知る。
「牧田くん、愛してるわ……五年後がどうなろうと関係ない。今の私はあなたを愛してるからこの気持ちを忘れないで」
結衣の言葉に牧田は嗚咽を飲み込み涙を流す。結衣もガラスの向こうの牧田に手を伸ばす。二人の手が合わさる部分がひどくひび割れ始めた。
「結衣……今までの俺を思い出して、いいね? 俺を思い出すんだ──」
言葉の途中で目の前のガラスが砕け落ち、牧田の部屋は粉々に砕け散った。
目の前に見えるのはいつもの台所だった。砕けたはずのガラスはどこかへと消え、夢のように散ってしまった。
結衣は未来が怖くなった。五年後の牧田は苦しんでいた。結衣を愛おしそうにそれでいて辛そうに見つめる瞳が忘れられない。
結衣はベッドに入ると毛布にくるまった。昨日の牧田の温もりを思い出し、そしてさっきの牧田の掌の温もりを感じながら眠りについた。
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