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3.ドア
しおりを挟むサファ王子がシズを見上げる。少し悩んで正直に言った。
「ありますよ。誰も信じてくれなさそうな大きな秘密が」
「それはお前だけの秘密か? 」
「いや、私の育ての親は知っています。あと二人ぐらい」
ジャモン。それとカーネスとドッペルゲンガー。
「なぜそのことを秘密にしている?」
「誰も信じてくれなさそうだからですよ。下手すりゃ頭のおかしい人だと思われる」
「それを私に教えてくれないか? 」
サファ王子の瞳は切に願っていた。秘密が欲しい。子どもじみた悩みだ。けれどこの子は切実だ。秘密があれば、この子は少し今の不自由に耐えられるのだろうか。シズは考える。
「本当にふざけた内容ですよ。王子は馬鹿にされているってきっと思う」
「思わん」
サファ王子は言い切った。
「私を信用できないのか? 私は子どもだから信用できないか? 」
この子は誰でもいいから信じて貰いたいのか。信じてもらえないことにふてて逃げているのか。
「……じゃあ信用します。誰にも言わないでくださいね」
からかうなと怒られることを予想して、シズは言った。
「私、この世界の人間ではないんですよ」
サファ王子の顔は見ないまま話を続けた。
「こことは違う世界で生まれ育ったんです。そしてある日理由も分からずこの世界に連れて来られました。それで、元の世界に戻るために今色々調べています」
サファ王子は黙ったままだった。怒ったと思って、シズは王子の横顔を見る。怒っているよう様子はなかった。
「ほら、ふざけてるでしょう? 」
「でも、本当なのだろう」
シズはぎょっとした。いくら子どもでも信じるとは思わなかった。
「信じるんですか? 」
サファ王子は頷いた。
「王子、もう少し人を疑うことを覚えた方がいいですよ。こんな所に私を連れて来たりとか。私が悪い奴だったら王子攫われちゃいますよ」
「城には嘘つきが多い。本当のことを言っている者の見極めぐらいはできる」
サファ王子はしっかりとシズを見つめ返した。反発していても少しずつ環境を受け入れようとしている。
「どうやってこの世界に連れて来られたんだ? 」
「私とそっくりな奴にキスされて気絶していたらいつの間に」
サファ王子は顔を真っ赤にした。
「嫁入り前なのに接吻をしたのかっ! 」
「接吻っ! 」
そんな言葉が子どもから出るのはおかしく,シズは我慢できずにゲラゲラ笑った。サファ王子は怒った。
「お前、笑い事ではないぞ! 心を通わせてもいない者同士が口づけを交わすとは、」
「いや、もう、いいです。ありがとうございます。それより私が女だって分かってたんですね。よく間違われるんですけど」
「ガサツそうに見えるが女だってことぐらい分かった」
意外と子どもの方が人の本質を見抜くのかもしれないとシズは思った。男とか女とか。善とか悪とか。
「それで、話の続きは? 」
「ああ。それで私をこっちに連れてきた犯人は私のそっくりさんの他にもう一人いましてね。そのもう一人を捜すために城人になる勉強をしているんです」
「そうか……」
サファ王子はどこか嬉しそうだった。
「そうか。心配するな、秘密は守るぞ。私は王子だ」
そう屈託なく笑った。素直な可愛い子だとシズは笑みを零す。
「お前だけに秘密を言わせるのはよくないな。それこそずるい。よし、私もお前に秘密をあげよう」
秘密の交換がしたいサファ王子が胸を張った。
「ぜひ」
「この国の者の誰にも言ったことがない秘密の話だ。絶対に秘密だからな」
「分かってますって」
子どもの話だけれど、シズは少しワクワクした。サファ王子は周りを見渡し誰もいないことを確かめると私に顔を寄せた。
「私が七歳の時のパーティーでこの秘密を教えて貰った」
「王子は今おいくつで?」
「九歳だ」
二年前の話。
「その時、インデッセの王が来国していた」
インデッセの王。シズは嫌な記憶が蘇り頬を引きつる。
「インデッセの王の叔母も来られていて私に秘密のおとぎ話をしてくださった」
「秘密のおとぎ話?」
「リチという姫と銀の妖精の話だ。滞在中、何度もしてくれた」
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