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1.Design.mochi
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東京から最も近い別荘地の一角に一際目立つ建物がある。ビルの隙間から木が出ているのか木の中にビルがあるのか分からないほど自然とマッチした建物だ。
大きな栗の木やモチノキの黄緑がかった葉の色と打ちっ放しのコンクリートが優しい雰囲気を出している。その建物の所有者は《Design.mochi》という家具のデザイン会社だ。雑誌の特集を組まれるほど人気があり、家具職人なら知らない者はいない。抱えるアーティストは少なく、狭き門と言われる家具デザイナーの登竜門だ。
私は斉藤結衣その有名会社のマネージャーをしている。三十歳、独身だ。年相応に男と付き合っていたが数年前から面倒になり仕事中心の毎日を送っている。
黒髪のボブで色々な職種の方とお会いするので大抵真面目なグレーのスーツを着ている。
マネージャーと言っても聞こえはいいが、この会社の役割としてはいわゆる雑用処理係だ。
会社の要のデザイナー現在十五名、忙しい部署のサブとして動くスタッフ、そして営業と称してメディアの取材のアポや工場のスケジュールの管理から多くの雑用をこなすマネージャーの三つに分かれる。
多くの会社に見られる社長などの役職はない。元々は家具デザイナーの友人四人が意気投合して設立した会社だ。四人のうち二人は独立してしまったが全員未だ日本の家具デザインのトップを走り続けている。
デザイン部は大きく分けて三つ。
近代的なデザインのスタイリッシュ部。素材がプラスチックや金属系の素材を使いデザインされたものを作る。フランスなどのヨーロッパからの仕事が多い部だ。ステンレスやスチール製を用いるデザイナーが集まる。
とにかく流行を追い売れる商品を生み出すプロダクト部。大型量販店や海外進出してきたチェーン店など企業とコラボしていく。素材よりも大量生産しやすくすることを重きに置いている。もっともメディア露出が多い花形の部だ。
そして、結衣が所属しているアンティーク部。その名の通り木製で作られた家具を作り出す。オーダーメイドがほとんどで、時折古民具のリメイク依頼があればすることもある部だ。最近のモダン系のデザインの流行もあり注目され始めている。
「斉藤、この間のサンプルどうなった?」
「斉藤さん、ここの修正部分──」
「あ、斉藤、悪りぃけどコーヒー入れて」
「斉藤先輩この担当者の──」
「はい、とりあえず皆さんお待ちください」
今日も結衣が担当している《Design.mochi》のアンティーク部は斉藤コールの嵐だ。大学を卒業し、《Design.mochi》に就職して十年になる。慣れたもので一斉にお願いごとをされても聖徳太子のように聞き、優先順位を決めて仕事を行えるようになった。
アンティーク部のデザイナーは四人いる。チーフの武田森を筆頭に、年齢順に坂上まり、同期の木下謙之介、そして唯一の後輩の牧田康太だ。
武田森は設立当時のデザイナーの四人の一人で、木製の椅子を一から削って作り上げるのが生きがいというほど椅子作りのプロだ。四十二歳の子煩悩で子供が三人いる。
坂上まりは数年前にやって来たデザイナーで木目を使ったデザインに定評がある。結衣の二歳上で未婚だが結婚そのものに疑問を持った現実主義者だ。普段はスーツの黒縁眼鏡でスタイルの良さを隠している。
同期の木下謙之介は木の家具というより木を使ったアートをメインに行なっている。美術館で個展を行うなど精力的にアーティストとして活動している。最近は新築の家具などに力を入れている。基本的にフットワークが軽い。
後輩の牧田康太は大学院を卒業して就職した二十六歳、デザイン力を武田に買われて就職した。木製とは思えない繊細なものから癖を取り入れたより自然なままのデザインを作る。
そして、私斉藤結衣は今は至って平凡な雑用係だ。特別なものなど何もない──。
大きな栗の木やモチノキの黄緑がかった葉の色と打ちっ放しのコンクリートが優しい雰囲気を出している。その建物の所有者は《Design.mochi》という家具のデザイン会社だ。雑誌の特集を組まれるほど人気があり、家具職人なら知らない者はいない。抱えるアーティストは少なく、狭き門と言われる家具デザイナーの登竜門だ。
私は斉藤結衣その有名会社のマネージャーをしている。三十歳、独身だ。年相応に男と付き合っていたが数年前から面倒になり仕事中心の毎日を送っている。
黒髪のボブで色々な職種の方とお会いするので大抵真面目なグレーのスーツを着ている。
マネージャーと言っても聞こえはいいが、この会社の役割としてはいわゆる雑用処理係だ。
会社の要のデザイナー現在十五名、忙しい部署のサブとして動くスタッフ、そして営業と称してメディアの取材のアポや工場のスケジュールの管理から多くの雑用をこなすマネージャーの三つに分かれる。
多くの会社に見られる社長などの役職はない。元々は家具デザイナーの友人四人が意気投合して設立した会社だ。四人のうち二人は独立してしまったが全員未だ日本の家具デザインのトップを走り続けている。
デザイン部は大きく分けて三つ。
近代的なデザインのスタイリッシュ部。素材がプラスチックや金属系の素材を使いデザインされたものを作る。フランスなどのヨーロッパからの仕事が多い部だ。ステンレスやスチール製を用いるデザイナーが集まる。
とにかく流行を追い売れる商品を生み出すプロダクト部。大型量販店や海外進出してきたチェーン店など企業とコラボしていく。素材よりも大量生産しやすくすることを重きに置いている。もっともメディア露出が多い花形の部だ。
そして、結衣が所属しているアンティーク部。その名の通り木製で作られた家具を作り出す。オーダーメイドがほとんどで、時折古民具のリメイク依頼があればすることもある部だ。最近のモダン系のデザインの流行もあり注目され始めている。
「斉藤、この間のサンプルどうなった?」
「斉藤さん、ここの修正部分──」
「あ、斉藤、悪りぃけどコーヒー入れて」
「斉藤先輩この担当者の──」
「はい、とりあえず皆さんお待ちください」
今日も結衣が担当している《Design.mochi》のアンティーク部は斉藤コールの嵐だ。大学を卒業し、《Design.mochi》に就職して十年になる。慣れたもので一斉にお願いごとをされても聖徳太子のように聞き、優先順位を決めて仕事を行えるようになった。
アンティーク部のデザイナーは四人いる。チーフの武田森を筆頭に、年齢順に坂上まり、同期の木下謙之介、そして唯一の後輩の牧田康太だ。
武田森は設立当時のデザイナーの四人の一人で、木製の椅子を一から削って作り上げるのが生きがいというほど椅子作りのプロだ。四十二歳の子煩悩で子供が三人いる。
坂上まりは数年前にやって来たデザイナーで木目を使ったデザインに定評がある。結衣の二歳上で未婚だが結婚そのものに疑問を持った現実主義者だ。普段はスーツの黒縁眼鏡でスタイルの良さを隠している。
同期の木下謙之介は木の家具というより木を使ったアートをメインに行なっている。美術館で個展を行うなど精力的にアーティストとして活動している。最近は新築の家具などに力を入れている。基本的にフットワークが軽い。
後輩の牧田康太は大学院を卒業して就職した二十六歳、デザイン力を武田に買われて就職した。木製とは思えない繊細なものから癖を取り入れたより自然なままのデザインを作る。
そして、私斉藤結衣は今は至って平凡な雑用係だ。特別なものなど何もない──。
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