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第一章
70.死の恐怖
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拳人は座敷に戻ると小春の写真を眺めていた。二十年前、拳人の母親の小春は通り魔に殺害された。
拳人は当時五歳だったが亡くなった頃の記憶は曖昧で今でも思い出すことはできない。それほど受け入れがたいことだったのだと思う。
記憶の中の小春はいつも笑顔で拳人を抱きしめていた。犯人の手がかりがなく時効を迎えてしまったが、拳人はいつか母親の無念を晴らすと心に決めていた。色々なツテを使い当時近辺で捕まった強盗や窃盗などを洗ってみたが、今のところ犯人に繋がる情報はない。
毎年命日が近付くと小春へ思いを馳せる。今年も小春の盃に酒を注ぐ。笑顔の写真を見て拳人は目を細めた。
「俺がいつか犯人を見つけるから……償わせるよ……母さん」
盃を傾けると拳人は一気に飲み干す。拳人が座敷に残っていた男達に声をかけ、自分の部屋へと戻っていく。ネクタイを外していると小鉄が出先から戻り部屋へとやってきた。
「戻りました。若、ジェイの事件で進展があったようです」
「ジェイか……」
「ええ、少し変わった遺体だったようで──弔われたような跡があったそうです」
「……殺されたのにか?」
拳人が訝しげな表情になる。今まで色々な事件があるが遺体を綺麗にするなんて聞いたこともない。三発も胸に打ち込んだ後でするようなことじゃない。
「あと──ん!……はぁ……!!」
話の途中で突然小鉄が胸を押さえたまま倒れこむ。どうやら上手く呼吸ができないようで胸を掻き毟る。目は大きく見開き小鉄自身突然の事に驚いているようだ。以前も倒れて病院に運ばれたことを思い出す。
「小鉄! おい! しっかりしろ!」
拳人の声に驚いたヤスが部屋へと飛び込んでくる。拳人の胸の中で苦しむ小鉄の姿にヤスの目が大きく開かれる。
「小鉄!? なんで……」
小鉄は身体を跳ねるように痙攣したかと思うとそのまま意識を手放した。小鉄の肩を掴み激しく揺らすがぐったりとしたまま動かない。
「クソ、まずい……」
病院へ運ぼうとヤスが立ち上がると小鉄がその腕をつかむ。小鉄の目が大きく開かれ二人を見据える。
「──大変よ! 晶が刺されたわ! 血が出てるの、あの子を助けて!!」
「どういう事だ!?」
突然小鉄が意味の分からない事を言い出した。どうも冗談を言っているようには見えない。戸惑う拳人に対してヤスは凄い剣幕で小鉄の手を握り返している。
「佳奈! 晶は、晶はどこにいる!」
「こっちよ!」
そのまま小鉄を追い裏口に向かって走り出す。裸足のまま中庭を通り抜けて裏口へ向かった。
ドアを開けると壁にもたれかかったまま気を失っている舎弟の男とその側に小さな体が横たわっているのが見える。
「──晶!」
ヤスが晶の体を起こすと顔が真っ白で血の気を失っている。拳人が血に染まった晶のシャツをめくると側腹部に刺し傷が見える。出血で腹回りが真っ赤に染まっていた。
「おい! しっかりしろ!」
咄嗟に拳人は晶の腹部を押さえて止血する。
傷口を圧迫する手が晶の血で染まっていく……拳人は震えていた。真っ白な晶の横顔が一瞬母親の死に顔と重なった。
か、母さん──。
ドクンと心臓が跳ねたかと思うと拳人はもう一方の手で晶の手を強く握った。その手は酷く冷たかった。
「死ぬな、頼むから……死ぬな」
「くそ……車を回せ! 急げ!」
ヤスが運転席に乗り込むと病院へと車を飛ばす。後部座席で拳人が絶えず晶に声をかけ続けていた。
「大丈夫だ、助かる……大丈夫だ」
晶の手首の脈は指先では測れなくなった。よほど血圧が下がっているのだろう。傷口からの出血は酷くなかったはずだが、内臓の損傷がないとも考えられない。
車の中から世話になっている病院へ連絡するとそのまま裏口から晶を運ぶ。
連絡を受けた医療スタッフがストレッシャーと共に待機していた。車が到着するなり手際よく処置室へと向かう。運ばれていくストレッチャーの車輪の音と多くの足音、そして飛び交う指示や切迫した空気が二人を残したまま自動ドアの向こうへと消えていった。
どれぐらい時間が経過したのだろう……医師が二人の元へとやってきた。どうやら運良く急所は外れ、内臓は傷つけず筋肉だけを刃物が貫通したようだ。横にいたヤスも安堵の表情を浮かべている。
「問題ない……少しずれていれば危なかったぞ。縫合したからしばらくは安静にさせろよ。あと、元々体力が消耗していたようだ……血圧の低下はそれだろう。ショック症状じゃないから安心しろ」
高人の長年の友人であり医師の熊田が拳人の肩を叩く。
ヤスが看護師から晶の所持品を預かると晶のリュックから健康保険証等を探す。財布の中を見てみると健康保険証どころか免許証などの身分証が全く見当たらない。
紙幣と小銭、それにコンビニのレシートだけが財布に入っている。
「まさかとは思いましたが……。とりあえず実費で支払いをしてきます」
「頼む……若林の名で処理してくれ」
ヤスがその場を離れたタイミングで晶が処置室から病室へと移された。意識はなく青白い顔はそのままだが、そっと頰に触れると温もりを感じ安堵する。そのまま入院することになったが拳人はどうしても気になり付き添うことにした。
「安心できない……屋敷に戻っても気になって眠れないだけだ」
命を狙われたばかりだ。この病院といえど安心は出来ない。晶が個室に運ばれると拳人は晶の手に触れる。 何度も確かめても怖くなる。本当に生きているのか確認したかった。
晶が病室に戻ってきてからその動作ばかりを繰り返す拳人をヤスは見守っていた。痛々しい拳人の背中に心が痛む。
「若、少しお休みになられたほうが──」
「いや、いい……大丈夫だ」
ヤスの目から見ても大丈夫ではないのは晶ではなく拳人の方だった。病院に到着するまでの間ずっと拳人が震えていたことをヤスは見ていた。通り魔に襲われた母親と重ねて晶を見ているのだろう。
飲み物を買いに立ち上がったヤスを拳人が引き止める。
「ヤス、あれは、小鉄だったか?」
「…………」
まさかその事を今聞かれるとは思わずヤスが固まった。拳人はずっと気になっていた。確かにあの時ヤスは小鉄のことを違う名で呼んでいた。それに、話し方や表情も知っている小鉄ではなかった──まるで全くの別人だった。
「か──」
「え……」
拳人の鋭い視線に射抜かれヤスの瞳が揺れる。
「佳奈とは──誰だ?」
拳人は当時五歳だったが亡くなった頃の記憶は曖昧で今でも思い出すことはできない。それほど受け入れがたいことだったのだと思う。
記憶の中の小春はいつも笑顔で拳人を抱きしめていた。犯人の手がかりがなく時効を迎えてしまったが、拳人はいつか母親の無念を晴らすと心に決めていた。色々なツテを使い当時近辺で捕まった強盗や窃盗などを洗ってみたが、今のところ犯人に繋がる情報はない。
毎年命日が近付くと小春へ思いを馳せる。今年も小春の盃に酒を注ぐ。笑顔の写真を見て拳人は目を細めた。
「俺がいつか犯人を見つけるから……償わせるよ……母さん」
盃を傾けると拳人は一気に飲み干す。拳人が座敷に残っていた男達に声をかけ、自分の部屋へと戻っていく。ネクタイを外していると小鉄が出先から戻り部屋へとやってきた。
「戻りました。若、ジェイの事件で進展があったようです」
「ジェイか……」
「ええ、少し変わった遺体だったようで──弔われたような跡があったそうです」
「……殺されたのにか?」
拳人が訝しげな表情になる。今まで色々な事件があるが遺体を綺麗にするなんて聞いたこともない。三発も胸に打ち込んだ後でするようなことじゃない。
「あと──ん!……はぁ……!!」
話の途中で突然小鉄が胸を押さえたまま倒れこむ。どうやら上手く呼吸ができないようで胸を掻き毟る。目は大きく見開き小鉄自身突然の事に驚いているようだ。以前も倒れて病院に運ばれたことを思い出す。
「小鉄! おい! しっかりしろ!」
拳人の声に驚いたヤスが部屋へと飛び込んでくる。拳人の胸の中で苦しむ小鉄の姿にヤスの目が大きく開かれる。
「小鉄!? なんで……」
小鉄は身体を跳ねるように痙攣したかと思うとそのまま意識を手放した。小鉄の肩を掴み激しく揺らすがぐったりとしたまま動かない。
「クソ、まずい……」
病院へ運ぼうとヤスが立ち上がると小鉄がその腕をつかむ。小鉄の目が大きく開かれ二人を見据える。
「──大変よ! 晶が刺されたわ! 血が出てるの、あの子を助けて!!」
「どういう事だ!?」
突然小鉄が意味の分からない事を言い出した。どうも冗談を言っているようには見えない。戸惑う拳人に対してヤスは凄い剣幕で小鉄の手を握り返している。
「佳奈! 晶は、晶はどこにいる!」
「こっちよ!」
そのまま小鉄を追い裏口に向かって走り出す。裸足のまま中庭を通り抜けて裏口へ向かった。
ドアを開けると壁にもたれかかったまま気を失っている舎弟の男とその側に小さな体が横たわっているのが見える。
「──晶!」
ヤスが晶の体を起こすと顔が真っ白で血の気を失っている。拳人が血に染まった晶のシャツをめくると側腹部に刺し傷が見える。出血で腹回りが真っ赤に染まっていた。
「おい! しっかりしろ!」
咄嗟に拳人は晶の腹部を押さえて止血する。
傷口を圧迫する手が晶の血で染まっていく……拳人は震えていた。真っ白な晶の横顔が一瞬母親の死に顔と重なった。
か、母さん──。
ドクンと心臓が跳ねたかと思うと拳人はもう一方の手で晶の手を強く握った。その手は酷く冷たかった。
「死ぬな、頼むから……死ぬな」
「くそ……車を回せ! 急げ!」
ヤスが運転席に乗り込むと病院へと車を飛ばす。後部座席で拳人が絶えず晶に声をかけ続けていた。
「大丈夫だ、助かる……大丈夫だ」
晶の手首の脈は指先では測れなくなった。よほど血圧が下がっているのだろう。傷口からの出血は酷くなかったはずだが、内臓の損傷がないとも考えられない。
車の中から世話になっている病院へ連絡するとそのまま裏口から晶を運ぶ。
連絡を受けた医療スタッフがストレッシャーと共に待機していた。車が到着するなり手際よく処置室へと向かう。運ばれていくストレッチャーの車輪の音と多くの足音、そして飛び交う指示や切迫した空気が二人を残したまま自動ドアの向こうへと消えていった。
どれぐらい時間が経過したのだろう……医師が二人の元へとやってきた。どうやら運良く急所は外れ、内臓は傷つけず筋肉だけを刃物が貫通したようだ。横にいたヤスも安堵の表情を浮かべている。
「問題ない……少しずれていれば危なかったぞ。縫合したからしばらくは安静にさせろよ。あと、元々体力が消耗していたようだ……血圧の低下はそれだろう。ショック症状じゃないから安心しろ」
高人の長年の友人であり医師の熊田が拳人の肩を叩く。
ヤスが看護師から晶の所持品を預かると晶のリュックから健康保険証等を探す。財布の中を見てみると健康保険証どころか免許証などの身分証が全く見当たらない。
紙幣と小銭、それにコンビニのレシートだけが財布に入っている。
「まさかとは思いましたが……。とりあえず実費で支払いをしてきます」
「頼む……若林の名で処理してくれ」
ヤスがその場を離れたタイミングで晶が処置室から病室へと移された。意識はなく青白い顔はそのままだが、そっと頰に触れると温もりを感じ安堵する。そのまま入院することになったが拳人はどうしても気になり付き添うことにした。
「安心できない……屋敷に戻っても気になって眠れないだけだ」
命を狙われたばかりだ。この病院といえど安心は出来ない。晶が個室に運ばれると拳人は晶の手に触れる。 何度も確かめても怖くなる。本当に生きているのか確認したかった。
晶が病室に戻ってきてからその動作ばかりを繰り返す拳人をヤスは見守っていた。痛々しい拳人の背中に心が痛む。
「若、少しお休みになられたほうが──」
「いや、いい……大丈夫だ」
ヤスの目から見ても大丈夫ではないのは晶ではなく拳人の方だった。病院に到着するまでの間ずっと拳人が震えていたことをヤスは見ていた。通り魔に襲われた母親と重ねて晶を見ているのだろう。
飲み物を買いに立ち上がったヤスを拳人が引き止める。
「ヤス、あれは、小鉄だったか?」
「…………」
まさかその事を今聞かれるとは思わずヤスが固まった。拳人はずっと気になっていた。確かにあの時ヤスは小鉄のことを違う名で呼んでいた。それに、話し方や表情も知っている小鉄ではなかった──まるで全くの別人だった。
「か──」
「え……」
拳人の鋭い視線に射抜かれヤスの瞳が揺れる。
「佳奈とは──誰だ?」
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