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第一章
64.船越の謎
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『ほんまに合ってんの? こんな山奥』
『間違いない。前に船越組の組長を尾けたらここだった』
ジェイとマルは晶の仕事の手伝いで県境の寺に来ていた。マルが晶と出会う少し前に太一が一人で車を運転して出掛けたことがあり不審に思い尾行したらしい。
その時にこの寺に入ったのを見たようだが、山間にありお世辞にも手入れが行き届いている寺とは言えない……。林の中に寺があると言うよりは、寺の中に林があるようだ。
一体ここに何の用があったのだろうか。
とりあえず神聖な場所という事もあり二人は参拝する。ジェイは元々父親の影響もあり生前も参拝の機会があれば行ってきたが、マルは生前は幽霊の存在や神の存在を信じていなかったので全く機会がなかったらしい。
実際自身が霊になり慈しむ心が湧いてきたようだ。今では真剣に仏像に手を合わせている。
寺の周りは多くの霊がいて生前と変わらない様子で皆穏やかに過ごしているようだった。すれ違う度に皆会釈をして通り過ぎてあく。参拝を終え本堂から坂道を下っていくとそこは墓場だった。囲碁の目の様に墓石がきれいに並んでいる。二人はとりあえず墓石に刻まれた家名をひとつひとつ確認していく。
『おい、あったぞ』
ジェイが一際大きな墓石の前で止まる。そこには船越の名が刻まれていた。自分の先祖の墓に参拝するのになぜ側近も付けずに一人で来たのだろうか。ジェイは墓の後ろに回ると父親である先代の名とその前に母親と思われる名があった。随分と若いうちに亡くなったようだ。
『へぇ……組長もさみしい子供時代やったかもな……ってどした?』
マルを見ると難しい顔で墓石を見ている。ジェイがマルの視線の先を追うとマルはそっと墓石の年号を指で触れていた。
『同じだ……』
『陽子って名前が?』
『いや、亡くなった年がだよ。この陽子って人と俺たちと……』
『……あいつの母親に何かが起こったってことか?──マルはただの交通事故じゃなかったんか?』
『……まぁな』
どうやら二人は死んでからしばらくの間記憶が曖昧らしい。車ごとフェンスに突っ込んで死んだ事と、頭を強く打った事だけは覚えているらしい。
死に方によって遺体と幽体が離れて動ける様になるまでの過程が違う事はジェイも知っていた。マルは船越の墓に供えられていた小菊をやさしく撫でると小さく首を横に振る。
『実は、俺たちの命日は……組にとって特別な日なんだ──それはボンの母親が死んだ日でもあるからなんだ』
『若の母親も? そんな偶然……あるか?』
『偶然ではないかもしれない。あの日に何か起きたのかもしれない。ただ、俺たちが幽霊になった時には誰もあの日の事は話そうとしなかったんだ。俺たちも……知らない方がいいと思って黙っていたんだ』
『自分がなんで死んでもうたか知らんとか、ありえへんやろ』
『わかってる……けど、あれから組長やボンは変わってしまった。怖かった──ジェイ、組長には何も聞かないでくれ。組長は何も言わないがずっと俺たちに負い目を感じて生きてきたんだ。何もお話にならないのは、きっと……』
マルは言葉に詰まるとそのまま黙り込んでしまった。
『分かった……。とりあえず戻ろう』
二人が姿を消すと入れ替わる様に木の陰から人影が現れる。先程まで二人がいた船越家の墓石へと近づき静かに手を合わせる──。
陽子の文字の横に誉と刻まれている。どうやら三年前に亡くなっているようだ。その人物はその文字たちを指でなぞると立ち上がる。
『約束を守らなきゃダメか?──お前の息子の為にならんのは分かってるんだろう?』
葉巻に火をつけ何度か細かく吸うとようやく火の付き具合が安定した様だ。くるりと背を向けるとその人物は透けるように消えた。
『間違いない。前に船越組の組長を尾けたらここだった』
ジェイとマルは晶の仕事の手伝いで県境の寺に来ていた。マルが晶と出会う少し前に太一が一人で車を運転して出掛けたことがあり不審に思い尾行したらしい。
その時にこの寺に入ったのを見たようだが、山間にありお世辞にも手入れが行き届いている寺とは言えない……。林の中に寺があると言うよりは、寺の中に林があるようだ。
一体ここに何の用があったのだろうか。
とりあえず神聖な場所という事もあり二人は参拝する。ジェイは元々父親の影響もあり生前も参拝の機会があれば行ってきたが、マルは生前は幽霊の存在や神の存在を信じていなかったので全く機会がなかったらしい。
実際自身が霊になり慈しむ心が湧いてきたようだ。今では真剣に仏像に手を合わせている。
寺の周りは多くの霊がいて生前と変わらない様子で皆穏やかに過ごしているようだった。すれ違う度に皆会釈をして通り過ぎてあく。参拝を終え本堂から坂道を下っていくとそこは墓場だった。囲碁の目の様に墓石がきれいに並んでいる。二人はとりあえず墓石に刻まれた家名をひとつひとつ確認していく。
『おい、あったぞ』
ジェイが一際大きな墓石の前で止まる。そこには船越の名が刻まれていた。自分の先祖の墓に参拝するのになぜ側近も付けずに一人で来たのだろうか。ジェイは墓の後ろに回ると父親である先代の名とその前に母親と思われる名があった。随分と若いうちに亡くなったようだ。
『へぇ……組長もさみしい子供時代やったかもな……ってどした?』
マルを見ると難しい顔で墓石を見ている。ジェイがマルの視線の先を追うとマルはそっと墓石の年号を指で触れていた。
『同じだ……』
『陽子って名前が?』
『いや、亡くなった年がだよ。この陽子って人と俺たちと……』
『……あいつの母親に何かが起こったってことか?──マルはただの交通事故じゃなかったんか?』
『……まぁな』
どうやら二人は死んでからしばらくの間記憶が曖昧らしい。車ごとフェンスに突っ込んで死んだ事と、頭を強く打った事だけは覚えているらしい。
死に方によって遺体と幽体が離れて動ける様になるまでの過程が違う事はジェイも知っていた。マルは船越の墓に供えられていた小菊をやさしく撫でると小さく首を横に振る。
『実は、俺たちの命日は……組にとって特別な日なんだ──それはボンの母親が死んだ日でもあるからなんだ』
『若の母親も? そんな偶然……あるか?』
『偶然ではないかもしれない。あの日に何か起きたのかもしれない。ただ、俺たちが幽霊になった時には誰もあの日の事は話そうとしなかったんだ。俺たちも……知らない方がいいと思って黙っていたんだ』
『自分がなんで死んでもうたか知らんとか、ありえへんやろ』
『わかってる……けど、あれから組長やボンは変わってしまった。怖かった──ジェイ、組長には何も聞かないでくれ。組長は何も言わないがずっと俺たちに負い目を感じて生きてきたんだ。何もお話にならないのは、きっと……』
マルは言葉に詰まるとそのまま黙り込んでしまった。
『分かった……。とりあえず戻ろう』
二人が姿を消すと入れ替わる様に木の陰から人影が現れる。先程まで二人がいた船越家の墓石へと近づき静かに手を合わせる──。
陽子の文字の横に誉と刻まれている。どうやら三年前に亡くなっているようだ。その人物はその文字たちを指でなぞると立ち上がる。
『約束を守らなきゃダメか?──お前の息子の為にならんのは分かってるんだろう?』
葉巻に火をつけ何度か細かく吸うとようやく火の付き具合が安定した様だ。くるりと背を向けるとその人物は透けるように消えた。
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