霊とヤクザと統計学を侮るなかれ

菅井群青

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第一章 

52.凄腕情報屋

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 その頃……銀角は船越の屋敷の中庭に身を潜めていた。中の様子を伺おうとしたが、田崎の手下たちが屋敷を守っていてさすがの銀角も踏み込む隙がない。

『くそ──田崎のナイフさえなければな……』

 銀角は紫の光のナイフを思い出した。歪な形をしたその光に触れると驚くほど体が簡単に切れた。今まで姿を消した幽霊の情報屋たちがどうなったか分かった気がした。

 田崎が皆が恐れるなのか? あいつが──神、なのか?

 太一が縁側に現れた。いつもの服装ではなく浴衣姿で思いのほか幼くそれでいて儚い印象を受ける。工場跡であった悪魔のような表情とは違う。

 あれが、あの狂犬か?

 溜息をつき体を辛そうに動かしている。その横で田崎が立ってそれを眺めていた。

『すまない太一、少し使いすぎた』

「構わない、必要だったからな。暫くナイフは使うな」

 どうやら田崎のナイフは太一のものらしい。まさか……そのせいで衰弱してるのか?

『──まさか、代償って……』

『誰だっ!』

 どうやら見張りに見つかったようだ。すぐさま銀角は中庭から姿を消した。





「飛び降りた? 階段から?」

 拳人とヤスが信じられない様子で小鉄の話を聞いていた。丁度拳人が寝床に入ったタイミングで小鉄が屋敷へ戻ってきた。ヤスが心配そうに晶が痛がってなかったか、ケガはないかとしきりに小鉄に尋ねる。
 小鉄は会ってばかりの晶の心配をするヤスが面白くないのか不機嫌そうだ。

「兄貴、アイツは凄腕なんでしょ? 五メートルぐらいから飛び降りるなんて日常茶飯事なのかも」

「「五メートルだって!?」」

 拳人とヤスの声が重なった。
 電話ボックスを蹴りつけて着地した事を話すとヤスは徐ろに立ち上がり心配そうに右往左往し始めた。拳人は顎に手を置き固まっていた。二人の様子がおかしい事に小鉄は戸惑っていた。

「あの……指示通り尾行しましたけど、なんかまずかったですか?」

「いや、大丈夫だ。ご苦労だった」

 拳人はそういうと小鉄に下がるように言う。二人っきりになるとヤスが小さく息を吐く。

「……男顔負けですね。尾行から逃げるためにそんな無茶をするなんて思いませんでした……あの娘は、我々が思っているよりとんでもない人生を歩んできているのでしょうね」

 鼻の奥にツンとしたものを感じ、ヤスは鼻を啜る。

 拳人は晶がどういう生活をしているのか知るために小鉄たちに尾行するように命じていた。もし劣悪な環境にいるのならこの屋敷で生活してもらってもいいと思ってのことだった。

 危ない目に合わせる気はなかったのだが……。怖がらせてしまったようだな。

 会った時の儚い雰囲気と、危ない仕事ばかりを引き受けている所から怪しいとは思っていたが、晶は死に急いでいる感じがしていた。

 死──が怖くない女か。

 ヤスが部屋を出て行くと拳人は眠りについた。
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