25 / 116
第一章
25.恋
しおりを挟む「お兄さん、寄ってかないかい? いい娘いるよ!」
「……いや、結構だ」
さっきから何メートルか進むたびにこのやり取りがあり、いいかげんうんざりする。もちろん俺はこんな事をしにこんな街へ来たわけではない。
悩みがあるなら西へ向かいましょう。きっとあなたの答えが待っています
テレビで見た言葉を信じてこの歓楽街にやって来た。晩になり酔った連中も多く集まっているようだ。
以前からこの界隈に人生を占ってくれる女がいるという噂を聞いていた。正直行くかどうか悩んだが、メゾンのためだとここまで足を運んだ。
一体俺は何をしているんだか……。
こんな自分と友達になってくれたメゾンにどうしても幸せになってほしかった。占ったところでどうすることも出来ないのだが……。
スナックと風俗街が入り混じった路地のビルに小さな看板が見える。古びたビルだが小さな店が何店舗もひしめき合っている。
占いの館 らぶり
レザー調のお洒落なスタンド式の看板がドアのそばに置かれている。屋号はなんとも声に出すのも恥ずかしいが、どうやらここがそうらしい。細い通路の奥にも飲み屋があるようで拳人の肩に中年サラリーマンがぶつかり文句を言うため顔を上げた。
「ヒック……ぼうっと突っ立ってんじゃ──し、失礼しました!」
拳人と目が合うとすごい剣幕で立ち去っていく。これだから人混みに行くのは面倒臭い。拳人は覚悟を決めて店のドアを開ける。
顔を覗かせるとバーの様な薄暗い空間が広がっていた。部屋に入ると甘いお香の香りにむせそうになる。部屋の内装はクリスタルよりもより暗く、アジアンテイストでバリ島のような置物もたくさん置かれている。客は誰もおらず、それどころか人の気配すら感じられない。ジャズのBGMだけが響いている。
「こんにちわ、いらっしゃーい」
突然部屋に置かれたパーテーションからやたら胸元のあいた女が現れる。占い師にしてはチャラい感じが全身から出ている……絶対なんちゃって占い師だな。帰ろう。
「間違えました……」
拳人は帰ろうと振り返ると女はすごい力で腕を掴み部屋の椅子に無理やり座らせる。
「ちょっ……!?」
「イケメンなのに、随分と怖い顔ね」
俺の顔を見て怖じけずに話せる女は珍しい。すかさず向かいの席に腰掛けると女はなぜか前のめりでやる気満々だった。
「それで? 占いなんて無縁そうな人が何を見てほしいワケ?」
女は頬杖をつき拳人を上目遣いを使う。何度も瞬きを繰り返すが拳人は顔を背ける。
「……俺じゃない、俺の友達だ」
拳人は腕を組み諦めたような顔をする。この女にはどう頑張っても勝てそうにない。ここは当初の予定通り占ってもらうことにした。
「……へぇ? 詳しく、話してみてくれない?」
女は興味が沸いたらしくニッコリと微笑んでいた。
「へぇ……なるほどね……」
女は頬杖をつきながら話を聞いていた。時折言葉足りない部分は質問したりしていた。意外に人の話を聞く女だなと少し感心していたが、肝心の占いはどうなったのだろうか。
「話はいい。占いはいつするんだ?」
女はきょとんとした顔をしたかと思うと声を出して笑い出した。赤く塗られたネイルが俺の顔を指差す。
「今は占いは必要ないわ、必要なのは助言と背中を押すことよ」
さっぱりこの女が言う事を理解できないが、どうも俺が知りたい事をこの女は知っているらしい……。
「で、どうなんだ? 友達は幸せになれるのか?」
「まず、変えなきゃね……」
「変える……?」
「友達は好きな人よ」
「いや、そりゃ好きだけど」
「鈍ちんね、恋よ、恋! アンタが友達に恋してるの!」
女は長い髪を人差し指に絡ませ横目で拳人を見る。本気で呆れ返っているようだ。
「は? そんな訳──」
「あと、アンタは本当の意味でその友達の幸せを願ってない」
「…………」
「その気持ちはね男の嫉妬よ。最終的に好きだから幸せになってほしいっていうオチね……あまりにも不器用ね、見かけによらず」
「俺が、メゾンに恋してるって?」
「そうよ」
声に出した途端に拳人の顔が真っ赤になる。体を脈打つような感覚が襲って来て、おかしくなってしまったんじゃないかと戸惑う。拳人の様子を見て女は全てを見透かすような顔で微笑む。
「分かっちゃった?」
俺は、メゾンが好きなのか?
10
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
鬼の御宿の嫁入り狐
梅野小吹
キャラ文芸
▼2025.2月 書籍 第2巻発売中!
【第6回キャラ文芸大賞/あやかし賞 受賞作】
鬼の一族が棲まう隠れ里には、三つの尾を持つ妖狐の少女が暮らしている。
彼女──縁(より)は、腹部に火傷を負った状態で倒れているところを旅籠屋の次男・琥珀(こはく)によって助けられ、彼が縁を「自分の嫁にする」と宣言したことがきっかけで、羅刹と呼ばれる鬼の一家と共に暮らすようになった。
優しい一家に愛されてすくすくと大きくなった彼女は、天真爛漫な愛らしい乙女へと成長したものの、年頃になるにつれて共に育った琥珀や家族との種族差に疎外感を覚えるようになっていく。
「私だけ、どうして、鬼じゃないんだろう……」
劣等感を抱き、自分が鬼の家族にとって本当に必要な存在なのかと不安を覚える縁。
そんな憂いを抱える中、彼女の元に現れたのは、縁を〝花嫁〟と呼ぶ美しい妖狐の青年で……?
育ててくれた鬼の家族。
自分と同じ妖狐の一族。
腹部に残る火傷痕。
人々が語る『狐の嫁入り』──。
空の隙間から雨が降る時、小さな体に傷を宿して、鬼に嫁入りした少女の話。

虚弱なヤクザの駆け込み寺
菅井群青
恋愛
突然ドアが開いたとおもったらヤクザが抱えられてやってきた。
「今すぐ立てるようにしろ、さもなければ──」
「脅してる場合ですか?」
ギックリ腰ばかりを繰り返すヤクザの組長と、治療の相性が良かったために気に入られ、ヤクザ御用達の鍼灸院と化してしまった院に軟禁されてしまった女の話。
※なろう、カクヨムでも投稿
『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作
お茶をしましょう、若菜さん。〜強面自衛官、スイーツと君の笑顔を守ります〜
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
陸上自衛隊衛生科所属の安達四季陸曹長は、見た目がどうもヤのつく人ににていて怖い。
「だって顔に大きな傷があるんだもん!」
体力徽章もレンジャー徽章も持った看護官は、鬼神のように荒野を走る。
実は怖いのは顔だけで、本当はとても優しくて怒鳴ったりイライラしたりしない自衛官。
寺の住職になった方が良いのでは?そう思うくらいに懐が大きく、上官からも部下からも慕われ頼りにされている。
スイーツ大好き、奥さん大好きな安達陸曹長の若かりし日々を振り返るお話です。
※フィクションです。
※カクヨム、小説家になろうにも公開しています。
心の落とし物
緋色刹那
ライト文芸
・完結済み(2024/10/12)。また書きたくなったら、番外編として投稿するかも
・第4回、第5回ライト文芸大賞にて奨励賞をいただきました!!✌︎('ω'✌︎ )✌︎('ω'✌︎ )
〈本作の楽しみ方〉
本作は読む喫茶店です。順に読んでもいいし、興味を持ったタイトルや季節から読んでもオッケーです。
知らない人、知らない設定が出てきて不安になるかもしれませんが、喫茶店の常連さんのようなものなので、雰囲気を楽しんでください(一応説明↓)。
〈あらすじ〉
〈心の落とし物〉はありませんか?
どこかに失くした物、ずっと探している人、過去の後悔、忘れていた夢。
あなたは忘れているつもりでも、心があなたの代わりに探し続けているかもしれません……。
喫茶店LAMP(ランプ)の店長、添野由良(そえのゆら)は、人の未練が具現化した幻〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉と、それを探す生き霊〈探し人(さがしびと)〉に気づきやすい体質。
ある夏の日、由良は店の前を何度も通る男性に目を止め、声をかける。男性は数年前に移転した古本屋を探していて……。
懐かしくも切ない、過去の未練に魅せられる。
〈主人公と作中用語〉
・添野由良(そえのゆら)
洋燈町にある喫茶店LAMP(ランプ)の店長。〈心の落とし物〉や〈探し人〉に気づきやすい体質。
・〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉
人の未練が具現化した幻。あるいは、未練そのもの。
・〈探し人(さがしびと)〉
〈心の落とし物〉を探す生き霊で、落とし主。当人に代わって、〈心の落とし物〉を探している。
・〈未練溜まり(みれんだまり)〉
忘れられた〈心の落とし物〉が行き着く場所。
・〈分け御霊(わけみたま)〉
生者の後悔や未練が物に宿り、具現化した者。込められた念が強ければ強いほど、人のように自由意志を持つ。いわゆる付喪神に近い。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる