羽子板星

まみはらまさゆき

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第2章

(3)ある攻防

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あの父親との生活は、母親にとっては生きながらの地獄のような毎日だったに違いない。
・・・どうして母親は、そんなつまらない男なんかと一緒になったのか。

父親の死後は特に、それを強い疑問とともに考えることがあった。
ふたりが一緒にならなければ、牧雄自身はこの世にいなかったことにはなるのだけれど。

とにかく、両親の夫婦関係は父親が母親を一方的に隷従させて成り立っていた。
そしてそんな関係の中で、牧雄の心に影を落としたいくつかの出来事があった。

・・・

牧雄たち親子は、夜は3人が布団を並べて寝ていた。
いつも牧雄は父親の帰宅前に寝て、夜中に両親が布団に入る。

時どき何かただならない気配を感じて牧雄が目を覚ます事があったけれど、その度に牧雄は怖くて寝たふりをしていたのだった。
そんな時たいてい父親は酒臭い息を吐きながら母親の布団に入り込み、着ているものを脱がせようとしているようだった。

「駄目よ・・・牧雄が起きちゃう」
「寝てるだろ」
「それに今日は・・・」
「誤魔化すなよ、生理近いだろ」
「嫌よ」
「なんでだよ、どうしてだよ、夫婦だろ、いいじゃないかよ、毎度毎度同じことを言わせるなよ・・・」
「赤ちゃんなんて、もう産めないのに」
「大丈夫、俺を信じろよ。ちゃんと外で出してやるから」

そんなやりとりを延々と重ねながら、時には頑なな母親の態度に父親が根負けしてふて寝してしまい、また時には母親が不承不承受け入れるのだった。
母親が受け入れたときは、父親は母親にのしかかるようにして荒い息を吐きながらガクガクと腰を上下に動かす。

それは数分くらいの間の事だったろうが、息を荒げながら動く父親に対して母親は一言も発さず静かだった。
牧雄にとっては長い時間に感じられたその間、息を詰めながらその行為が早く終わることを祈っていた。

母親が父親に虐げられているように牧雄には思え、小さな胸は押しつぶされるように痛んだ。
牧雄にとって父親は悪い大人で、その父親が母親に強要している行為は悪い事、という印象が彼の胸に刻まれた。

だからどうして大人の男の人は、裸の女の人が出てくる雑誌や映画にあんなに夢中になるのか分からなかった。
彼が成長して、性に目覚める年頃になっても「セックス」というものは汚らわしい行為だという思いは彼の心からは拭い去れなかった。

それでも本能に由来する性的な欲求は抑えきれず、そして性的な雑誌や漫画を隠れ読みし、自慰行為にもふけったのだったが。
そしてその度ごとに、激しい自己嫌悪の念に苛まれるのだった。

だから、あの宵に彼が彰子にしてしまったこと・・・結局それは未遂に終わったのだけれど、そして彰子も赦してくれたのだけれど、それが彼に重い罪の意識を抱かせることになってしまった。
彼は常々(父親のような男にはなるまい)と強く思っていたのに、そして彰子こそ自分が守ってやらねばならないと日頃から心に決めていたのに、あんな蛮行に及んでしまった。

それからすぐに彰子が彼の目の前から消え去ってしまったからなおのこと、彼は抱え込んでしまった罪の意識を消化することもできずにずっと苦しむことになったのだ。
最後の最後まで彰子を守り通すことができなかった・・・そんな思いとともに。

・・・

そういえば小学生の頃に牧雄は、祖父母の家からの帰り道で母親に聞かれた事がある。

「お母さんと、おじいちゃんの家に引っ越す事になるかもしれない」

それは牧雄にとって、大切な彰子との別れを意味する。
だから彼は素直に嫌だと答えた。

それが離婚への流れを止めてしまったわけではないだろうし、以来その話が出ることはなく、牧雄にとってもすぐに忘れてしまったような小さな出来事だった。
とにかく結局両親は離婚などせず、酒とギャンブルに溺れ暴力を振るう父親との生活は続いていったのだった。

そんな生活と隣合わせであっても、彰子がすぐ近くにいる毎日の方が彼にとってはまだ幸せだったのだと思う。
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