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(1)イナカのバス停で出会った
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彼女いない歴16年の高校2年生である優太は、美少女の七海に生まれてはじめての告白というものをした。
こんなさえない自分に告白されたら、彼女はびっくりするかもしれない・・・という優太の心配に反して、七海は答えた。
「はい・・・付き合ってもいいです」
「本当? 本当に?」
願ってもない展開に舞い上がる優太。
しかし彼女のさらなる答えは、彼にとって複雑な意外さを伴っていた。
「はい・・・私、処女バージンじゃないけど、それでも良ければ」
「えっ?」
あまりに予想外の展開。
付き合いたいと思った相手が処女か処女でないか、処女でなかったらどうするのだとは考えたこともなかった優太。
それに、どちらかといえば清楚な目の前の美少女が処女ではないというのが信じられなかったのも、彼を混乱させた。
けれどもとにかく、「ありがとうございますっ!」と手を伸ばした。
七海も手を伸ばし、ふたりの手は重なり合わされた。
・・・そんなふたりが出会ったのは、ある年の夏休み。
ここで時間を少し遡ってみる。
その夏休みを前にして、優太は憂鬱だった。
彼の父親はこの春から台湾の工場に赴任している。
優太の夏休みに合わせ母親が父親のもとに長期滞在することになったが、はじめ優太は、自宅でひとりで自由気ままな夏休みを過ごすのかと思っていた。
しかし誰の目も届かないところで6週間もひとり暮らしというのは、許されなかった。
では北陸のK市で大学生活をしている姉のところへ・・・というのも向こうに拒否されて却下。
両親は知らないようだが、姉は前年のクリスマス前に彼氏ができたらしいから当然といえば当然。
母方の祖父母は祖父の定年記念のヨーロッパ旅行の予定があったし、結局は消去法で九州の父方の祖母の家に預けられることになった。
「なんでだよ」
そこで優太は反発した。
父方の祖母の住むK郡T町は彼が知る限りでいちばんのイナカ・・・彼にしてみれば辺境と言ってもいい。
2年か3年に1回、夏に墓参りで家族で行くことがあったが、空港からレンタカーで3時間、海に落ち込む崖沿いの道を行った先にある小さな港町だ。
「あんな電気も水道も無いようなイナカ誰が行くかよ!」
そんな彼の抵抗も虚しく、実際には電気も水道もあって4G電波も届く(※2019年時点)T町へ強制的に送り込まれることになった。
その直前に彼を無性にイラつかせたのは、台湾特集のムックやガイド本を見ながらウキウキしてばかりいる母親の姿。
しかも彼は見てしまった。
母親がスーツケースに詰め込む小物をうっかり出したままにしてある中に、コンドームの小箱があるのを。
(そんなもの現地で調達できるだろ、なんでわざわざ日本から持っていくんだよ・・・!)
本人たちにとっては美しいかもしれないが、息子の優太にとってはおぞましいだけの光景が彼の脳内に再生されてゲロ吐きそうになった。
彼は、それから必要事項以外は一切母親とは口を聞かなかった。
そして終業式の当日、午後の航空便で早くも優太は祖母の元へ。
空港からの中継地であるX市までは1日8本のリムジンバスで1時間50分。
そこから1日6本のバスでT町の中心部までは1時間あまり、さらに祖母の家までは1日3本のバスで20分・・・。
それではあんまりだと、祖母が愛車の赤いパッソを運転して空港まで迎えにきてくれた。
それでも長い道のりであるのに変わりはない。
道中、話好きの祖母からは質問攻めにされた。
わざとふてくされたようにつっけんどんな返事をする優太を、祖母は笑った。
「あなたのお父さんの、高校生くらいの頃にそっくり」
そこから始まった祖母とのイナカ暮らし。
とは言え祖母ももともとそこの土地の人間ではない。
むしろ生まれも育ちも県都のQ市の、どちらかといえば都会の人。
県職員だった祖父が定年後に実家をリフォームして、そこに一緒に戻ったのだった。
祖父は10年ほど前に趣味のマラソンのトレーニング中に急死してしまったが、祖母はその地に留まり続けて現在に至る。
祖母の家での朝食はトーストまたはシリアルとハムエッグ、そしてサラダという、彼のイメージしてきた「おばあちゃんの朝ごはん」とは程遠いもの。
・・・いや、彼にとっては大歓迎だったが。
その後の時間の使い方は、選択の余地などなかった。
祖母の家の周囲には10軒ほどの民家と、その何倍もの空き家と、その地の氏神様を祀る小さな神社と、過疎化高齢化によって半ば機能を果たさなくなった集会所、あとは棚田があるのみで、遊んだり時間を潰したりできるようなものはなにもない。
つまり、祖母の家しか居場所はない。
その祖母の家にはリビングダイニングにしかクーラーがないが、朝食の後は昼時まで祖母がテレビの番人みたいに画面に張り付いている。
しかも内容は朝ドラ→民放の情報ワイド→Netflixで韓流ドラマor海外ミステリーという流れがルーチン化してしまっており、あまり興味のない優太は仏壇のある8畳間で勉強かネット。
テーブルに座ると、庭先の樹を通して海が見える。
部屋の前も後ろも開け放せば海から吹く風が樹々の間を抜けてきて、そのまま8畳間を通り抜けていくのが涼しく心地よい。
宿題の他はタブレットで予備校のWeb講座。
外からは蝉の声くらいしか聞こえてこないなか、なぜか勉強は捗った。
午後はさすがに8畳間も暑くなってくるので、仕方なくNetflixを観る祖母の脇でゲームなど。
・・・というのも3日目には耐えられなくなった。
決定的なダメ押しとなった小さな事件・・・。
その日の午前、祖母のもとにネット通販の品物が届いた。
部屋着だったが、それを着てみた祖母は優太に見せて感想を求めた。
どう見ても若作りが過ぎるようにしか見えなかったが、正直なところをと祖母は言うので素直に答えた。
「ちょっと年齢に合ってないんじゃ・・・」
それを聞いた祖母は「やっぱり」と残念そうな顔になった。
しかし次いで出てきた言葉は優太と祖母とでそれぞれが持つ認識が・・・いやそれぞれが住む世界が根本的なところでズレどころでない断絶を生じさせていることを如実に示していた。
「私もまさか実物がこんな年寄りくさいものなんて思わなかったわぁ。ネット通販はこれだからダメね」
優太はすっかり心が折れてしまった。
その日は昼のバスに乗ってT町の中心部へ行くことにした。
町の中心部といっても、遊べる場所があるわけではない。
申し訳程度の商店街の他にはAコープとファミマとジョイフル(九州が本場のファミレス)があるだけ。
ただ、役場に隣接する文化ホールに併設の図書館が冷房が効いているとネット上のクチコミがあり、それに頼ることに。
地獄のような暑さと日差しの中、県道脇のバス停でバスを待つ。
「こんにちは」
暑さにめまいさえ覚え始めたその時、いきなり声をかけられた。
ハッとして声の方を見ると、白い日傘をさした白いワンピースに白い手提げかばんの女の子。
同じくらいの歳の頃に見えたその子の胸の膨らみに目がいってしまうのに気が付いた。
慌ててバスの来る方を見るふりをしながら返事。
「あ、こんにちは」
額や首筋の汗を拭いながら、彼は考えた。
ここでバスを待つこの子は誰だ?
集落のなかの未成年者は、神社近くの家に小学生を筆頭に保育園児までの4人きょうだいがいるだけのはずだった。
・・・となるとこの娘こも自分と同じような『異邦人』なのだろうか・・・?
それを聞こうにも、異性に対する免疫ができていない優太は話しかけることすらできない。
そのくせ、その娘が無性に気になり、ちらちら横目で見てしまう。
こんなイナカにおそろしく不似合いな、黒髪のポニーテールの美少女。
靴から日傘まで白いのに、髪を留めるリボンが目も覚めるような鮮やかな青色なのも美しい。
気になって、話しかけたいのに話しかけることができない・・・!
そんな悶々とした気持ちが頂点に達した時に、バスが・・・町の中心部を経由してその先のX市まで直通するバスが来た。
ふたり乗り込むと、他に乗客はいない。
前よりの右側の席に優太は座り、その反対側に美少女は座った。
このまま何も会話を交わさないままだのだろうか・・・優太にはそれがとてつもなく惜しいことに思われた。
せっかくのチャンスを逃してしまうのか・・・?
残念ながら彼のこれまでの16年あまりはそうやってチャンスを逃し続けてきた。
ところが美少女の方から声をかけてきてくれた。
「どこまで行くんですか?」
「・・・!」思わず唾を飲み込んだ。「・・・あのう、役場まで・・・図書館に」
チャンスの方から彼に転がり込んできたとしか思えない展開にドギマギしてしまい、汗が噴き出すのを感じながら答えた。
美少女は輝くような笑顔でさらに話を継いだ。
「私はX市まで。ところであなた、地元ここの人じゃないでしょう?」
「はい・・・お祖母ばあちゃんの家に・・・」
「そうなんですね。私も夏休みの間だけお祖父じいちゃんの家にいるんです。一緒ですね」
そう言って笑ったその時、彼女のスマホが短く鳴った。
LINEかなにかの着信があったようで、美少女は画面を凝視してから指先で何かを入力。
優太は(もうちょっと喋っていたかったな)と思いながら、窓の外を見た。
崖沿いのくねくねとした国道を走るバスの車窓からは、時おり真夏の海が見える。
海の輝き、その上の夏雲の輝きを眺めながら、優太の心のなかに涼しく爽やかな風が吹き抜けるのを感じた。
それは、美少女との出会いによるものだと強く感じていた。
しかも彼女は自分と同じように祖父母のもとに滞在しているらしいではないか。
でも・・・一瞬の出会いと別れになってしまうのだろうか・・・バスを降りたらもう二度と会えない他人になってしまうのだろうか・・・そう悶々とする優太だったが、また美少女の方から話しかけてきた。
「ところで、帰りもバスですか? だったらまた会えますね・・・私もまた今日中には戻ってこないといけないから」
「えっ・・・あっ・・・はい、帰りもバスなんです」
舞い上がってしまった優太をよそに、何が可笑しいのか手を口に当てて笑う美少女。
それからいろいろと訊かれ、いろいろと答えたがどう答えたのか、的確な答えだったのかは分からないくらいまでになってしまった優太。
バスが役場前に着いた時、バスを降りる彼に向かって首を傾げ、微笑みながら軽く手を降って見せた美少女・・・。
漫画で描くなら胸をズキュンと射抜かれてしまったような思いで、彼女を乗せたままのバスが国道を去っていくのを見送った。
こんなさえない自分に告白されたら、彼女はびっくりするかもしれない・・・という優太の心配に反して、七海は答えた。
「はい・・・付き合ってもいいです」
「本当? 本当に?」
願ってもない展開に舞い上がる優太。
しかし彼女のさらなる答えは、彼にとって複雑な意外さを伴っていた。
「はい・・・私、処女バージンじゃないけど、それでも良ければ」
「えっ?」
あまりに予想外の展開。
付き合いたいと思った相手が処女か処女でないか、処女でなかったらどうするのだとは考えたこともなかった優太。
それに、どちらかといえば清楚な目の前の美少女が処女ではないというのが信じられなかったのも、彼を混乱させた。
けれどもとにかく、「ありがとうございますっ!」と手を伸ばした。
七海も手を伸ばし、ふたりの手は重なり合わされた。
・・・そんなふたりが出会ったのは、ある年の夏休み。
ここで時間を少し遡ってみる。
その夏休みを前にして、優太は憂鬱だった。
彼の父親はこの春から台湾の工場に赴任している。
優太の夏休みに合わせ母親が父親のもとに長期滞在することになったが、はじめ優太は、自宅でひとりで自由気ままな夏休みを過ごすのかと思っていた。
しかし誰の目も届かないところで6週間もひとり暮らしというのは、許されなかった。
では北陸のK市で大学生活をしている姉のところへ・・・というのも向こうに拒否されて却下。
両親は知らないようだが、姉は前年のクリスマス前に彼氏ができたらしいから当然といえば当然。
母方の祖父母は祖父の定年記念のヨーロッパ旅行の予定があったし、結局は消去法で九州の父方の祖母の家に預けられることになった。
「なんでだよ」
そこで優太は反発した。
父方の祖母の住むK郡T町は彼が知る限りでいちばんのイナカ・・・彼にしてみれば辺境と言ってもいい。
2年か3年に1回、夏に墓参りで家族で行くことがあったが、空港からレンタカーで3時間、海に落ち込む崖沿いの道を行った先にある小さな港町だ。
「あんな電気も水道も無いようなイナカ誰が行くかよ!」
そんな彼の抵抗も虚しく、実際には電気も水道もあって4G電波も届く(※2019年時点)T町へ強制的に送り込まれることになった。
その直前に彼を無性にイラつかせたのは、台湾特集のムックやガイド本を見ながらウキウキしてばかりいる母親の姿。
しかも彼は見てしまった。
母親がスーツケースに詰め込む小物をうっかり出したままにしてある中に、コンドームの小箱があるのを。
(そんなもの現地で調達できるだろ、なんでわざわざ日本から持っていくんだよ・・・!)
本人たちにとっては美しいかもしれないが、息子の優太にとってはおぞましいだけの光景が彼の脳内に再生されてゲロ吐きそうになった。
彼は、それから必要事項以外は一切母親とは口を聞かなかった。
そして終業式の当日、午後の航空便で早くも優太は祖母の元へ。
空港からの中継地であるX市までは1日8本のリムジンバスで1時間50分。
そこから1日6本のバスでT町の中心部までは1時間あまり、さらに祖母の家までは1日3本のバスで20分・・・。
それではあんまりだと、祖母が愛車の赤いパッソを運転して空港まで迎えにきてくれた。
それでも長い道のりであるのに変わりはない。
道中、話好きの祖母からは質問攻めにされた。
わざとふてくされたようにつっけんどんな返事をする優太を、祖母は笑った。
「あなたのお父さんの、高校生くらいの頃にそっくり」
そこから始まった祖母とのイナカ暮らし。
とは言え祖母ももともとそこの土地の人間ではない。
むしろ生まれも育ちも県都のQ市の、どちらかといえば都会の人。
県職員だった祖父が定年後に実家をリフォームして、そこに一緒に戻ったのだった。
祖父は10年ほど前に趣味のマラソンのトレーニング中に急死してしまったが、祖母はその地に留まり続けて現在に至る。
祖母の家での朝食はトーストまたはシリアルとハムエッグ、そしてサラダという、彼のイメージしてきた「おばあちゃんの朝ごはん」とは程遠いもの。
・・・いや、彼にとっては大歓迎だったが。
その後の時間の使い方は、選択の余地などなかった。
祖母の家の周囲には10軒ほどの民家と、その何倍もの空き家と、その地の氏神様を祀る小さな神社と、過疎化高齢化によって半ば機能を果たさなくなった集会所、あとは棚田があるのみで、遊んだり時間を潰したりできるようなものはなにもない。
つまり、祖母の家しか居場所はない。
その祖母の家にはリビングダイニングにしかクーラーがないが、朝食の後は昼時まで祖母がテレビの番人みたいに画面に張り付いている。
しかも内容は朝ドラ→民放の情報ワイド→Netflixで韓流ドラマor海外ミステリーという流れがルーチン化してしまっており、あまり興味のない優太は仏壇のある8畳間で勉強かネット。
テーブルに座ると、庭先の樹を通して海が見える。
部屋の前も後ろも開け放せば海から吹く風が樹々の間を抜けてきて、そのまま8畳間を通り抜けていくのが涼しく心地よい。
宿題の他はタブレットで予備校のWeb講座。
外からは蝉の声くらいしか聞こえてこないなか、なぜか勉強は捗った。
午後はさすがに8畳間も暑くなってくるので、仕方なくNetflixを観る祖母の脇でゲームなど。
・・・というのも3日目には耐えられなくなった。
決定的なダメ押しとなった小さな事件・・・。
その日の午前、祖母のもとにネット通販の品物が届いた。
部屋着だったが、それを着てみた祖母は優太に見せて感想を求めた。
どう見ても若作りが過ぎるようにしか見えなかったが、正直なところをと祖母は言うので素直に答えた。
「ちょっと年齢に合ってないんじゃ・・・」
それを聞いた祖母は「やっぱり」と残念そうな顔になった。
しかし次いで出てきた言葉は優太と祖母とでそれぞれが持つ認識が・・・いやそれぞれが住む世界が根本的なところでズレどころでない断絶を生じさせていることを如実に示していた。
「私もまさか実物がこんな年寄りくさいものなんて思わなかったわぁ。ネット通販はこれだからダメね」
優太はすっかり心が折れてしまった。
その日は昼のバスに乗ってT町の中心部へ行くことにした。
町の中心部といっても、遊べる場所があるわけではない。
申し訳程度の商店街の他にはAコープとファミマとジョイフル(九州が本場のファミレス)があるだけ。
ただ、役場に隣接する文化ホールに併設の図書館が冷房が効いているとネット上のクチコミがあり、それに頼ることに。
地獄のような暑さと日差しの中、県道脇のバス停でバスを待つ。
「こんにちは」
暑さにめまいさえ覚え始めたその時、いきなり声をかけられた。
ハッとして声の方を見ると、白い日傘をさした白いワンピースに白い手提げかばんの女の子。
同じくらいの歳の頃に見えたその子の胸の膨らみに目がいってしまうのに気が付いた。
慌ててバスの来る方を見るふりをしながら返事。
「あ、こんにちは」
額や首筋の汗を拭いながら、彼は考えた。
ここでバスを待つこの子は誰だ?
集落のなかの未成年者は、神社近くの家に小学生を筆頭に保育園児までの4人きょうだいがいるだけのはずだった。
・・・となるとこの娘こも自分と同じような『異邦人』なのだろうか・・・?
それを聞こうにも、異性に対する免疫ができていない優太は話しかけることすらできない。
そのくせ、その娘が無性に気になり、ちらちら横目で見てしまう。
こんなイナカにおそろしく不似合いな、黒髪のポニーテールの美少女。
靴から日傘まで白いのに、髪を留めるリボンが目も覚めるような鮮やかな青色なのも美しい。
気になって、話しかけたいのに話しかけることができない・・・!
そんな悶々とした気持ちが頂点に達した時に、バスが・・・町の中心部を経由してその先のX市まで直通するバスが来た。
ふたり乗り込むと、他に乗客はいない。
前よりの右側の席に優太は座り、その反対側に美少女は座った。
このまま何も会話を交わさないままだのだろうか・・・優太にはそれがとてつもなく惜しいことに思われた。
せっかくのチャンスを逃してしまうのか・・・?
残念ながら彼のこれまでの16年あまりはそうやってチャンスを逃し続けてきた。
ところが美少女の方から声をかけてきてくれた。
「どこまで行くんですか?」
「・・・!」思わず唾を飲み込んだ。「・・・あのう、役場まで・・・図書館に」
チャンスの方から彼に転がり込んできたとしか思えない展開にドギマギしてしまい、汗が噴き出すのを感じながら答えた。
美少女は輝くような笑顔でさらに話を継いだ。
「私はX市まで。ところであなた、地元ここの人じゃないでしょう?」
「はい・・・お祖母ばあちゃんの家に・・・」
「そうなんですね。私も夏休みの間だけお祖父じいちゃんの家にいるんです。一緒ですね」
そう言って笑ったその時、彼女のスマホが短く鳴った。
LINEかなにかの着信があったようで、美少女は画面を凝視してから指先で何かを入力。
優太は(もうちょっと喋っていたかったな)と思いながら、窓の外を見た。
崖沿いのくねくねとした国道を走るバスの車窓からは、時おり真夏の海が見える。
海の輝き、その上の夏雲の輝きを眺めながら、優太の心のなかに涼しく爽やかな風が吹き抜けるのを感じた。
それは、美少女との出会いによるものだと強く感じていた。
しかも彼女は自分と同じように祖父母のもとに滞在しているらしいではないか。
でも・・・一瞬の出会いと別れになってしまうのだろうか・・・バスを降りたらもう二度と会えない他人になってしまうのだろうか・・・そう悶々とする優太だったが、また美少女の方から話しかけてきた。
「ところで、帰りもバスですか? だったらまた会えますね・・・私もまた今日中には戻ってこないといけないから」
「えっ・・・あっ・・・はい、帰りもバスなんです」
舞い上がってしまった優太をよそに、何が可笑しいのか手を口に当てて笑う美少女。
それからいろいろと訊かれ、いろいろと答えたがどう答えたのか、的確な答えだったのかは分からないくらいまでになってしまった優太。
バスが役場前に着いた時、バスを降りる彼に向かって首を傾げ、微笑みながら軽く手を降って見せた美少女・・・。
漫画で描くなら胸をズキュンと射抜かれてしまったような思いで、彼女を乗せたままのバスが国道を去っていくのを見送った。
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